上 下
150 / 1,035
第一章 最終節 決意

第149話 タケル、すこし時間をもらっていい?

しおりを挟む
 それは実に人間っぽい反応だった。
 まずプルートゥは自分に何が起きたのか、見きわめようと槍が刺さっている自分の胸をみた。驚いているような仕草だった。そのあと、突き刺さっている槍の柄を握りしめて、それをひき抜こうとした。が、それができるほどの力が腕になくなっていることに気づいて、 正面のセラ・ヴィーナスの方にゆっくりと顔をむけた。
 アスカはプルートゥを正面から睨みつけながら槍をひきぬいた。
 とたんに、コックピットの開口部から、血がどっと吹き出す。青い血が開口部の縁から流れおちていく。
 アスカが突き出した光の槍は、背中まで貫通していた。背中の傷口からも噴水のように勢いよく青い血しぶきが吹き出していた。プルートゥは口元を歪め、低い呻き声をあげるなり、そのままよろよろと後ずさりし、崖に背中をあずけるようにして倒れこんだ。半開きのままになったゆがんだ口元からも青い血が滴りおちはじめる。
 アスカの一撃はプルートゥの心臓を貫いた。とヤマトは確信した。まちがいなく致命傷だ。
「アスカ、よくやった」
 アスカは首をうなだれたまま、返事をしようともしてこなかった。ヤマトは春日リンに話しかけた。
「リンさん、アスカがプルートゥを倒した」
「そのようね」
 すこし浮かぬ顔でリンが答えた。モニタの向こうのリンは頭からずぶ濡れで、髪の毛は
ぺたりと頭にはりついていた。
「これだけ青い血が流れているっていうことは、プルートゥの心臓か、動脈が深刻な損傷を受けたってことね」
 ヤマトはあいかわらず晴れない表情のリンに言った。
「プルートゥの心臓を貫いたのはまちがいない」
「そうね。私も同じ見解。でも亜獣プルートゥは……、もう一つ心臓を持ってる」
 ヤマトははっとした。アスカの潔ぎよい行動に見とれて、大切なことを見落としていた。リンがうかない表情をしているのも道理だった。     
 迂潤にもほどがある。
 ヤマトは自分への怒りを転稼するように、大きな声でアスカに言った。
「アスカ!。まだだ……。もう一つの心臓が残っている。それを突かないと、プルートゥが再生する可能性がある」
 アスカがゆっくり顔をあげ、メインモニタの方に顔をむけた。
「もう一つの心臓ってなによ?」
 アスカの顔に苦脳の表情が色濃く感じられた。ヤマトは一瞬、これ以上は無理させられないと判断しそうになった。だが、今、マンゲツが骨折で足を引きずりながら進んでいる状況では、アスカに最後までやってもらうしかなさそうだった 。
「コックピットの真中に、もう一つの心臓が残っている」
 ヤマトは息をぐっと飲んだ。命じるほうにも覚悟のいる指示だ。
「リョウマがまだ鼓動を刻んでいる。それも止めないと復活する可能性がある」
 それを聞き終えても、アスカは何も反応しようとしなかった。
 ヤマトはこれ以上、追いつめられないと感じ、そのままアスカの返事を待った。やがて、アスカが目線をこちらにむけた。モニタ越しでは、その目に覚悟が宿ったかどうか、判断できなかった。
 ヤマトはどんな返事でも、アスカに強要しまいと決めて、アスカを見つめた。
「タケル、すこし時間をもらっていい?」
「時間を?」
「兄さんに最後の拶挨をしたいの……」
 ヤマトは腹を括っていたはずなのに、アスカの返事にほんのすこし動揺した。
 だが、これは自分だけでは決められないことだ。ヤマトはブライトに許可をもらおうと、テレパス・ラインを起動した。が、その前にブライトの方から頭に返事がとびこんできた
「かまわない。ただし五分だけだ。リンがそれくらいの時間なら、復活はしないだろうと言っている」
 アスカが弱々しい笑みを浮べて「ありがとう」と言うと、頭上からリアル・バーチャリティのゴーグルをひきおろすのが見えた。
「ゴーストを飛翔させます」
 モニタにセラ・ヴィーナスの頭部分に格納されていた、羽虫のような「ゴースト照射装置」がふわっと飛びだすのが映った。ゴーストは点滅しながら雨の中を飛んでいくと、崖を背に座ったま身動きしない、プルートゥのコックピットの中へ吸い込まれていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

