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第三章 第一節 魔法少女

第270話 ウルスラ総司令とカツライ司令がお見えです

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 ダイニングルームに入ると、テーブルの上に色彩やかな料理が並んでいた。
「いつもより品数が多い」
 椅子に座りながらレイが呟くと、キッキンから飲み物を運んできた沖田十三が言った。
「えぇ、クララさまにご提案いただきましてね。皆様、ここのところ無理をされてますから、『脳』に良いという品を何品か、追加いたしました」
 そこへ奥から大皿を持った、クララ・ゼーゼマンが姿をあらわした。
「みなさん、おはようございます。朝からすこしボリューミーかもしれませんが、どれも脳の疲れをとる栄養素が含まれてますので、ぜひ」
 ワンピースにエプロンを身につけただけの簡素な姿だったが、クララはとても華やいで見えた。得意なことを楽しげにやっているせいなのかもしれない、とヤマトは感じ入った。
「お見事ね、クララ。前々時代的なことをやってのけるなんて」
「あら、どういうことですの?」
 クララはアスカの皮肉めいた口調に気づかないのか、素直に尋ねた。
「まー、あざといわね。男の心をつかむには胃袋をつかめって作戦でしょ。何世紀前の考え方よ」
「そうなんですか?。初めて聞きました。でも、アスカさん、わたしはおいしいものを、ただみんなに食べてもらいたいだけですのよ。そう、あなたにもね」
「おいしいもの?。この二十五世紀に、まともな食べ物なんかありやしないでしょ。しょせん『培養』や『代用』や『人口』や『合成』って頭につく食材ばっかり。『健康長寿』優先で味のことなんて、二の次なんだから。餌よ、餌!」
「では、おいしい餌をどうぞ召し上がれ」
「ふん、餌は餌でしょうがぁ!」
 そう言うなり、アスカは目の前の『エッグ・ベネディクト』をフォークで突き刺し、口のなかにほうりこんだ。が、二、三回、咀嚼そしゃくするやいなや、噛むのをとめて、思わず呟いた。
「これ……、おいしい……」
 思わず口から漏れでた飾らない感想を耳にして、クララの表情がはじけた。とても魅力的な笑顔がこぼれる。
「クララ様の腕前には感服しました。手際もよいですし、食材も無駄にしない」
 横から沖田十三が心から感服した様子で、クララを評した。あまりにも心負けしている口ぶりに感じたので、ヤマトは十三をいたわるように声をかけた。
「十三、きみの料理も相当うまいよ」
「エルさま、ありがとうございます」
 十三がうやうやしく頭をさげた。
「ですが、わたくしの料理とクララさまの料理では、『食』へのアプローチがまったく違うようです。わたくしの料理は、貧弱な素材をソースやスパイスで、引き立てようとするものですが、クララさまは、貧弱な素材のなかにある、わずかな良い部分を生かすために、味を落とす部分を、調味料でうまくうち消そうとするものです。まるでフレンチと和食ほどに料理への取り組みがちがっていて、大変勉強になりました」
 十三の正確かつ精緻な分析を横で聞いていて、すこしばかり面映おもはゆくなったのか、クララはパン、パン、と二回手を打ってから全員に言った。
「さぁ、冷めてしまいますわ。食べて下さいな」

 それを合図に各々が食事をとりはじめた。
 ヤマトはスープで口元を潤してから、『エッグ・ベネディクト』を切り分けた。それを口元に運ぼうとしたところで、室内に『AI秘書』の声が響いた。

【ヤマト・タケルさま、パイロットルーム入口に来客がお見えです。お通ししますか?】
「なによぉ、こんな朝っぱらから。せわしないわね」
 アスカは口いっぱいに頬張ったままで、文句をたれた。
 ヤマトはフォークの先を口に入れかけたまま、手をとめて大声で尋ねた。
「誰だ?」

【ウルスラ総司令とカツライ司令です】
 ダイニングの室内の空気が、一気にピリついたのを感じた。
 ユウキとクララの動きがとまっている。緊張しているのがすぐにわかった。だが、あとのふたりはなんとも思ってないらしい。レイはまったく気にかけることなくはパンを千切っていたし、アスカは食材を切るミートナイフを皿に強く押しつけ、カチンという大きな音をこれ見よがしにたててみせた。

「待ってもらえ。食事中だ」
 ヤマトが空中にむかって声をあげると、ユウキとクララが驚いた表情をヤマトにむけた。
なにか言いたいのかもしれない。口元が心なしか震えているように見える。
 が、その前に『AI秘書』が意見をしてきた。
【ヤマト・タケルさま。おふたりはヤマトさまの上長です。しかも緊急……】

「待ってもらえ!」
 ヤマトが強い口調で『AI秘書』をたしなめた。

「パイロットルームは、たとえ何人なんぴとであっても、権限のある者の許可なく入れない決まりになってる……」
 ユウキがヤマトの顔をじっと見ていた。その顔には「信じられない」と書いているのがすぐにわかった。自分の上長、しかも遥かに上の位の者に礼を欠く、というのは、ユウキの『ルールブック』のなかには書いてないのだろう。
 ヤマトはユウキを見つめ返してから続けた。
「たとえ、それが大統領や総理大臣……、総司令官であってもだ」

『AI秘書』が黙り込んだ。
 ヤマトは口元のフォークを、口のなかに運んだ。今のやりとりですこし冷えてしまったが、アスカが言うとおり、とてもおいしかった。

【待つそうです】
 ふいに『AI秘書』が発した答えに、ユウキとクララが呆気にとられた表情を浮べていた。アスカは当然という面持ちを崩さないまま、レイはまったく興味がなさそうな様子で、食事をもくもくと続けていた。

「クララ、おいしいよ。さすがだ……」

「さぁ、きみも食事をしておいたほうがいい。食事のあとに、少々ヘヴィな腹ごなしにつきあってもらわねばならなくなったからね」
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