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第一章 最終節 決意

第157話 もう自分で自分を始末することもできない

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 ヤマトはタラップに手をかけて駆け登っていた。それがどこなのかわからなかったが、ヤマトは雨にからだをうたれながら、梯子をのぼっていた。
 ヤマトが次の梯子に手をかけた時、濡れた把手に足を滑らせた。ヤマトのからだが、梯子にそって滑り落ちる。
 アスカはアッと声をあげそうになったが、ヤマトは数メートル落下したところで踏みとどまった。足を支柱にからませて、それ以上の落下を防ぐことができたようだった。
 あんた、ボカぁ……。なにしてんの、あぶないでしょ……。

 ふいに大きな声が頭の中に響いてきた。ブライトの声だった。
「ヤマト、何をしている。アスカはもう限界だ。次にセラ・ヴィーナスに搏動あったら、それで終わりだ。間に合わん」
「それはこっちでもモニタリングしてわかってる。邪魔をしないで」
「タケル、すまねぇ。もしもん時は……」
「もしもなんて口にするな、アル。簡単にお手上げしたら、許さない!」
「最後の猶予を与えたんだ。ヤマト、おまえがこちらにあわせろ!」
 声を荒げたヤマトをブライトが叱りつけたところで、声は聞こえてきた時におなじようにふいに聞こえなくなった。
 アスカはヤマトたちが何でそんなにも、ギスギスしているのかわからなかったが、最後にヤマトの声を開けたのはすこしうれしかった。
 ふいに頭の中に疑問がともった。
 次の搏動があったら終わり……?。
 アスカは自分の右腕に接続されている静脈チューブに目をやった。本来、浄化されて体内に戻ってくるはずの自分の赤い血が、途中から青になっているのに気づいた。
 青い血……。あぁ、そうなのね。これのことなんだ。
 あれはこのセラ・ヴィーナスの血。あの血であたしの意識を乗っとって、操るつもりなんだ。
 突然、どっと汗が体中から吹きだした。
 早くあたしをここから引きはがさないと……。
 アスカは静脈キューブを引き抜こうと手をのばそうとした。だが、左腕が動かなかった。

 動け!。動け、動い……て……。
 アスカは朦朧とした頭で、今度は両手を座席の下にのばした。
 チューブを引き抜くのが叶わないのなら、自分自身で自分の身を処さねばならない。
 だが先ほどは指をかけられたはずの脱出用スイッチに、もう手をのばすことさえできなかった。
 ダメ……、動かない……。もう自分で自分を始末することもできない……。
 だれかボタンを押して……。
 あぁ、アル、お願い、あたしを解放して、あたしを兄のような化物にしないで……。
 メイ、あなた、アルに命令なさいよ。デミリアンをたて続けにうしなったら、あなたも困るでしょ。
 いえ、それならブライト……。あんたこそすべての権限があるんだから、さっさと始末するように命令をくだしなさいよね。
 モニタに映る司令部の面々の映像は先ほどから白濁がひどく、もう動いていることくらいしかわからなくなっていた。
 お願い!、誰でもいいから……
 その時、大きな心音が、ことさら自分の胸を締めつけるような強い搏動が聞こえた。アスカは薄れゆく意識の中で、青い血が押し出されていくのを見た。静脈チューブからデミリアンの血が、人間ではないなにかのDNAが送りこまれる。

 ごめん、兄さん。あたしも耐えきれなかった……。
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