❤️レムールアーナ人の遺産❤️

apusuking
SF
 アランは、神代記の伝説〈宇宙が誕生してから40億年後に始めての知性体が誕生し、更に20億年の時を経てから知性体は宇宙に進出を始める。  神々の申し子で有るレムルアーナ人は、数億年を掛けて宇宙の至る所にレムルアーナ人の文明を築き上げて宇宙は人々で溢れ平和で共存共栄で発展を続ける。  時を経てレムルアーナ文明は予知せぬ謎の種族の襲来を受け、宇宙を二分する戦いとなる。戦争終焉頃にはレムルアーナ人は誕生星系を除いて衰退し滅亡するが、レムルアーナ人は後世の為に科学的資産と数々の奇跡的な遺産を残した。  レムールアーナ人に代わり3大種族が台頭して、やがてレムルアーナ人は伝説となり宇宙に蔓延する。  宇宙の彼方の隠蔽された星系に、レムルアーナ文明の輝かしい遺産が眠る。其の遺産を手にした者は宇宙を征するで有ろ。但し、辿り付くには3つの鍵と7つの試練を乗り越えねばならない。  3つの鍵は心の中に眠り、開けるには心の目を開いて真実を見よ。心の鍵は3つ有り、3つの鍵を開けて真実の鍵が開く〉を知り、其の神代記時代のレムールアーナ人が残した遺産を残した場所が暗示されていると悟るが、闇の勢力の陰謀に巻き込まれゴーストリアンが破壊さ

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

CREATED WORLD

猫手水晶
SF
 惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。  惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。  宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。  「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。  そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

【完結】最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~

成実ミナルるみな
SF
 四鹿(よつしか)跡永賀(あとえか)には、古家(ふるや)実夏(みか)という初恋の人がいた。出会いは幼稚園時代である。家が近所なのもあり、会ってから仲良くなるのにそう時間はかからなかった。実夏の家庭環境は劣悪を極めており、それでも彼女は文句の一つもなく理不尽な両親を尊敬していたが、ある日、実夏の両親は娘には何も言わずに蒸発してしまう。取り残され、茫然自失となっている実夏をどうにかしようと、跡永賀は自分の家へ連れて行くのだった。  それからというもの、跡永賀は実夏と共同生活を送ることになり、彼女は大切な家族の一員となった。  時は流れ、跡永賀と実夏は高校生になっていた。高校生活が始まってすぐの頃、跡永賀には赤山(あかやま)あかりという彼女ができる。  あかりを実夏に紹介した跡永賀は愕然とした。実夏の対応は冷淡で、あろうことかあかりに『跡永賀と別れて』とまで言う始末。祝福はしないまでも、受け入れてくれるとばかり考えていた跡永賀は驚くしか術がなかった。  後に理由を尋ねると、実夏は幼稚園児の頃にした結婚の約束がまだ有効だと思っていたという。当時の彼女の夢である〝すてきなおよめさん〟。それが同級生に両親に捨てられたことを理由に無理だといわれ、それに泣いた彼女を慰めるべく、何の非もない彼女を救うべく、跡永賀は自分が実夏を〝すてきなおよめさん〟にすると約束したのだ。しかし家族になったのを機に、初恋の情は家族愛に染まり、取って代わった。そしていつからか、家族となった少女に恋慕することさえよからぬことと考えていた。  跡永賀がそういった事情を話しても、実夏は諦めなかった。また、あかりも実夏からなんと言われようと、跡永賀と別れようとはしなかった。  そんなとき、跡永賀のもとにあるゲームの情報が入ってきて……!?

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ

黒陽 光
SF
 その日、1973年のある日。空から降りてきたのは神の祝福などではなく、終わりのない戦いをもたらす招かれざる来訪者だった。  現れた地球外の不明生命体、"幻魔"と名付けられた異形の怪異たちは地球上の六ヶ所へ巣を落着させ、幻基巣と呼ばれるそこから無尽蔵に湧き出て地球人類に対しての侵略行動を開始した。コミュニケーションを取ることすら叶わぬ異形を相手に、人類は嘗てない絶滅戦争へと否応なく突入していくこととなる。  そんな中、人類は全高8mの人型機動兵器、T.A.M.S(タムス)の開発に成功。遂に人類は幻魔と対等に渡り合えるようにはなったものの、しかし戦いは膠着状態に陥り。四十年あまりの長きに渡り続く戦いは、しかし未だにその終わりが見えないでいた。  ――――これは、絶望に抗う少年少女たちの物語。多くの犠牲を払い、それでも生きて。いなくなってしまった愛しい者たちの遺した想いを道標とし、抗い続ける少年少女たちの物語だ。 表紙は頂き物です、ありがとうございます。 ※カクヨムさんでも重複掲載始めました。

処理中です...