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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第266話 盗まれたデータはもうひとつある
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五人が『マインド・アウト』して、現実世界で最初に知覚したのは『ホット・ミルク』のまろやかな香りだった。
ヤマトはアスカの無茶な要求に、沖田十三が迅速に対応してくれたことに感謝した。だが、寝入りばなに暖かい飲み物を飲んだからと言って、速やかに眠れるとは思えなかった。それほどまでに、あの時のことが、尾をひいている。だが、それを今、みんなに悟られるわけにはいかない。
「エルさま、どうぞ」
沖田十三が目の前にティーカップを差し出してきた。ヤマトはそれを受け取ると、反射的に口元に寄せた。甘すぎない心地よい香りが鼻をくすぐる。
「おいしい……」
クララが、いの一番に、味の感想を口にした。アスカはそれに反抗するように口元を曲げてなにも発しようともしなかったし、レイは相変わらず、咽に流し込んでいるという感じだった。
「信じられないな。わたしたちが『マインド・イン』してから三時間ちょっとしか過ぎてないとは……」
ユウキが室内の時計を見あげながら、嘆息まじりに言うと、クララが追随した。
「えぇ。本当に。わたしも丸一日以上、あそこにいた気分ですわ」
「そう?。わたしはあっと言う間だった」
レイがぼそりと言った。
「は、レイ。あんたは大活躍してたから、楽しかったんでしょうね。あたしはずっと待機させられていたから、退屈で仕方なかったわよ」
「大活躍?。わたし活躍してたの?」
「ちょっとぉ、勘弁してよね。あんたが、ドラゴン操って弩級戦艦沈めたでしょうがぁ」
「そう……。一部しか覚えてない……」
「はぁ?」
「アスカくん。あれをやったのはレイくんだけではないんだ。何度か『 』君がでてきてね」
ユウキがレイへ助け船を出した。
「おかげで、わたしは、ドラゴンに喰われて、胴体から真っ二つに切断されて、銃弾に撃ち抜かれて、船で特攻させらて……と、ずいぶんな目にあったよ」
「なるほどね」
アスカは『 』の名前がでてきて、合点が言ったようだった。が、すぐにヤマトのほうに向き直ると、ティーカップ片手に詰め寄ってきた。
「で、タケル。どうして『ドラゴンズ・ボール』を諦めても、なんとかなるって言ってたの?。教えて」
アスカの胸がこちらに触れそうになるほど近づかれて、ヤマトは思わずうしろに一歩下がった。
「そうですわ。ユウキさんもレイさんも知ってて、わたしたち二人だけが聞かされてませんでした」
クララがアスカを後押しする。
ヤマトはひと息つくと、ユウキとレイに目配せしてから言った。
「盗まれたデータは、もうひとつある」
アスカが息を飲んだ。いつもなら脊髄反射的に喰ってかかるはずで、ヤマトもそれに身構えていただけに、すこし予想外の反応だった。
「うそでしょ……」
「ぼくらが、いや、レイがあの輸送船に乗り込んだ時点で、すでに『視覚』のデータが奪われていた。ディスポーザブルタイプの『素体』を使った連中だ。だが、どこの誰かはわからない。さっき『霊覚』のデータを国連軍に横取りされたのは手痛い失敗だけど、だからと言って、国連軍も7つ揃えられたわけじゃない」
「じゃあ、なに?。あたしとクララが空中で必死にダンスを踊っている時、すでにどこの誰ともわからないヤツラに、兄さんのデータを持ち逃げされていたっていうわけ?」
沸々と憤りが湧き上がってきたのか、アスカの語気が荒くなっていた。
「あぁ。すくなくともそのデータが、そいつらの手にあるうちは、国連軍は、リョウマのデータの追体験は試みることができない」
「だったら、なぜ、急いで『グレーブヤード・サイト』に潜ったんですの」
やはりアスカ同様、このことを知らされてなかったクララが憤りを口にした。
「奪ったやつらが、こちらのデータも奪いにくるかもしれない、という懸念があったからだ」
「なぜ、その泥棒たちが、ユウキさんが隠したデータが、『グレーブヤード・サイト』にあるとわかるんです?。追いかけられっこないでしょう」
「それが、わかるのだよ。クララくん」
「どうやって?」
「あのとき、わたしが、奪われたほうの『視覚』データと『霊覚』のデータの絶対番地をリンクさせた。だから『視覚』データがどこに行ったかを追尾できたが、逆にこちらの『霊覚』のデータを『グレーブヤード・サイト』に落とし込んだのも察知された……」
