上 下
230 / 1,035
第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦

第229話 すぐに下に降下してくれ!!

しおりを挟む
 すぐそばでヤマト・タケルの首がね飛ばされたのをの当たりにして、ユウキが驚かないはずはなかった。なによりも虚をつかれたし、クララがあの状態だったのだから、選択肢がすくなかったのは確かだ。
 しかし、あのヤマト・タケルが、他人のために身を投げだしたというのは、ユウキにとってはかなりのショックだった。
 彼は命を救われることはあっても、救う立場にない人間だ。いや、逆にそうしてはならない人間の筆頭が彼なのだ。だからヤマトはどんな状況であっても、自分の身を盾にすることはない。現に現実世界ではすでに100万人もの人間を犠牲にしているし、同僚のパイロットもヤマトの盾となって命を落としている。もし噂が本当なら、父親も……。
 だが、今ヤマトは躊躇ちゅうちょなくクララの盾になってのけた。もちろんあの直撃をうけても、自分が死ぬことがないことを知っていたからだろうが、それでもあの状況で反射的に動けるというのは、ユウキには驚異であったし、懸念すべき材料だった。

 現実世界のデミリアンでの戦いで、まさかそのような愚を冒さないだろうか。
 ヤマト・タケルの代わりはこの世界には、もうふたりといないのだ。

 ユウキの頭には一瞬でそれだけの不安材料が去来したが、彼自身はすぐにつぎの行動に移っていた。まずショックを受けて動けないでいるクララの安全を優先した。
「クララくん。タケルくんは心配ない」
 ユウキがクララの背中に手をあててそう言うと、クララはふーっと深呼吸をして「大丈夫、わかっていますわ」と答えた。

「よかった。てっきりショックを受けているかと思ったよ」
「そんなわけないでしょう。ルールは心得ています。ただ、タケルさんにかばってもらうような失態をおかしたことが、自分で許せないだけですわ」
 クララはすこし離れた空間で、首なしのままクラーケンと戦っているヤマトにちらりと目をむけた。頭のうえ(頭はなかったが)の数字が一気に8000ポイントも減っている。
その状態を誘因したのが自分だと考えると、その見解は納得がいく。
 だが、そんなわけはない。
 ユウキはわかっていた。
 こともなげにそれを否定して見せたが、あの瞬間は相当にショックだったはずだ。そんなはずはないと意地をはってみせただけだ。
 だが、ユウキはクララのこういう意地っ張りなところが好きだった。実に人間らしい。
 レイならまったく動じないだろうし、アスカなら悪びれずに去勢をはってごまかすだろう。そしてもしリョウマなら、おそらく簡単に白旗をあげて、いかにショックを受けたかをむしろ誇らしく言ってくるに違いない。
「この位置は危険だ。一度下に降りよう」
「でも、したにはホワトスがたくさん……」
「いや、もうほとんどいないようだ。レイ君が片っ端からかたづけてしまったみたいだな」
 クララが平原のほうを一瞬だけ目をむけた。注意はつねに頭の上の海上から首をだしている『リヴァイアサン』のほうにむけられている。射程範囲からはまだ出ていないという意識。もう一度おなじ失態はぜったいに繰り返さないという反省。
 おそらくそんなものだろう。ユウキはクララの心中を察した。
 
 そのとき、上空から大声が聞こえてきた。
「ユウキ、クララ!。すぐに下に降下してくれ」
 まちがいなくヤマトの声だった。ユウキは声のしたほうを振り向いた。
 ヤマトの頭がかなたから飛んでくるところだった。くるくると錐揉きりもみしながら、こちら側にむかって一直線に飛んでくる。ヤマトの頭がもう一度叫んだ。
「すぐにアスカの電流魔法が発動する。巻き込まれるぞ」
 頭の方が、そう言い終わると、ヤマトのからだのほうが、こちらにむかって勢いよく降下してきた。降下というより自由落下に近いスピード。が、その速度のまま、ヤマトのからだは、飛んできた頭をキャッチした。見事なワンハンドキャッチ。
 ヤマトは頭頂部をしっかりと掴むと、首のうえにぴたりと頭をすげた。
 まるで、あたまのうえに、ひょいと帽子でもかぶるように見えた。洒脱しゃだつ流麗りゅうれいな仕草。

