161 / 1,035
第一章 最終節 決意
第160話 合同葬儀がしめやかにおこなわれた
しおりを挟む
マンゲツとセラ・サターンの回収はその日だけでは収まらず、翌日の未明までかかった。出撃からまるまる一日かかったことになる。特に市街地のど真中で、倒れたセラ・サターンの移動にクルーたちも手を焼いたとのことだった。
それとは逆に、プルートゥの死体の保全と、コックピット・データレコーダーの回収および警護は手際が良かった。ブライト自らが指揮し、エドを中心に精鋭のスタッフを投入し、最優先で行われた結果だった。
今回の戦いで最も価値のある成果物なのだから、人に任せられないのももっともだとヤマトも理解した。
驚いたことにブライトはそれが一段落すると、リョウマの父、龍氏に、今回の転末を報告にむかったという。よりを戻したわけではないだろうが、春日リンを同伴した。
当初、ふてくされた態度をとっていた龍氏だったが、アスカがリョウマのとどめを刺したことを知ると、狼狽し、ブライトの腕にしがみついた。
最後にブライトがリョウマから託されたことづけを伝えると、父親はその場で泣き崩れたらしい。
そのことばがなにだったか、ヤマトは知らない 。
戻ってきたレイはミライに念写をお願いしたらしい。ミライは事務手続きをとって念写ロボにきてもらった。
レイの脳内にあるイメージを読みこんで、外部抽出するというのは、簡単ではあったが、やたら法律で縛られていたので、手続きは面倒だっ たのは確かだ。
レイは念写ロボットが、レイの脳内から汲みあげたイメージから一枚を選びだし、紙にプリントしてもらった。この時代に紙に印刷とははなはだ非常識だったが、おかげでレイの無味乾燥な部屋に写真 立てがーっ加わることになった。
レイはそれを嬉しそうにヤマトとアスカにみせびらかした。
「なんでわざわざ写真なんて、レトロなものを飾るのかしら?」
アスカが腕を組んだまま、レイのうれしそうな表情にケチでもつけてきた。
それは若い頃のレイの母親がやさしく笑っている写真だった。
「これで毎日、母さんを睨みつけてられる」
レイはうれしさを隠しきれずに、口元をほころばせた。
「これを見ながら、毎日、母さんを睨みつけてやるの」
------------------------------------------------------------
三日後、今回の戦いで命を落とした者の合同葬儀がしめやかにおこなわれた。
ヤマトたちの警備にあたっていた兵士たち、右手里美を追跡していた憲兵隊、そして形式上であったが、日本国防軍の兵士たちも合同で慰霊されることとなった。
まず、司令官のブライトが式辞を述べ、フィールズ中将が追悼のことばを送り、粛々と式は進んでいった。
草薙素子は最前列に座っていた。姿勢を正し、微動だにせず式の進行を見送っていた。敵の奸計に嵌まり、多くの犠牲者を出してしまったことを、警備責任者として猛省し続けているのだろうか。まるでその罪と向き合うように、厳しい目で正面を見据えていた。
その横に座わっているバットーは、草薙とは真逆の様子だった。頭を抱えていたかと思うと、今度は上をむいて天井を仰ぎみたり、両手で顔を覆ったりしている。現場の指揮官の責務を負いながら、目の前で何人もの兵士を死なせてしまったのだ。その呵責は想像するに余りある。
さらにその二人とも違っていたのは、憲兵隊のトグロ中佐だった。うしろから背中を一目しただけで、彼の嘆き悲しむ様子が手に取るようにわかった。彼は頭を前に垂らして、肩をふるわせ、式典中、ずっと涙を流しつづけていた。トグロ弟のほうはその隣で、気丈に前をむいていたが、兄があまりにも愁嘆にくれているせいで、自分の感情をあらわにできずにいるだけでしかないようだった。その表情は今にも泣き出しそうなほどゆがんでいた。
レイが献花のために起立したのが見えた。レイはふだん通りの表情だった。この場では妙に場に馴染んで、神妙な面持ちで哀悼をしめしているように見える。
レイは正面に飾られた何十人もの遺影を端から端まで見渡すと、一礼して献花をした。
だが、そこに「龍 冴馬」の遺影はない。
それとは逆に、プルートゥの死体の保全と、コックピット・データレコーダーの回収および警護は手際が良かった。ブライト自らが指揮し、エドを中心に精鋭のスタッフを投入し、最優先で行われた結果だった。
今回の戦いで最も価値のある成果物なのだから、人に任せられないのももっともだとヤマトも理解した。
驚いたことにブライトはそれが一段落すると、リョウマの父、龍氏に、今回の転末を報告にむかったという。よりを戻したわけではないだろうが、春日リンを同伴した。
当初、ふてくされた態度をとっていた龍氏だったが、アスカがリョウマのとどめを刺したことを知ると、狼狽し、ブライトの腕にしがみついた。
最後にブライトがリョウマから託されたことづけを伝えると、父親はその場で泣き崩れたらしい。
そのことばがなにだったか、ヤマトは知らない 。
戻ってきたレイはミライに念写をお願いしたらしい。ミライは事務手続きをとって念写ロボにきてもらった。
レイの脳内にあるイメージを読みこんで、外部抽出するというのは、簡単ではあったが、やたら法律で縛られていたので、手続きは面倒だっ たのは確かだ。
レイは念写ロボットが、レイの脳内から汲みあげたイメージから一枚を選びだし、紙にプリントしてもらった。この時代に紙に印刷とははなはだ非常識だったが、おかげでレイの無味乾燥な部屋に写真 立てがーっ加わることになった。
レイはそれを嬉しそうにヤマトとアスカにみせびらかした。
「なんでわざわざ写真なんて、レトロなものを飾るのかしら?」
アスカが腕を組んだまま、レイのうれしそうな表情にケチでもつけてきた。
それは若い頃のレイの母親がやさしく笑っている写真だった。
