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第二章 第一節 四解文書争奪

第172話 まぁ、いいわ。数分で奪取してみせるから

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 重戦機甲兵の各機体には肩の間接のガードパーツに「壱」「弐」「参」「零」の識別する番号が大書されていた。機体そのものはデミリアンのように特徴的な個体差はなかったが、体表面はカラーリングで色分けされているように見えた。だが、実際には何機もの機体のパーツを寄せ集めてリストアした結果として、色味が偏ったものでしかなかった。 ヤマトの「壱号機」は紫色。ベースはロシア合衆国の機体。アスカの「弐号機」は赤、レイの「零号機」は黄色。それぞれアメリカとインドの機体がベースになっていた。
 だが、各機の特徴などに注意をはらっている時間の余裕はなかった。
 ヤマトはすぐにレイとアスカに、各機の装備を確認するように命じた。
「各自装備を確認」
 ヤマトが呼びかけるとすぐさまレイが答えた。
「銃もレーザー・ソードもスタンバイOK」
「こっちもOKよ。でもこれ本当にぶっぱなすわけじゃないでしょ」
「そう願いたいね。ボクらの狙いは、あくまでも『霊覚』と『想覚』の二個の『ドラゴンズ・ボール』の奪取だからね」
「エル様、現在の進捗状況をご説明します」 
 沖田十三が状況を伝えてきた。
「数時間前にこの日本支部から飛び立った輸送船は、宇宙空間に飛び出したあと、スイスの国連本部の上空付近の宙域から、大気圏に突入します」
 中空に台形をしたおおきな建造物が3Dで表示された。
「これが、国際連邦本部です」
 本部の建物の第一印象は、頂点の部分がないピラミッド。ほとんど窓らしいものもなく、頑強で武骨な造りは、『要塞』というべき建造物だった。
 十三が頂上の平たくなっている部分を拡大した。そこに複雑な形をした橋桁のようなものが設置されているのがみえた。そこから突き出しているいくつもの桟橋の部分には、何隻もの飛行戦艦が停留している。巡洋艦や駆逐艦から巡視艇のような小型飛行船舶までが停留中で、なにかの補給かメンテナンスを受けているようだった。
 その甲板上で何百台という『重戦機甲兵』が作業しているのがわかる。
「みなさんの乗る『重戦機甲兵』はステルス仕様ではありますが、輸送機を襲撃した瞬間から、国連軍とスイス軍に行動を捕捉されます。すぐに国連本部から迎撃されるので、奪取の行動する時間は多くないです」
「いまさらなに?。そんなの最初からわかってる」
 レイが十三の説明を少々迷惑そうに言った。
 ヤマトはレイが相変わらず、冷静でいるのがありがたかった。はじめての機体に搭乗して、一発勝負の襲撃に挑もうというのだ。ふつうなら相当に神経質になっていてもおかしくないはずだ。
 アスカが訊いてきた。
「高射砲の心配は?。また下から狙いうたれるのはごめんだけど」
「アスカ様、民生向の電磁誘導パルスレーンより下の高度まで降りなければ大丈夫です」
「つまり、それより下だと、狙い撃ちってことね」
「えぇ、まぁ……」

「まぁ、いいわ。数分で奪取してみせるから」 
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