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第二章 第二節 電幽霊(サイバー・ゴースト)戦
第220話 ユウキはその魔法の凄まじい破壊力に舌を巻いた
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天井に赤い炎が走り抜けていったとき、ユウキの剣は一突きで二十体ほどのゴブリンをを刺し貫いていた。
自分の武器は多勢を相手にするのには不利だと認識していただけに、今体得した同時攻撃には自分でもある意味満足していた。だが、アスカが放った魔法の一撃は、ユウキののささやかな満足を、あっという間にへし折るに充分だった。
まずその魔法は、あまりにも攻撃の範囲が広かった。
天井から下の地面まで、一分の隙もないほど炎はすべてをなめ尽くした。それに、速度が速かった。はるか奥からちろちろと赤い火花が散った、かと思うと、瞬時にして一番奥の出口まで炎が通り抜けていた。自分の横を通り抜ける瞬間、絶妙なタイミングで炎が避けていったが、一瞬、自分たちも燃やし尽くされるのでは、と恐怖を感じて足が震えた。
それほど圧倒的な、炎の絨緞だった。
おそらくゴブリンどもは、それが火であるという認識もなかったであろう。赤い突風が吹いたくらいに思っていたはずだ。がそれが通り過ぎて、すべてが黒焦げになったのをみて、今のが炎であったと気づいたに違いない。もちろん生きていればの話だが……。
そしてユウキはなによりも、その凄まじい破壊力に舌を巻いた。炎が通りすぎたあとにはゴブリンどころか、建造物すら焼かれ、破壊されてしていた。おかげで自分たちより奥の出口までの空間に、動くものが一切見えなくなった。
「やったわよー。タケルぅ」
アスカのとびっきりご機嫌そうな声が飛び込んできた。
「ふむ、やはりタケルくんの入れ知恵だったか」
ユウキがそう呟くと、アスカが猛烈な勢いで弁明してきた。
「悪かったわよ、ユウキ。私だってポイントを稼がないと困るのよ」
殊勝に謝ってきた様子だったが、声がいくぶん弾んでいる。つまりは、うしろめたさよりも、うれしさが勝るということだ。
「アスカくん、それは理解するが、さすがに残り全部を根こそぎというのはやりすぎだと思うが……」
「そうね、アスカ。そんなチート使われたら、私たちの地道な努力が馬鹿馬鹿しくなる」
レイがぼそりと参戦してきた。それまでバッサバッサと気持ちよく斬り倒していた敵がいきなりゼロになったのだから、おもしろいわけがない。レイにはめずらしほど、立腹している様子がみてとれた。
「アスカさん、ちょっとひどいと思いますね。せっかくこちらも武器の使い方に馴れてきたというのに……」
クララのはため息まじりの抗議だった。
「レイ、ユウキ、クララ、すまない。今の攻撃はボクが命じたものなんだ」
アスカの暴言まじりの釈明でも聞こえてくると身構えていると、ヤマトの真摯な謝罪が聞こえてきてユウキは虚をつかれた。
「みんなは武器のつかいかたにも馴れて、必殺技の発動のしかたのコツもつかんだと思う。だけどアスカの魔術は発動に時間がかかるし、精度のアップは比較にならないほど難しいんだ。だけどこのあとの本番で、勝負を最終的に左右するのはアスカの魔法だと思っている」
「は、みんな聞いたでしょ。タケルの言うとおりよ。このアスカ様がいなきゃ、みんな何もできないんだからぁ」
ユウキはアスカが根拠もなく自信を満ちあふれさせているのを聞いて安心した。こういう時のアスカは、総じてうまく立ち回ってみせる。
「タケルくんがそう言うのなら致し方ないな。そのスキルでわたしたちを助けてもらうしかあるまい」
「タケルがそう言うなら……もういい」
レイはなかば諦め気味にそう言うと、クララも続けて「ま、ずいぶんポイント稼ぎましたからね」と言って、『不満の刃』を各々の鞘におさめはじめた。
それからは五人は足並みをそろえて、このコロニー状のダンジョンをすこし早歩きで出口へむかった。敵もいなければ、障壁やトラップもない、ただの瓦礫の道。気をつけるとしたら、出っ張りに足をとられないこと程度。
先ほどまでの血湧き、肉踊る殺戮《さつりく》の風が、突然、凪になったことで、レイもクララもまだ表情に、不満や未練が浮かんでいた。
だがユウキはこの状況を少したのしんでいる自分がいることに気づいた。昔ハッキングして、バックドアからこの『ブラックホール・ストレージ』にもぐりこんでいる時、いつも彼は孤独だった。ここまで危険な深い階層に降りたことはなかったが、かなりしんどいダンジョンを攻略した時も、手強い敵を倒したときも、彼にはその愚痴をこぼす相手も、健闘をたたえあう仲間もいなかった。
だから今、この状況は彼にとっては願ってもみない幸せだった。
ちょっとできすぎだ。
ダンジョンの出口に近づいてくるとヤマトが訊いてきた。
「ユウキ。ドラゴンズ・ボールは何層にある?」
ユウキはボールにマーキングしたビーコンの信号を確認した。
