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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦

第260話 ユウキはふと、もっと愉快な作戦を思いついた

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 弩級戦艦の乗組員が驚愕しているだろうことは、ユウキには手に取るようにわかった。
 特にウルスラ大将とカツライ・ミサト中将の驚きは格別だろう。
 おそらくウルスラのいつも人を睥睨へいげいしているような薄ら笑いは消え失せてるはずだ。もしかしたら椅子からおもわず、とび出して立ちすくんでいるかもしれない。
 カツライ・ミサトはまだ強気の、余裕の表情ができているだろうか——。
 焦りを募らせて支離滅裂な命令をまき散らしていたり、手をつかねるあまり、頭の中のデータベースを、いたずらにひっかき回しているかもしれない。
 どちらにしてもユウキには大変痛快だった。
 自分はレイと別人格の『 』くうはくには大変な目に遭わされたのだ。すこしはほかの人々にも、その役回りを担ってもらわねば不公平というものだ。

 レイはユウキのサーベルの先にクラーケンの肉を刺して、それをドラゴンの鼻先に垂らすことで、ドラゴンを自在に制御していた。何百年も前からあることわざ『馬の鼻先に人参をぶらさげる』をドラゴンでやってのけている。
 しかもそのドラゴンの鼻先の肉の匂いに釣られてか、群がるように五匹ものドラゴンが周りを取り囲みはじめていた。
「きゃははは、なのデス」
 『 』くうはくのはしゃぐ声が聞こえてきた。

 そうか、やはりこんなアクロバテックな作戦は、レイではなく、『 』くうはくのものか……。
 ユウキはふと、もっと『愉快』な作戦を思いついた。初任務のタケルたちとの戦いの時に、散々パワハラまがいの命令を押しつけられたのだ。利子をつけて払ってもらっていいだろう。
『 』くうはくくん。ドラゴンを第一艦橋に突撃させることはできないか?」
「もちろん、できるのデス」
「ならば頼む。主砲が右弦の方に旋回しはじめている。こちらを撃ち落とすつもりだ」
「了解なのデス」
「重機関銃には注意したまえ。それだけでもドラゴンを仕留めるには充分な火力がある」
 そう忠告したとたん、右舷の重機関銃の攻撃がドラゴンに向けて放たれた。『 』くうはくがドラゴンのからだを器用に旋回させて、その攻撃範囲からいったん離れる。

『 』くうはくくん、援護射撃をする」
 弩級戦艦ほどの威力はないが、こちらの偵察艦にも重機関砲が一砲塔二門ある。
「砲撃手。前方の戦艦にむけて撃て!」
 ユウキは威勢よく叫んだが、何の反応もなかった。砲撃手の方へ目をむける。そこにさきほど、蛙の化物二匹を相手に一緒に戦ったタマネギ顔の兵士が座っていた。玉ねぎ顔の兵士は、椅子に座ったままペロンと折れ曲がっていた。

 先ほどレイから申し渡された時と話がちがう——。

『ユウキ、この二体はまだ私の魔法が残っているから、しばらくは自在に操れる。重たいものを持つのは無理だけど、トリガーを引いたり、操舵輪を持つくらいならできる』

 ユウキは操舵輪をにぎったまま、空いたほうの手でパチンと指をならした。とたんに、玉ねぎ兵士が、ペランと上半身をめくれあがらせながら起きあがった。

 あの輸送船に送りこまれたディスポーザブルの素体と同じ程度のつくりだな——。

「撃て!」
 ユウキは再び声を張った。
 ドーンという音とともに二門から砲弾が射出され、弩級戦艦の後方に命中した。ぐらりと艦影がゆらぐ。
 命令もしていないのに、今度は重機関銃から弾丸が放たれた。銃弾が弩級戦艦の甲板の表面を削いでいく。
 予想もしない連続攻撃——。
 ユウキが目を向けると、牛の顔の女兵士がトリガーを握りしめたまましなだれていた。おそらく主砲発射の反動を受けて、反射でトリガーを引いたようだった。

 ユウキはゾクゾクした。これだけ間断ない攻撃を仕掛けているこの戦艦の乗務員がたった一人などとは思わないだろう。さらに『 』くうはくが引きつれたドラゴンの群れ。仮想空間だと認識していても血が湧きたつ。

『 』くうはくくん、今だ。突撃を!」
 『 』くうはくが前に掲げたサーベルを下にぐっと落としたのが見えた。その切っ先の軸線上に、第一艦橋がロックオンされているのがわかった。


「突撃!しますデス」
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