「これで毎日、母さんを睨みつけてられる」
レイはうれしさを隠しきれずに、口元をほころばせた。
「これを見ながら、毎日、母さんを睨みつけてやるの」
------------------------------------------------------------
三日後、今回の戦いで命を落とした者の合同葬儀がしめやかにおこなわれた。
ヤマトたちの警備にあたっていた兵士たち、右手里美を追跡していた憲兵隊、そして形式上であったが、日本国防軍の兵士たちも合同で慰霊されることとなった。
まず、司令官のブライトが式辞を述べ、フィールズ中将が追悼のことばを送り、粛々と式は進んでいった。
草薙素子は最前列に座っていた。姿勢を正し、微動だにせず式の進行を見送っていた。敵の奸計に嵌まり、多くの犠牲者を出してしまったことを、警備責任者として猛省し続けているのだろうか。まるでその罪と向き合うように、厳しい目で正面を見据えていた。
その横に座わっているバットーは、草薙とは真逆の様子だった。頭を抱えていたかと思うと、今度は上をむいて天井を仰ぎみたり、両手で顔を覆ったりしている。現場の指揮官の責務を負いながら、目の前で何人もの兵士を死なせてしまったのだ。その呵責は想像するに余りある。
さらにその二人とも違っていたのは、憲兵隊のトグロ中佐だった。うしろから背中を一目しただけで、彼の嘆き悲しむ様子が手に取るようにわかった。彼は頭を前に垂らして、肩をふるわせ、式典中、ずっと涙を流しつづけていた。トグロ弟のほうはその隣で、気丈に前をむいていたが、兄があまりにも愁嘆にくれているせいで、自分の感情をあらわにできずにいるだけでしかないようだった。その表情は今にも泣き出しそうなほどゆがんでいた。
レイが献花のために起立したのが見えた。レイはふだん通りの表情だった。この場では妙に場に馴染んで、神妙な面持ちで哀悼をしめしているように見える。
レイは正面に飾られた何十人もの遺影を端から端まで見渡すと、一礼して献花をした。
だが、そこに「龍 冴馬」の遺影はない。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
冬に鳴く蝉
橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――
レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞
橋本 直
SF
地球人類が初めて地球外人類と出会った辺境惑星『遼州』の連合国家群『遼州同盟』。
その有力国のひとつ東和共和国に住むごく普通の大学生だった神前誠(しんぜんまこと)。彼は就職先に困り、母親の剣道場の師範代である嵯峨惟基を頼り軍に人型兵器『アサルト・モジュール』のパイロットの幹部候補生という待遇でなんとか入ることができた。
しかし、基礎訓練を終え、士官候補生として配属されたその嵯峨惟基が部隊長を務める部隊『遼州同盟司法局実働部隊』は巨大工場の中に仮住まいをする肩身の狭い状況の部隊だった。
さらに追い打ちをかけるのは個性的な同僚達。
直属の上司はガラは悪いが家柄が良いサイボーグ西園寺かなめと無口でぶっきらぼうな人造人間のカウラ・ベルガーの二人の女性士官。
他にもオタク趣味で意気投合するがどこか食えない女性人造人間の艦長代理アイシャ・クラウゼ、小さな元気っ子野生農業少女ナンバルゲニア・シャムラード、マイペースで人の話を聞かないサイボーグ吉田俊平、声と態度がでかい幼女にしか見えない指揮官クバルカ・ランなど個性の塊のような面々に振り回される誠。
しかも人に振り回されるばかりと思いきや自分に自分でも自覚のない不思議な力、「法術」が眠っていた。
考えがまとまらないまま初めての宇宙空間での演習に出るが、そして時を同じくして同盟の存在を揺るがしかねない同盟加盟国『胡州帝国』の国権軍権拡大を主張する独自行動派によるクーデターが画策されいるという報が届く。
誠は法術師専用アサルト・モジュール『05式乙型』を駆り戦場で何を見ることになるのか?そして彼の昇進はありうるのか?
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
GHOST GIRL.hack(ゴーストガールドットハック)
東郷 零士
SF
「あれ?私死んでるんですけど」
殉職した婦人警官「山本美鈴」は、とある科学の研究プロジェクトで「実験体」としてあの世から無理矢理呼び戻されてしまう、
奇想天外SFコミカルストーリー。
強力な相棒を手に入れプロジェクトから脱走を試みる美鈴。
そして自分を殺した犯人を自分で追い詰める。
スペーストレイン[カージマー18]
瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。
久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。
そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。
さらば自由な日々。
そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。
●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。
New Page on-line
腹減り雀
SF
細かい処まで徹底的に作り込み、既存の物を遥かに凌駕すると豪語したVRmmoがサービスを開始する。
友達に誘われて始める、どこまでも自分の道を行く無自覚暴走娘のVRmmoプレイ日記。
いざ、暴走開始。
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる