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第三章 第一節 魔法少女
第287話 この亜獣は電撃を放つの
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亜獣出現——。
その第一報に八冉未来は、小躍りするような気分でいた。
ウルスラ総司令、カツライ・ミサト司令が着任してからすでに四カ月以上も経っていたが、ミライはその時のだまし討ちされたという気分をいまだに引き摺っていた。
いやそれだけなら我慢できる。
自分だってそんなことに拘泥するほど青臭いわけでもないし、その程度の嫌な経験ならそれなりに積んでいる。
だが彼らはそのあとも、まるで副司令などはお飾りであるかのように、ことさらに無視してきた。いや彼らはわざと無視しているのではない。それはわかっている。
だから気にいらない——。
人間サイズの亜獣への対応策は粛々と進められていたが、自分はその会議に出席すらさせてもらえなかった。草薙大佐が適任なのは理解していたが、あくまで現場責任者としてであって、その武器の製造スケジュール、部品や原料の調達等、全体の統括までを任せたことには、すくなからず抵抗があった。
それをミサトに聞きただすと、「副司令官は司令官の指示を部下に周知させて、従わせるのが仕事でしょう。指示がないなら、余計なことはしなくていいわぁ」ということだった。その指示を円滑にはかるための、事前の意思の疎通も必要ないらしい……。
つまりは、言われたことだけやれ、ということなのだろう。
だが、待ちにまった本番のときが訪れた。
さぁ、あなたがたのお手なみ拝見——。
よほど自分らの『指示』に自信があるということならば、実戦でそれを見せてもらうことにしようではないか。
こちらは数体とはいえ、実際に亜獣戦を経験したという自負がある——。
「カツライ司令。亜獣出現です。中華人民合衆国、胡北州・武漢市です」
テレパス・ラインで脳内に直接連絡をとると、突然網膜デバイスにカツライ・ミサトの姿が投影されてきた。彼女は迷惑そうな表情をしていた。
「ヤシナ副司令。そんなにいきらなくても、こっちにもアラート入ってきてるわよ」
だがこちらをぞんざいにあしらったあと、ミサトはむせかえって咳き込んだ。
やはり……。
緊張している——。
さぁ、洗礼の時間をはじめるわよー。
「現時点での被害は、建物や道路への被害はほぼありません」
ミライはあくまで事務的な口調で報告した。
「ですが、死傷者2000人でています」
予想通りミサトが目をむいた。網膜に映った画面から飛び出してくるのではないかという勢いで、カメラのほうへ近づいてくる。
「ちょっとそれ、どういうこと?。建物の被害がないのに、なんでそんなに死傷者がでてるのよぉ?」
「電撃だそうです」
「電撃ってどういうこと?」
会話に突然割り込んできたのはレイだった。司令官級の『秘匿回線』に勝手に入ってきたのだ。
「ちょっとレイ、勝手に入ってこないで!」
「ミライ、パイロットの最上位権限を使うのは軍紀違反ではないはず……」
ミライは心底腹が立った。今からミサトをなぶりながら追いつめてやろうとした矢先に、機先を削がれたという思いだった。
「いいから電撃について教えて」
レイはミライの叱責など聞いていなかった。こちらの都合を慮ろうともせず答えを待っていた。こうなるとテコでも言うことをきかないだろう。
「この亜獣は電撃を放つの。みなそれに感電死させられたのよ」
「それはおかしい……」
レイが間髪をおかずに疑問を呈してきた。ミライはすぐさま同意した。
「ええ、そうよ、レイ。あなたの言うようにおかしいわ。街中はどこも『超絶縁素材がつかわれていて、電気という電気は遮断されるから感電するはずがない」
ミサトがその見解に、首を小刻みにふって合点しながら言った。
「たしかにそうよね。『ワイヤレス電気』の発明以来、誤発火や誤通電を防ぐため、市街地はすべての素材に『超絶縁素材』を使うように国際法で義務づけられているもんね」
「ええ、カツライ司令。速報ベースですが、今回の亜獣の一回の電撃で一度に五百人もが命を落としたそうです」
「そんなぁ。『超絶縁素材』がなかったとしても、真横に落雷が落ちたりしなきゃ、感電でそうそう死ぬ、なんてことはないはずよぉ」
「ですが、生体チップの信号のAI解析では、まちがいなく感電死とのことです」
「ど、どう対応すればいいのよぉ」
「エドの分析によると、亜獣のこちらの活動時間は約20時間とのことです。まだかなりの時間がありますが、どうしますか?」
「ミライ、『超絶縁素材』を無効にして感電させる力があるなら、私たちもデミリアンも感電させられるわ」
レイが冷静に危険性を指摘してきたが、ミライはそれを制した。
「レイ、それは検討済みよ。今、さらに不導性の高い『超絶縁素材Z』をデミリアンに蒸着できないかアルに打診してみたところ。今、春日博士と協議しているから、もうすぐ結論がでるはず」
そうレイに言いながら、ミライはミサトの映しだされた画面を見た。ミサトは苛立ちを顔にあらわし、何か言いたげに口をゆがめた。ミライはそれに先んじて、早口で詫びをいれた。
「申し訳ありません。司令」
ミサトの口がすぼまった。ことばを飲み込んだのがわかった。
「喫緊の事態でしたので、司令や総司令の了承も得ないまま、考えうる限りの事態を想定した手配を独断でしてしまいました。どうかご容赦下さい」
ミライはわざとらしく頭を下げた。海外生活が長いミサトには日本流の頭を垂れるという謝罪方法は奇異に映るだろうが、ここは『日本』である、という思いをあらためて強く印象づけられれば、多少は『嫌な気分』になってくれるはずだ。
「あ、まぁ……、いえ、ヤシナ副司令。よく手を回してくれたと思うわ。さすがの手際ね。ではこれから20分後に作戦会議をひらくから、担当セクションの責任者、パイロット全員を集めておいてね」
「了解しました」
映像のむこうのミサトが準備のためあわただしく動きだろうとした。ミライはその動きしなを逃さず声をあげた。
「ああ、カツライ司令、言い忘れていました」
ミサトは服を着替えるために、胸元の『指紋認証式・自動着脱ボタン』に手をかけていたが、その手をとめてこちらに目をむけた。
ミライはどうでもいい情報を、思いっきりもったいぶって言った。
「エドが、この亜獣の名前を『イオージャ』と命名いたしました」
その第一報に八冉未来は、小躍りするような気分でいた。
ウルスラ総司令、カツライ・ミサト司令が着任してからすでに四カ月以上も経っていたが、ミライはその時のだまし討ちされたという気分をいまだに引き摺っていた。
いやそれだけなら我慢できる。
自分だってそんなことに拘泥するほど青臭いわけでもないし、その程度の嫌な経験ならそれなりに積んでいる。
だが彼らはそのあとも、まるで副司令などはお飾りであるかのように、ことさらに無視してきた。いや彼らはわざと無視しているのではない。それはわかっている。
だから気にいらない——。
人間サイズの亜獣への対応策は粛々と進められていたが、自分はその会議に出席すらさせてもらえなかった。草薙大佐が適任なのは理解していたが、あくまで現場責任者としてであって、その武器の製造スケジュール、部品や原料の調達等、全体の統括までを任せたことには、すくなからず抵抗があった。
それをミサトに聞きただすと、「副司令官は司令官の指示を部下に周知させて、従わせるのが仕事でしょう。指示がないなら、余計なことはしなくていいわぁ」ということだった。その指示を円滑にはかるための、事前の意思の疎通も必要ないらしい……。
つまりは、言われたことだけやれ、ということなのだろう。
だが、待ちにまった本番のときが訪れた。
さぁ、あなたがたのお手なみ拝見——。
よほど自分らの『指示』に自信があるということならば、実戦でそれを見せてもらうことにしようではないか。
こちらは数体とはいえ、実際に亜獣戦を経験したという自負がある——。
「カツライ司令。亜獣出現です。中華人民合衆国、胡北州・武漢市です」
テレパス・ラインで脳内に直接連絡をとると、突然網膜デバイスにカツライ・ミサトの姿が投影されてきた。彼女は迷惑そうな表情をしていた。
「ヤシナ副司令。そんなにいきらなくても、こっちにもアラート入ってきてるわよ」
だがこちらをぞんざいにあしらったあと、ミサトはむせかえって咳き込んだ。
やはり……。
