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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第259話 けっして、色仕掛けだけではないのだ——
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「塔の根元の方に何やら魔法じみた力を持つものがいるようだな」
ウルスラ総司令がそう言うのをきいて、捷瀬美聡《かつらいみさと》は心の中でチッと舌打ちした。
そんなのはとっくに気づいている。わざわざ口に出さなくとも、兵士たちとはその意識を共有している。そんなことは問題ではない——。
「ええ、そのようね」
「それでミサト、どうするつもりかね」
「もちろん、こちらの主砲を撃ち込んで、術を使う暇を与えないようにしてやるわぁ」
まず、ミサトはウルスラが求めている答えを反射的に返した。
「でも、その前にそいつにやられた兵たちを助けなきゃなんないわぁ。わたしたちが直接指揮している兵士にトラウマを残すわけにいかないでしょ。それでなくても偵察艦の離脱した兵士たちの精神状態が、芳しくないって報告がきてんだから」
「そうか」
ウルスラ大将はそれだけ言うとおし黙った。ミサトはド派手な戦闘より地味な救出活動を優先したことで、ウルスラが興味をうしなったのだと感じた。
この㚻はいつだってそうだ。
おいしいところ、目立つところだけを、そのたぐい稀なる嗅覚で感じとって、この軍のなかで日の当たる場所だけを渡り歩いてきた。
だが、ひとのことは言えない。
自分も今、すくなからずその恩恵に預って、ブライトが目をむくほどの、長足の昇進を果たしてきたのだ。
それまでには、『女』という『武器』も、ぞんぶんに使った。軍の一部では自分に対する悪口雑言が、常に蔓延していたが、ミサトは気にしなかった。
それは『武器』を持たない者、使いこなせない者の、ただの嫉みだ。
そいつらはわたしが、この『武器』を自分のものにして使いこなせるようになるのに、どれほどの努力をし、どれだけの代償を払ったかなど知りはしない——。
「第二部隊、降下はじめ!!」
第二隊長の合図で、数人の兵士が塔の降下をはじめた。
「みんな、いい。あなたたちの任務は、『ドラゴンズ・ボール』を手に入れること。それを遂行後、あの化けモンの塔の中で身動きできなくなった第一部隊の連中を救出してちょうだい」
兵士たちから了解の声があがったところで、ミサトはうしろをふりかえった。
「ウルスラ大将、今から艦を塔の上空から移動して、塔の根元にむけて一斉攻撃をおこないたいと思います」
「うむ。そうしてくれ」
ウルスラは関心なさげに軽く首肯しただけだった。
「微速前進して塔から距離をおいたら、主砲を全門左弦へ。塔の根元にむけて一斉発射。でも塔に絶対あてないでよ」
ミサトのその命令にクルーたちがあわただしく動きはじめた。
ミサトは顔を正面にむけたままウルスラに尋ねた。
「カツエ、あなたはあの魔法使い、誰だと思う?」
「そうだな。すくなくともヤマトタケルではなかろう。あの男が『ドラゴンズ・ボール』奪取を人にまかせるとは想像できん。かならず自分の手で握ろうとするはずだ」
「じゃあ、レイかアスカかしら?」
「ふむ、龍アスカは鼻っぱしらがめっぽう強いと聞き及んでいる。そんな人間が後方支援の命令に、諾々と従うとは思えんが……」
「じゃあ、ユウキがクララという撰択肢はどう?」
「そうだな、可能性としては無くはないだろう。だが、ヤマトタケルがそれほど簡単に新参者の二人を信頼するだろうかねぇ」
「たしかに。背中をあずけられるほどの信頼は、あの二人にはまだないかもね」
ウルスラはこの推理ゲームをあきらかに楽しんでいた。相手の得意なテリトリーで話題を広げて、その知識や考察を気持ちよく披瀝させる。そこに打てば響くような反応があれば、ひとは案外たやすく、こちらに好意や信頼を寄せるものだ。
これも高い授業料をはらって、身につけた処世術——。
けっして、色仕掛けだけではないのだ——。
その時、砲撃士がミサトへ進言してきた
「カツライ中将、主砲準備、ととのいました」
ミサトはモニタ画面越しに砲撃手を睨みつけた。
空気を読めないヤツ——。
ウルスラのご機嫌取りの真っ最中だというところに、水をさされた。いや、冷や水を浴びせられた気分だ。
「そちらにまかせるわあ」
面倒くさそうにミサトは手をひらひらとしてみせた。が、重要なことばをすぐに付け加えるのを忘れなかった。
「だけど、仕損じたら、ただじゃおかないわよ」
砲撃士が「はっ」と返答をしてきたが、そこには相当の覚悟がこもっていた。
突然、レーダー係が大きな声をあげた。
「右弦から大きな物体が接近!」
「なによぉ、自動操縦の偵察艦がこちらに合流しようとしてるんじゃないの?」
「いえ、その艦の陰にかくれて、なにかが一緒に近づいてきていたようです」
「船の陰に?。救命艇が離脱したとか……」
「それが、救命搬の大きさではありません。今、映像をだします」
レーダー係が中空で操作パネルを操作すると、正面の大型モニタの映像が切り替った。
そこに巨大なドラゴンの姿があった。翼を広げたその大きさは、この弩弓戦艦の横幅とおなじほどもあった。