「第八十八階層のようだ」
そう返事をすると、ヤマトがみんなの前にとびだして、こちらにふりむいて言った。
「ここからが本番だ。次のステージに現れる敵はさっきまでのゴブリンとは比較にならない」
自分の武器は多勢を相手にするのには不利だと認識していただけに、今体得した同時攻撃には自分でもある意味満足していた。だが、アスカが放った魔法の一撃は、ユウキののささやかな満足を、あっという間にへし折るに充分だった。
まずその魔法は、あまりにも攻撃の範囲が広かった。
天井から下の地面まで、一分の隙もないほど炎はすべてをなめ尽くした。それに、速度が速かった。はるか奥からちろちろと赤い火花が散った、かと思うと、瞬時にして一番奥の出口まで炎が通り抜けていた。自分の横を通り抜ける瞬間、絶妙なタイミングで炎が避けていったが、一瞬、自分たちも燃やし尽くされるのでは、と恐怖を感じて足が震えた。
それほど圧倒的な、炎の絨緞だった。
おそらくゴブリンどもは、それが火であるという認識もなかったであろう。赤い突風が吹いたくらいに思っていたはずだ。がそれが通り過ぎて、すべてが黒焦げになったのをみて、今のが炎であったと気づいたに違いない。もちろん生きていればの話だが……。
そしてユウキはなによりも、その凄まじい破壊力に舌を巻いた。炎が通りすぎたあとにはゴブリンどころか、建造物すら焼かれ、破壊されてしていた。おかげで自分たちより奥の出口までの空間に、動くものが一切見えなくなった。
「やったわよー。タケルぅ」
アスカのとびっきりご機嫌そうな声が飛び込んできた。
「ふむ、やはりタケルくんの入れ知恵だったか」
ユウキがそう呟くと、アスカが猛烈な勢いで弁明してきた。
「悪かったわよ、ユウキ。私だってポイントを稼がないと困るのよ」
殊勝に謝ってきた様子だったが、声がいくぶん弾んでいる。つまりは、うしろめたさよりも、うれしさが勝るということだ。
「アスカくん、それは理解するが、さすがに残り全部を根こそぎというのはやりすぎだと思うが……」
「そうね、アスカ。そんなチート使われたら、私たちの地道な努力が馬鹿馬鹿しくなる」
レイがぼそりと参戦してきた。それまでバッサバッサと気持ちよく斬り倒していた敵がいきなりゼロになったのだから、おもしろいわけがない。レイにはめずらしほど、立腹している様子がみてとれた。
「アスカさん、ちょっとひどいと思いますね。せっかくこちらも武器の使い方に馴れてきたというのに……」
クララのはため息まじりの抗議だった。
「レイ、ユウキ、クララ、すまない。今の攻撃はボクが命じたものなんだ」
アスカの暴言まじりの釈明でも聞こえてくると身構えていると、ヤマトの真摯な謝罪が聞こえてきてユウキは虚をつかれた。
「みんなは武器のつかいかたにも馴れて、必殺技の発動のしかたのコツもつかんだと思う。だけどアスカの魔術は発動に時間がかかるし、精度のアップは比較にならないほど難しいんだ。だけどこのあとの本番で、勝負を最終的に左右するのはアスカの魔法だと思っている」
「は、みんな聞いたでしょ。タケルの言うとおりよ。このアスカ様がいなきゃ、みんな何もできないんだからぁ」
ユウキはアスカが根拠もなく自信を満ちあふれさせているのを聞いて安心した。こういう時のアスカは、総じてうまく立ち回ってみせる。
「タケルくんがそう言うのなら致し方ないな。そのスキルでわたしたちを助けてもらうしかあるまい」
「タケルがそう言うなら……もういい」
レイはなかば諦め気味にそう言うと、クララも続けて「ま、ずいぶんポイント稼ぎましたからね」と言って、『不満の刃』を各々の鞘におさめはじめた。
それからは五人は足並みをそろえて、このコロニー状のダンジョンをすこし早歩きで出口へむかった。敵もいなければ、障壁やトラップもない、ただの瓦礫の道。気をつけるとしたら、出っ張りに足をとられないこと程度。
先ほどまでの血湧き、肉踊る殺戮《さつりく》の風が、突然、凪になったことで、レイもクララもまだ表情に、不満や未練が浮かんでいた。
だがユウキはこの状況を少したのしんでいる自分がいることに気づいた。昔ハッキングして、バックドアからこの『ブラックホール・ストレージ』にもぐりこんでいる時、いつも彼は孤独だった。ここまで危険な深い階層に降りたことはなかったが、かなりしんどいダンジョンを攻略した時も、手強い敵を倒したときも、彼にはその愚痴をこぼす相手も、健闘をたたえあう仲間もいなかった。
だから今、この状況は彼にとっては願ってもみない幸せだった。
ちょっとできすぎだ。
ダンジョンの出口に近づいてくるとヤマトが訊いてきた。
「ユウキ。ドラゴンズ・ボールは何層にある?」
ユウキはボールにマーキングしたビーコンの信号を確認した。
「第八十八階層のようだ」
そう返事をすると、ヤマトがみんなの前にとびだして、こちらにふりむいて言った。
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