「速く!」
 ヤマトは頭がもとの場所に戻るなり、ふたりにむかって声を荒げた。ヤマトの首の切れ目がすぅっと癒着ゆちゃくしだした。頭の上の数字を見てみると、さらに10000ポイントが費やされていた。一気に20000ポイント近くをうしなったことになる。
 その数字のあまりの減少っぷりは気になったが、時間を無駄にしている場合でもなかった。ユウキはクララの手を掴んで、地面にむかって急降下をした。いきなりの加速にクララが抱えたガトリング銃が手から離れそうになったのが見えた。
「クララくん、そんなのは捨てたまえ!」
 ユウキの強い叱責しっせきにすぐさまクララは従った。手を離すやいなや、みるみるガトリング銃がうえへとあがっていく。クララは意識するとはなしに、顔を上にあげその銃を目で追いはじめていた。

 ユウキはそんなこと構わず、地面ぎりぎりでブレーキをかけて、絶妙のタイミングで着地した。そして足先が地面につくかつかないタイミングで、クララの背中に手をまわして、そのまま地面にひれ伏せさせた。少々、手荒い力加減だったが、そのまま押し倒しながら、自分も地面に腹ばいになった。 
 その瞬間、地面から海にむかって落雷がうちあがった。ピカッという閃光がした一瞬後、稲妻が海のなかを走り抜けていた。音はしなかった。まるで雷鳴ごと水のなかにねじ込んだという感じだった。
 だが、なにも起きなかった。ただなにかがまたたいただけだった。
 ヤマトがからだを起こして、座り込んだまま上をみあげる。ユウキもそれにならうように、地面に腰をおろした状態で上方に目を向けた。クララが起き上がろうとしかけたとき、クララの頭の数メートル先に、ガトリング銃がドンとけたたましい音をさせて落ちてきた、ユウキは落下の衝撃で銃が乱射されるのでは、と思ったが、銃は地面に一瞬、起立したかと思うと、そのまま横にどうと倒れただけだった。
「ユウキさん、銃、壊れてしまいましたわよ」
 クララが不満とも、ただの報告ともとれない口調で、ユウキに声をかけてきた。
「あぁ。そうだね。ポイントを消費して、もう一度出現させる必要……」

 そこまで言ったところで、轟音ごうおんとともに海が爆発した。あまりの凄まじい音と圧に、あわてて地面に腹ばいになる。その上から、海面からふきあがった水しぶきが、こちらの平原の世界に打ち上がり地面を濡らしはじめる。それと同時に地面に叩きつけるような勢いで、なにかが地面にぶつかってきた。しろいゼリー状のおおきな破片。
 それはバラバラに飛び散った『クラーケン』のからだの一部だった。木っ端のようにちぎれたクラーケンの破片が、上空にある地面に打ち上がってきていた。
「参ったな。一撃とは……」
 おもわずユウキが漏らすと、クララがそらの別の方向を指さした。
「ユウキさん。あれ!」
 あの『リヴァイアサン』の長い頭が、海のなかに沈むところだった。こちらの地面に付くのではないかと思うほど伸ばされていたリヴァイアサンの首が、ちからなく頭をたれて倒れていっていた。長い首はたちまち空の上の海のほうへ引き戻され、そのままゆっくりと沈んでいきはじめた。
「こっちまで、一網打尽でやれるものなのか?」
 ユウキが額をぬぐいながら、アスカの魔術の威力に感心した声をあげた。
 ヤマトがつながった首をさすりながら言った。


「だから、アスカじゃないと倒せないって言ったろ。ユウキ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方
SF
 ドグミス国連軍陣地に立て籠もり、全滅の危機にある島民と共に戦おうと、再上陸を果たした陸上自衛隊警備中隊は、条約軍との激戦を戦い抜き、遂には玉砕してしまいます。  今より少し先の未来、第3次世界大戦が終戦しても、世界は統一政府を樹立出来ていません。  南太平洋の小国をめぐり、新世界秩序は、新国連軍とS条約同盟軍との拮抗状態により、4度目の世界大戦を待逃れています。  そんな最中、ドグミス島で警備中隊を率いて戦った、旧陸上自衛隊1等陸尉 三枝啓一の弟、三枝龍二は、兄の志を継ぐべく「国防大学校」と名称が変更されたばかりの旧防衛大学校へと進みます。  しかし、その弟で三枝家三男、陸軍工科学校1学年の三枝昭三は、駆け落ち騒動の中で、共に協力してくれた同期生たちと、駐屯地の一部を占拠し、反乱を起こして徹底抗戦を宣言してしまいます。  龍二達防大学生たちは、そんな状況を打破すべく、駆け落ちの相手の父親、東京第1師団長 上条中将との交渉に挑みますが、関係者全員の軍籍剥奪を賭けた、訓練による決戦を申し出られるのです。  力を持たない学生や生徒達が、大人に対し、一歩に引くことなく戦いを挑んで行きますが、彼らの選択は、正しかったと世論が認めるでしょうか?  是非、ご一読ください。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

処理中です...