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第三章 第一節 魔法少女
第269話 みんなで囲む食卓
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およそ、たっぷり眠れた、とは言いがたかった。
ヤマト・タケルはおおきく欠伸をすると、目をこすりながら、ベッドから起きあがった。
ヴァーチャル空間とはいえ、昨晩は有利に戦闘を進めていながら、ピンチに次ぐピンチにみまわれた。しかも、その揚げ句に『ドラゴンズ・ボール』を相手に奪われるという失態をおかした。
寝不足で疲労困ぱいしていたはずなのに、なかなか寝つけなかったのも、その悔しい気持ちゆえだった。
いや、それだけではない——。
パイロットエリアのラウンジに降りていくと、ほのかに甘い匂いがただよってきた。ヤマトはそれが十三が作る『エッグ・ベネディクト』のものだとすぐにわかった。
「やけに甘ったるい匂いだね」
階段の上を見あげると、すでに制服を着こんでいるユウキが立っていた。パジャマ姿のヤマトとは大違いだ。登校初日で気負っているのかもしれないが、むしろユウキらしいというべきかもしれなかった。
ここまる二日間行動を共にして、ヤマトは彼がそういう性格なのだと理解していた。
「エッグ・ベネディクトだよ」
「エッグ・ベネディクト?。それにしてはやけに甘ったるく感じるのだが……」
ユウキは階段を降りる歩をとめた。
「新種のクローン・エッグを使ってるからよ。どっかの国の医薬品局のAIが発見した新しい健康成分をたっぷり配分してるらしいの」
朝っぱらからハイテンションで、不満をまき散らしてきたのは、もちろんアスカだった。
「ーったく、みんなどんだけ健康で長生きしたいのか知んないけど、卵そのものがお菓子みたいな味になってンのはうんざり」
アスカはそう言いながら、階段を一段飛ばしで降りてくると、階段の途中で立ちどまったままのユウキに一瞥だけくれて、そのままラウンジに降りてきた。
「おはよう。タケル」
アスカは満面の笑みをむけてきたが、ヤマトにはまだ体調を気遣われているようで、ちょっと気おくれした。ヤマトは自分でも素っ気ないかな、という返事をおざなりに返した。
気持ちがこもってない返事にアスカは不満げに口元をつきだして、軽く睨みつけるような目をむけたが、それ以上は要求してこなかった。
「で、タケルはなぜ気分が悪くなったの?」
ラウンジの中央にあるソファに座っていたレイが、脇から歯に衣着せぬ言い方で蒸し返してきた。いつから座っていたのかわからならなかったが、まるで狙いすましていたかのようなタイミングに、ヤマトは虚をつかれそうになった。が、間髪をいれず返事を返した。
「レイ、ぼくだって体調くらい崩すさ。でももう大丈夫だ。寝たら治った」
「ほんとうに?」
そう言って立ちあがると、ヤマトを正面から見つめてから訊いてきた。
「身体の不調ならいい。でも、もし心の不調なら、アイダ先生の診察を受けて。そんなことで次の戦い、あなたを死なせるわけにはいかないから……」
「大丈夫。心配ない」
ヤマトは余裕に満ちた笑みをつくってみせた。
「そう。ならいい」
レイは、不承不承とも受けとれる返事をした。
「あら、レイ、タケルを気づかってくれてンの、うれしいけど、ご心配なく。あたしがちゃんと見てるわ」
アスカがそう言うと、レイは自分の胸元に手をやってほっとひと息をついた
「よかった。クララも見てくれるっていうから、わたしもすこし安心」
その時、ダイニングの方から皆を呼ぶ声が聞こえた。
「みなさん、朝食ができましたわ」
クララの声だった。とたんにアスカの表情が曇る。
「ちょっとぉ、なんでクララがキッテンにいるわけぇ」
「クララ、朝から十三を手伝ってた。料理は得意だからって……」
レイが悪気もなく、さらりとアスカの不機嫌に油を注いだ。
ヤマトはアスカの気嫌がわるくなるのを予感して、思わずユウキの方に顔をむけた。ユウキはその徴候を察して、軽く肩をすくめてみせた。
だが、アスカは怒りを爆発させるかわりに、やけに達感した口ぶりで吐き捨てた。
