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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦

第246話 アスカ、助けてくれ!

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「クララ、走れ!」

 ヤマトはクララの腕を荒々しく掴むと、自分の前に送りだした。
「はやく走って!」
 ヤマトは状況が把握できずにとまどっているクララの背中を強く押して階段の上へと促した。クララはヤマトの血相を見て、階段を駆けあがりはじめた。
 そのうしろにヤマトも続く。
 どれくらいの時間が稼ぎだせるかわからなかったが、座して待つわけにはいかない。
「アスカ、時間がなくなった。君の到着を待っている余裕がない」
「何が起きてるのよぉ」
「下のほうから階段が落ちはじめた」
「うそでしょ」
「なにか別の救出法をひねり出してくれ。しかもすぐにだ!」
 アスカはそれ以上何も言ってこなかった。何か救出方法を考えてくれているはずだと、ヤマトは願った。
「下の階段が落ちてるって……どういうことです?」
 今度は階段を駆けあがりながら、クララが大声で訊いてきた。
「あぁ。きわめてまずい状況だ。落ちたらこの擬態した生物の胃の中だ。おそらくひとたまりもなく溶かされる」
「でもマナで、マナで元に戻せますわ」
「だけど長い時間溶かされて、何度も再生できるほど二人ともマナの量は充分じゃない」
「ではどうすればいいですの?」
 ヤマトはクララの悲痛な訴えにすぐに答えられなかった。下方をのぞきみる。
 螺旋らせん階段の崩落箇所がすぐ十数メートルほどのところに迫っていた。まるでドミノ倒しのように、除々に加速しているように思える。

「タケルさん、上!!」
 クララが大声をあげた。あわてて仰ぎ見る。塔の天井付近から、壁の内壁が割けて変化した触手が、べろべろと伸びてきてこちらを捕獲しようとしてきた。
「クララ、さっきみたいにあの触手を避ける。補まったら……」

 そこまで言ったところでヤマトの足元の階段が崩れ落ちた。間をおかずクララの足元の足場も同じように崩れる。
 ふたりはひとたまりもなく、塔のなかを落ちていった。
 クララの声が自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。ヤマトが上に顔をむけると、クララが手を伸ばしていた。ヤマトはからだを捻って、上をむくとクララに向かって手を伸ばす。
 急降下しながら、空中で手をまさぐりながら、互いの手を探し求める。
 百メートル以上降下したところでヤマトの手がクララの手をつかんだ。ヤマトはぐっと腕を引っ張り、クララのからだを引き寄せると、ぎゅっと抱きしめた。クララもヤマトのからだにしがみつく。
 ふたりはお互い抱きあったまま、頭を下にして落ちていっていた。

「アスカぁぁぁぁ」
 ヤマトはクララを抱きしめたまま叫んだ。だが返事がなかった。
 ヤマトが下に目をむける。だが『ドラゴンズ・ボール』をふところにいれたままなので、充分に光が届かない。
 ゾクッとした。今、自分がどのような状況にいるかがまったくわからなかった。

 あのときの状況に似ている……。

 98体目の亜獣『サスライガン』にまんまと深海に引き摺りこまれた時……。人生ではじめて、まちがいなく『死』を覚悟したあの恐怖の瞬間……。そして、『カンゲツ』という自分のまったく知らなかった『叡知えいち』の力なしには、生き延びられなかった真の緊急事態……。

 ドカーンという破壊音がヤマトの苦い回想を打ち破った。
 落ちて行く二人のすぐ上に、塔の壁を突き破って光の矢が飛び込んできた。先ほどヤマトをアシストするために電幽霊サイバー・ゴーストに打ち込んだいたものよりひと周りも太く長い、まるで丸太ん棒のような太さの光の矢だった。
 矢はズドォォンと重々しい音を響かせ、反対側の内壁に突き刺さった。そのあまりの威力に塔が揺らぐ。だが、さらに続けざまに、その下に第二の矢が、さらにその下に第三の矢が次々と大砲のような音とともに打ち込まれていく。
 ヤマトがあわてて下を見ると、すこし下で水面みなもが光ってみえた。その中に何か浮かんでいるのが見えてくる。もう目をこらさなくても見える。
 それは半魚人の上半身の骸骨だった。

「やっぱり、あいつらはいなくなったんじゃなかった……」
「この塔に食べられたんですわ」
 クララが蒼ざめた顔で妄言のように言った。

「アスカ!。たのむ。どうにか……」
 その瞬間、衝撃とともにアスカの光の矢が、ヤマトとクララの胴体を串刺しにした。

 光の矢が反対側の内壁に突き刺さる。腹に丸太ほどの太さの矢が突き刺さったままのヤマトとクララのからだが、反対側の内壁に釘付けされた。落下の勢いを急激に殺されて、、ふたりのからだが、がくんと下にふり落とされ、おおきく揺れる。
 腹を貫かれたふたりのからだがだらりと力なく下に垂れ下がった。
 まるで『百舌の速贄もずのはやにえ

「タケル、とりあえず、救助方法、ひねりだしてやったわよ」

 アスカが面白くなさそうに言ってきた。
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