「うそでしょ!」
だがなによりもミサトが驚いたのは、その頭の上で、釣り竿のようなものの先になにかをぶら下げて、誰かがそのドラゴンを操っていることだった。
ウルスラ総司令がそう言うのをきいて、捷瀬美聡《かつらいみさと》は心の中でチッと舌打ちした。
そんなのはとっくに気づいている。わざわざ口に出さなくとも、兵士たちとはその意識を共有している。そんなことは問題ではない——。
「ええ、そのようね」
「それでミサト、どうするつもりかね」
「もちろん、こちらの主砲を撃ち込んで、術を使う暇を与えないようにしてやるわぁ」
まず、ミサトはウルスラが求めている答えを反射的に返した。
「でも、その前にそいつにやられた兵たちを助けなきゃなんないわぁ。わたしたちが直接指揮している兵士にトラウマを残すわけにいかないでしょ。それでなくても偵察艦の離脱した兵士たちの精神状態が、芳しくないって報告がきてんだから」
「そうか」
ウルスラ大将はそれだけ言うとおし黙った。ミサトはド派手な戦闘より地味な救出活動を優先したことで、ウルスラが興味をうしなったのだと感じた。
この㚻はいつだってそうだ。
おいしいところ、目立つところだけを、そのたぐい稀なる嗅覚で感じとって、この軍のなかで日の当たる場所だけを渡り歩いてきた。
だが、ひとのことは言えない。
自分も今、すくなからずその恩恵に預って、ブライトが目をむくほどの、長足の昇進を果たしてきたのだ。
それまでには、『女』という『武器』も、ぞんぶんに使った。軍の一部では自分に対する悪口雑言が、常に蔓延していたが、ミサトは気にしなかった。
それは『武器』を持たない者、使いこなせない者の、ただの嫉みだ。
そいつらはわたしが、この『武器』を自分のものにして使いこなせるようになるのに、どれほどの努力をし、どれだけの代償を払ったかなど知りはしない——。
「第二部隊、降下はじめ!!」
第二隊長の合図で、数人の兵士が塔の降下をはじめた。
「みんな、いい。あなたたちの任務は、『ドラゴンズ・ボール』を手に入れること。それを遂行後、あの化けモンの塔の中で身動きできなくなった第一部隊の連中を救出してちょうだい」
兵士たちから了解の声があがったところで、ミサトはうしろをふりかえった。
「ウルスラ大将、今から艦を塔の上空から移動して、塔の根元にむけて一斉攻撃をおこないたいと思います」
「うむ。そうしてくれ」
ウルスラは関心なさげに軽く首肯しただけだった。
「微速前進して塔から距離をおいたら、主砲を全門左弦へ。塔の根元にむけて一斉発射。でも塔に絶対あてないでよ」
ミサトのその命令にクルーたちがあわただしく動きはじめた。
ミサトは顔を正面にむけたままウルスラに尋ねた。
「カツエ、あなたはあの魔法使い、誰だと思う?」
「そうだな。すくなくともヤマトタケルではなかろう。あの男が『ドラゴンズ・ボール』奪取を人にまかせるとは想像できん。かならず自分の手で握ろうとするはずだ」
「じゃあ、レイかアスカかしら?」
「ふむ、龍アスカは鼻っぱしらがめっぽう強いと聞き及んでいる。そんな人間が後方支援の命令に、諾々と従うとは思えんが……」
「じゃあ、ユウキがクララという撰択肢はどう?」
「そうだな、可能性としては無くはないだろう。だが、ヤマトタケルがそれほど簡単に新参者の二人を信頼するだろうかねぇ」
「たしかに。背中をあずけられるほどの信頼は、あの二人にはまだないかもね」
ウルスラはこの推理ゲームをあきらかに楽しんでいた。相手の得意なテリトリーで話題を広げて、その知識や考察を気持ちよく披瀝させる。そこに打てば響くような反応があれば、ひとは案外たやすく、こちらに好意や信頼を寄せるものだ。
これも高い授業料をはらって、身につけた処世術——。
けっして、色仕掛けだけではないのだ——。
その時、砲撃士がミサトへ進言してきた
「カツライ中将、主砲準備、ととのいました」
ミサトはモニタ画面越しに砲撃手を睨みつけた。
空気を読めないヤツ——。
ウルスラのご機嫌取りの真っ最中だというところに、水をさされた。いや、冷や水を浴びせられた気分だ。
「そちらにまかせるわあ」
面倒くさそうにミサトは手をひらひらとしてみせた。が、重要なことばをすぐに付け加えるのを忘れなかった。
「だけど、仕損じたら、ただじゃおかないわよ」
砲撃士が「はっ」と返答をしてきたが、そこには相当の覚悟がこもっていた。
突然、レーダー係が大きな声をあげた。
「右弦から大きな物体が接近!」
「なによぉ、自動操縦の偵察艦がこちらに合流しようとしてるんじゃないの?」
「いえ、その艦の陰にかくれて、なにかが一緒に近づいてきていたようです」
「船の陰に?。救命艇が離脱したとか……」
「それが、救命搬の大きさではありません。今、映像をだします」
レーダー係が中空で操作パネルを操作すると、正面の大型モニタの映像が切り替った。
そこに巨大なドラゴンの姿があった。翼を広げたその大きさは、この弩弓戦艦の横幅とおなじほどもあった。
「うそでしょ!」
だがなによりもミサトが驚いたのは、その頭の上で、釣り竿のようなものの先になにかをぶら下げて、誰かがそのドラゴンを操っていることだった。
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