緊張している——。
さぁ、洗礼の時間をはじめるわよー。
「現時点での被害は、建物や道路への被害はほぼありません」
ミライはあくまで事務的な口調で報告した。
「ですが、死傷者2000人でています」
予想通りミサトが目をむいた。網膜に映った画面から飛び出してくるのではないかという勢いで、カメラのほうへ近づいてくる。
「ちょっとそれ、どういうこと?。建物の被害がないのに、なんでそんなに死傷者がでてるのよぉ?」
「電撃だそうです」
「電撃ってどういうこと?」
会話に突然割り込んできたのはレイだった。司令官級の『秘匿回線』に勝手に入ってきたのだ。
「ちょっとレイ、勝手に入ってこないで!」
「ミライ、パイロットの最上位権限を使うのは軍紀違反ではないはず……」
ミライは心底腹が立った。今からミサトをなぶりながら追いつめてやろうとした矢先に、機先を削がれたという思いだった。
「いいから電撃について教えて」
レイはミライの叱責など聞いていなかった。こちらの都合を慮ろうともせず答えを待っていた。こうなるとテコでも言うことをきかないだろう。
「この亜獣は電撃を放つの。みなそれに感電死させられたのよ」
「それはおかしい……」
レイが間髪をおかずに疑問を呈してきた。ミライはすぐさま同意した。
「ええ、そうよ、レイ。あなたの言うようにおかしいわ。街中はどこも『超絶縁素材がつかわれていて、電気という電気は遮断されるから感電するはずがない」
ミサトがその見解に、首を小刻みにふって合点しながら言った。
「たしかにそうよね。『ワイヤレス電気』の発明以来、誤発火や誤通電を防ぐため、市街地はすべての素材に『超絶縁素材』を使うように国際法で義務づけられているもんね」
「ええ、カツライ司令。速報ベースですが、今回の亜獣の一回の電撃で一度に五百人もが命を落としたそうです」
「そんなぁ。『超絶縁素材』がなかったとしても、真横に落雷が落ちたりしなきゃ、感電でそうそう死ぬ、なんてことはないはずよぉ」
「ですが、生体チップの信号のAI解析では、まちがいなく感電死とのことです」
「ど、どう対応すればいいのよぉ」
「エドの分析によると、亜獣のこちらの活動時間は約20時間とのことです。まだかなりの時間がありますが、どうしますか?」
「ミライ、『超絶縁素材』を無効にして感電させる力があるなら、私たちもデミリアンも感電させられるわ」
レイが冷静に危険性を指摘してきたが、ミライはそれを制した。
「レイ、それは検討済みよ。今、さらに不導性の高い『超絶縁素材Z』をデミリアンに蒸着できないかアルに打診してみたところ。今、春日博士と協議しているから、もうすぐ結論がでるはず」
そうレイに言いながら、ミライはミサトの映しだされた画面を見た。ミサトは苛立ちを顔にあらわし、何か言いたげに口をゆがめた。ミライはそれに先んじて、早口で詫びをいれた。
「申し訳ありません。司令」
ミサトの口がすぼまった。ことばを飲み込んだのがわかった。
「喫緊の事態でしたので、司令や総司令の了承も得ないまま、考えうる限りの事態を想定した手配を独断でしてしまいました。どうかご容赦下さい」
ミライはわざとらしく頭を下げた。海外生活が長いミサトには日本流の頭を垂れるという謝罪方法は奇異に映るだろうが、ここは『日本』である、という思いをあらためて強く印象づけられれば、多少は『嫌な気分』になってくれるはずだ。
「あ、まぁ……、いえ、ヤシナ副司令。よく手を回してくれたと思うわ。さすがの手際ね。ではこれから20分後に作戦会議をひらくから、担当セクションの責任者、パイロット全員を集めておいてね」
「了解しました」
映像のむこうのミサトが準備のためあわただしく動きだろうとした。ミライはその動きしなを逃さず声をあげた。
「ああ、カツライ司令、言い忘れていました」
ミサトは服を着替えるために、胸元の『指紋認証式・自動着脱ボタン』に手をかけていたが、その手をとめてこちらに目をむけた。
ミライはどうでもいい情報を、思いっきりもったいぶって言った。
「エドが、この亜獣の名前を『イオージャ』と命名いたしました」
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