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第三章 第一節 魔法少女

第288話 デミリアンを出動させてもらいたい!

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 会議は紛糾した。

 ミサトが招集した緊急会議は20分しか猶予がなかったにもかかわらず、ウルスラ総司令以下、主だった者は全員顔をそろえた。
 武漢に現われた亜獣が、電撃で多くの人々を感電死させられたことを皆知らされていたが、すぐにでも実際に亜獣を迎え撃つべきだという意見と、対策をしっかりと講じた上で戦うべきだという意見に分かれた。
 戦いに前のめりなのは、レイとユウキ、クララ。慎重なのは、春日リンとアルだった。いつもならアスカが一番の音頭取りになるはずだったが、自機のセラ・ヴィーナスがまだ整備中で出撃できないと知って、ふてくされていた。どちらの肩を持つようなことはしないらしい。

「ファースト・コンタクトだけでも難しいでしょうか。初回で倒せるなどと過信しているわけではありません。ですが、せっかくの機会を逃したくありません」
 ユウキが立ちあがって皆に訴えかけていた。だがリンもアルもゆずらなかった。
 リンの主張は単純明快だった。万が一強力な電撃を受けた時、デミリアンを失う(あやうく死ぬと口を滑らせかけた)可能性があるということだった。
 アルは技術的な部分を争点にあげた。『超絶緑体Z』をデミリアンのからだに塗布することで、電撃攻撃にあるていどは対応可能だが、亜獣の消失時間までには、間に合わせられない、ということだった。
 前回の会議同様、相変わらずウルスラ総司令もカツライ司令も会議を仕切ろうとしないのでパイロットと各責任者の対立だけがエスカレートしていく。前回の会議に参加できなかったアイダ李子は、ブライトの時とちがう混乱っぷりにただ困惑しているだけだったし、本来なら代わりに場を仕切るのを買って出てもいいはずのミライは、関心なさげに対立を眺めている。

「ぼくはぜひ、デミリアンを出動させてもらいたい」
 おどろいたことに対立に杭を打ち込んできたのはエドだった。おずおずと手を挙げこそすれ、発言はしないだろうと思っていたヤマトは思わずエドの方を見た。
 エドは立ちあがっていた。立ったまま正面に座っている『素体』の金田日を睨みつけていた。その表情に鬼気せまる決意がこもっているようだった。おそらく数千キロ離れたニューヨークで、金田日の本体のほうはじっとり汗をかいているにちがいない。
「エド、それはなぜよ?」
 不満げな声が春日リンからあがった。
「先日、金田日教授から指摘された人間サイズの亜獣らしき物体。ぼくらはここ数週間、その脅威を迎え撃つ方法を模索してきました。だが、実際に現われたのは今まで通りの40メートル級の亜獣でした」
 金田日があからさまに不満げな顔をして鼻をならした。
「だが、そのせいで逆に、今回の亜獣の前に人間サイズの亜獣もどきの物体が現れた、ということが気になりました。もしかしたら、そのもどきは今回の亜獣『イオージャ』の一部ではないかという疑問が生じたのです。それがそうなのか切り分けをするためには、一度『イオージャ』と直接コンタクトしてもらうしかない」
「エドの言う通りです……」
 その意見はよほど金田日の琴線きんせんに触れたのだろう。先ほどの膨れっ面はどこへやらとばかりに金田日がエドの意見をあとおししはじめた。
「われわれ亜獣研究家はより精度の高い情報を得ることで、そのあとの戦い方、弱点などを見極めることができるんです。とくにデミリアンと接触したときの反応は、もっとも貴重です。エドが指摘したように、人間サイズの亜獣の正体を見破る突破口になるかもしれないです」
「はじめ君。あなたたちのための情報収集のために、あの子たちを危険に……、いえ、あの子たちとパイロットたちを危険にさらすわけにはいかないわ」
 リンは思わず喰ってかかったが、アスカのしらじらとした視線に気づいて、あわてて訂正を加えた。
「金田日教授、エド、わりぃけどな。電磁波とか電撃はイケねぇわ。あれは一瞬で計器類をおしゃかにしてくれる。まだミサイルとが溶解液のほうがマシってもんだ」
 アルがエドと金田日の意見に対抗した。 

 すると、ふいにミサトが口をひらいた。
「で、時間がどんどんなくなってくけど、結論はでるのよね?」
 ミサトの質問の形をした脅し文句に、みな押し黙った
 ヤマトはみんなの様子に目を配った。はなっから参加していないも同然のアスカは別として、それ以外の面々は誰もがどうしたものかという思案していた。いや、そういうふりをして様子を伺っていた。
 ミライが手元で操っていたシート型端末から目をはずした。何か進言しようというのか、立ちあがろうとした。
「アル、超耐電液の蒸着はあとどれくらいかかる?」
 ヤマトが機先を制して問いかけた。
「すまねぇが、あと8時間はかかる。なにせ全部で四体だからな」
「もし二体だけなら時間を縮まるかい?」
「二体っちゃあ?。どういうことかい?」
「二体だけに集中して作業をおこなえば、何時間でスタンバイ可能かを聞いている」
「タケル、今一番作業が進んでいるのは、サターンとジュピターだ。この2体だけに集中させれば4時間でなんとかなる……」
「決まりだ!」
 ヤマトはバンと机を叩くと立ちあがって、ユウキとクララの方を見た。
「アル。じゃあ、レイのセラ・サターンとのクララのセラ・ジュピターだけに蒸着させてくれ。二人だけ先行させる」
「ちょっと待ってちょうだい、タケル君。間に合えばいいって問題じゃないでしょう。その超耐電液が電撃を防げなかった時どうするの。電撃で装置が壊れるのは仕方ないけど、デミリアンをうしなったら…; 」
「大丈夫さ、リンさん。レイもクララもそんなヘマはしない」
 ヤマトはウルスラとミサトの方に顔をむけた。
「アビス・サーバーでの戦いっぷりをみたから、ぼくはクララの実力もまちがいないとわかった。まかせて大丈夫だ」
 ちょっとわざとらしいアピールだったので、ウルスラ司令の顔がすこし曇ったのがわかった。が、ヤマトは気にせず、あっけらかんとした口調で続けた。

「それに、たとえ二機と二人をうしなったところで、まだ三機残ってる……」

「まったく問題ない」
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