「まっ、クララにはそれがお似合いだわね。優秀なパイロットにも、銃使いにもなれないんだから、ちっとは自分の長所を生かしてもらわないとね」
ヤマト・タケルはおおきく欠伸をすると、目をこすりながら、ベッドから起きあがった。
ヴァーチャル空間とはいえ、昨晩は有利に戦闘を進めていながら、ピンチに次ぐピンチにみまわれた。しかも、その揚げ句に『ドラゴンズ・ボール』を相手に奪われるという失態をおかした。
寝不足で疲労困ぱいしていたはずなのに、なかなか寝つけなかったのも、その悔しい気持ちゆえだった。
いや、それだけではない——。
パイロットエリアのラウンジに降りていくと、ほのかに甘い匂いがただよってきた。ヤマトはそれが十三が作る『エッグ・ベネディクト』のものだとすぐにわかった。
「やけに甘ったるい匂いだね」
階段の上を見あげると、すでに制服を着こんでいるユウキが立っていた。パジャマ姿のヤマトとは大違いだ。登校初日で気負っているのかもしれないが、むしろユウキらしいというべきかもしれなかった。
ここまる二日間行動を共にして、ヤマトは彼がそういう性格なのだと理解していた。
「エッグ・ベネディクトだよ」
「エッグ・ベネディクト?。それにしてはやけに甘ったるく感じるのだが……」
ユウキは階段を降りる歩をとめた。
「新種のクローン・エッグを使ってるからよ。どっかの国の医薬品局のAIが発見した新しい健康成分をたっぷり配分してるらしいの」
朝っぱらからハイテンションで、不満をまき散らしてきたのは、もちろんアスカだった。
「ーったく、みんなどんだけ健康で長生きしたいのか知んないけど、卵そのものがお菓子みたいな味になってンのはうんざり」
アスカはそう言いながら、階段を一段飛ばしで降りてくると、階段の途中で立ちどまったままのユウキに一瞥だけくれて、そのままラウンジに降りてきた。
「おはよう。タケル」
アスカは満面の笑みをむけてきたが、ヤマトにはまだ体調を気遣われているようで、ちょっと気おくれした。ヤマトは自分でも素っ気ないかな、という返事をおざなりに返した。
気持ちがこもってない返事にアスカは不満げに口元をつきだして、軽く睨みつけるような目をむけたが、それ以上は要求してこなかった。
「で、タケルはなぜ気分が悪くなったの?」
ラウンジの中央にあるソファに座っていたレイが、脇から歯に衣着せぬ言い方で蒸し返してきた。いつから座っていたのかわからならなかったが、まるで狙いすましていたかのようなタイミングに、ヤマトは虚をつかれそうになった。が、間髪をいれず返事を返した。
「レイ、ぼくだって体調くらい崩すさ。でももう大丈夫だ。寝たら治った」
「ほんとうに?」
そう言って立ちあがると、ヤマトを正面から見つめてから訊いてきた。
「身体の不調ならいい。でも、もし心の不調なら、アイダ先生の診察を受けて。そんなことで次の戦い、あなたを死なせるわけにはいかないから……」
「大丈夫。心配ない」
ヤマトは余裕に満ちた笑みをつくってみせた。
「そう。ならいい」
レイは、不承不承とも受けとれる返事をした。
「あら、レイ、タケルを気づかってくれてンの、うれしいけど、ご心配なく。あたしがちゃんと見てるわ」
アスカがそう言うと、レイは自分の胸元に手をやってほっとひと息をついた
「よかった。クララも見てくれるっていうから、わたしもすこし安心」
その時、ダイニングの方から皆を呼ぶ声が聞こえた。
「みなさん、朝食ができましたわ」
クララの声だった。とたんにアスカの表情が曇る。
「ちょっとぉ、なんでクララがキッテンにいるわけぇ」
「クララ、朝から十三を手伝ってた。料理は得意だからって……」
レイが悪気もなく、さらりとアスカの不機嫌に油を注いだ。
ヤマトはアスカの気嫌がわるくなるのを予感して、思わずユウキの方に顔をむけた。ユウキはその徴候を察して、軽く肩をすくめてみせた。
だが、アスカは怒りを爆発させるかわりに、やけに達感した口ぶりで吐き捨てた。
「まっ、クララにはそれがお似合いだわね。優秀なパイロットにも、銃使いにもなれないんだから、ちっとは自分の長所を生かしてもらわないとね」
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