「じゃあ、アンタ、それ、どこにあンのかわかってるの?」
アスカが疑心暗鬼まるだしで
「ある程度は……」
「どこにあンのよ」
ユウキはヤマトのほうに目配せをしてきた。その事実をここで伝えていいのかの許可を求めている。ヤマトは無言のまま軽く頷いた。
「おそらく、『グランディス』に奪われた……」
アスカとクララが顔を見合わせた。ふたりはそれがどういう意味かがわかっているということだった。だが、レイはそれを知らないようだった。
「ユウキ、その『グランディス』ってなに?」
「レイ、あんた、ボカぁ。グランディスって言えば、『マフィア』とか『ヤクザ』とか『カルテル』とか一度は壊滅した昔の犯罪組織を復活して、統合したやばい国際的組織でしょうがぁ」
「その犯罪集団がなぜ、リョウマのデータを奪う必要あるの?」
「それはわからない。だけど『グランディス』は、違法なドラッグを資金源にしてるって聞く。もしかしたらそれ絡みのものかもしれない……」
ヤマトは憶測を口にしたくはなかったが、レイにはとりあえずでも合点してもらう必要があった。
「じゃあ、リョウマのデータは犯罪に流用される、ってこと?」
「可能性はある」
「嘘でしょ、タケル。あたし、嫌よ。兄さんのデータがそんなことに使われるの。どうするつもりよぉ」
ヤマトは空になったティーカップをもったまま、おおきく欠伸をしすると涙が滲んだ。アスカがその態度に呆気に取られているのがわかった。
「アスカ、すまない。それはあとで考えよう。こんな眠たい頭でいいアイディアが浮かぶとも思えない」
「確かにそうだけど……」
ヤマトは滲んだ涙を拭うと、全員を見渡して言った。
「みんな、今回『ドラゴンズ・ボール』奪回失敗のリカバリーは必ずやる。だから覚悟しておいて欲しい……」
「たぶん、次は巨大犯罪組織『グランディス』と全面対決だ」
作者より------------------------------------------------------------
このエピソードで描かれた「電幽霊」戦。
お楽しみいただけましたでしょうか。
この電幽霊が発生することになった基地局喪失を描いた作品「サイバシスト[PSYBER EXORCIST]」をアップしました。この話の500年近く前(今より近未来)におきた事故によって発生した電幽霊を退治する霊媒師の話です。1エピソードだけですが、前日譚、ぜひお楽しみください。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/77553068/560387518
ヤマトはアスカの無茶な要求に、沖田十三が迅速に対応してくれたことに感謝した。だが、寝入りばなに暖かい飲み物を飲んだからと言って、速やかに眠れるとは思えなかった。それほどまでに、あの時のことが、尾をひいている。だが、それを今、みんなに悟られるわけにはいかない。
「エルさま、どうぞ」
沖田十三が目の前にティーカップを差し出してきた。ヤマトはそれを受け取ると、反射的に口元に寄せた。甘すぎない心地よい香りが鼻をくすぐる。
「おいしい……」
クララが、いの一番に、味の感想を口にした。アスカはそれに反抗するように口元を曲げてなにも発しようともしなかったし、レイは相変わらず、咽に流し込んでいるという感じだった。
「信じられないな。わたしたちが『マインド・イン』してから三時間ちょっとしか過ぎてないとは……」
ユウキが室内の時計を見あげながら、嘆息まじりに言うと、クララが追随した。
「えぇ。本当に。わたしも丸一日以上、あそこにいた気分ですわ」
「そう?。わたしはあっと言う間だった」
レイがぼそりと言った。
「は、レイ。あんたは大活躍してたから、楽しかったんでしょうね。あたしはずっと待機させられていたから、退屈で仕方なかったわよ」
「大活躍?。わたし活躍してたの?」
「ちょっとぉ、勘弁してよね。あんたが、ドラゴン操って弩級戦艦沈めたでしょうがぁ」
「そう……。一部しか覚えてない……」
「はぁ?」
「アスカくん。あれをやったのはレイくんだけではないんだ。何度か『 』君がでてきてね」
ユウキがレイへ助け船を出した。
「おかげで、わたしは、ドラゴンに喰われて、胴体から真っ二つに切断されて、銃弾に撃ち抜かれて、船で特攻させらて……と、ずいぶんな目にあったよ」
「なるほどね」
アスカは『 』の名前がでてきて、合点が言ったようだった。が、すぐにヤマトのほうに向き直ると、ティーカップ片手に詰め寄ってきた。
「で、タケル。どうして『ドラゴンズ・ボール』を諦めても、なんとかなるって言ってたの?。教えて」
アスカの胸がこちらに触れそうになるほど近づかれて、ヤマトは思わずうしろに一歩下がった。
「そうですわ。ユウキさんもレイさんも知ってて、わたしたち二人だけが聞かされてませんでした」
クララがアスカを後押しする。
ヤマトはひと息つくと、ユウキとレイに目配せしてから言った。
「盗まれたデータは、もうひとつある」
アスカが息を飲んだ。いつもなら脊髄反射的に喰ってかかるはずで、ヤマトもそれに身構えていただけに、すこし予想外の反応だった。
「うそでしょ……」
「ぼくらが、いや、レイがあの輸送船に乗り込んだ時点で、すでに『視覚』のデータが奪われていた。ディスポーザブルタイプの『素体』を使った連中だ。だが、どこの誰かはわからない。さっき『霊覚』のデータを国連軍に横取りされたのは手痛い失敗だけど、だからと言って、国連軍も7つ揃えられたわけじゃない」
「じゃあ、なに?。あたしとクララが空中で必死にダンスを踊っている時、すでにどこの誰ともわからないヤツラに、兄さんのデータを持ち逃げされていたっていうわけ?」
沸々と憤りが湧き上がってきたのか、アスカの語気が荒くなっていた。
「あぁ。すくなくともそのデータが、そいつらの手にあるうちは、国連軍は、リョウマのデータの追体験は試みることができない」
「だったら、なぜ、急いで『グレーブヤード・サイト』に潜ったんですの」
やはりアスカ同様、このことを知らされてなかったクララが憤りを口にした。
「奪ったやつらが、こちらのデータも奪いにくるかもしれない、という懸念があったからだ」
「なぜ、その泥棒たちが、ユウキさんが隠したデータが、『グレーブヤード・サイト』にあるとわかるんです?。追いかけられっこないでしょう」
「それが、わかるのだよ。クララくん」
「どうやって?」
「あのとき、わたしが、奪われたほうの『視覚』データと『霊覚』のデータの絶対番地をリンクさせた。だから『視覚』データがどこに行ったかを追尾できたが、逆にこちらの『霊覚』のデータを『グレーブヤード・サイト』に落とし込んだのも察知された……」
「じゃあ、アンタ、それ、どこにあンのかわかってるの?」
アスカが疑心暗鬼まるだしで
「ある程度は……」
「どこにあンのよ」
ユウキはヤマトのほうに目配せをしてきた。その事実をここで伝えていいのかの許可を求めている。ヤマトは無言のまま軽く頷いた。
「おそらく、『グランディス』に奪われた……」
アスカとクララが顔を見合わせた。ふたりはそれがどういう意味かがわかっているということだった。だが、レイはそれを知らないようだった。
「ユウキ、その『グランディス』ってなに?」
「レイ、あんた、ボカぁ。グランディスって言えば、『マフィア』とか『ヤクザ』とか『カルテル』とか一度は壊滅した昔の犯罪組織を復活して、統合したやばい国際的組織でしょうがぁ」
「その犯罪集団がなぜ、リョウマのデータを奪う必要あるの?」
「それはわからない。だけど『グランディス』は、違法なドラッグを資金源にしてるって聞く。もしかしたらそれ絡みのものかもしれない……」
ヤマトは憶測を口にしたくはなかったが、レイにはとりあえずでも合点してもらう必要があった。
「じゃあ、リョウマのデータは犯罪に流用される、ってこと?」
「可能性はある」
「嘘でしょ、タケル。あたし、嫌よ。兄さんのデータがそんなことに使われるの。どうするつもりよぉ」
ヤマトは空になったティーカップをもったまま、おおきく欠伸をしすると涙が滲んだ。アスカがその態度に呆気に取られているのがわかった。
「アスカ、すまない。それはあとで考えよう。こんな眠たい頭でいいアイディアが浮かぶとも思えない」
「確かにそうだけど……」
ヤマトは滲んだ涙を拭うと、全員を見渡して言った。
「みんな、今回『ドラゴンズ・ボール』奪回失敗のリカバリーは必ずやる。だから覚悟しておいて欲しい……」
「たぶん、次は巨大犯罪組織『グランディス』と全面対決だ」
作者より------------------------------------------------------------
このエピソードで描かれた「電幽霊」戦。
お楽しみいただけましたでしょうか。
この電幽霊が発生することになった基地局喪失を描いた作品「サイバシスト[PSYBER EXORCIST]」をアップしました。この話の500年近く前(今より近未来)におきた事故によって発生した電幽霊を退治する霊媒師の話です。1エピソードだけですが、前日譚、ぜひお楽しみください。
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