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第一章 最終節 決意
第133話 ボクはあんたのことをアヤト兄ぃ、なんて呼びかたしたことないんだから
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アトンの上半分が消しとんだ瞬間、ヤマトの真横で乾いた破裂言が響いた。カミナ・アヤトが吹きとんだ音だった。すでに左半分しか残っていなかったが、今度は下半分、胸から下がなくなっていた。
思いがけない衝激波にヤマトはビクリと体を震わせた。耳がキーンと鳴る。
宿主であるアトンが絶命したのだから、当然のことだと思いながら、あまりにも劇的な変化にヤマトもとまどわざるをえなかった。
アヤトが恨めしげな目でヤマトをにらみつけた。コックピットのシートの端に左腕一本でしがみついていた。不思議と、おぞましさはなかった。
「タケル、やってくれたな」
「ぼくがなにか?」
「おまえの入れ智恵だろ。あの作戦はぁ」
ヤマトは「そうだ」と言ってやりたかったが、あれは自称ゲームの達人『 』の仕業だ。悔しいことに、自分では思いつきもしなかった。
「残念だな、アヤト兄ぃ、ぼくは何もしなかった」
アヤトが顔をゆがめた。
「くそぅ。なぜだ。なぜ、おまえはオレを信じなかった!」
「まさか?。信じさせることができたら、ボクを操れたとでも?」
「ああ繰れたとも。リョウマのようにな」
ヤマトは苦笑いした。
「残念。それはない。最初からね」
「どういうことだ」
アヤトの体の残った部分が、すこしずつ透けはじめていた。だが、アヤトは恫喝するような視線をむけるのをやめようとはしなかった。
「だって、ボクはあんたのことを『アヤト兄ぃ』なんて呼びかたを、したことないんだから……。一度もね」
アヤトは攻撃的な態度を変えようとしなかった。
「嘘をつくな、タケル」
「嘘じゃないんだ……」
そう言いながら二本指をたててふると、空間に3Dの文字があらわれた。『神名朱門(かみな・あやと)』という文字が浮かびあがる。
「本当のあんたは、アヤトっていう男っぽい名前が好きじゃなくてね。おしゃれじゃねーって……。バカみたいだろ。男気のある、男の中の男っていう性格なのに、男らしい呼び名は嫌だって、サ」
「なんて……、なんて……呼ばせてたんだ……」
アヤトの体も声もすでに消えいりそうになっていた。
ヤマトはこの偽物のアヤトともそろそろお別れだと感じた。ヤマトは中空に浮かんでいる文字から、名前の部分だけをピックアップして言った。
『朱門』の文字が中空で踊る。
「シモン——」
「ボクはアンタのことをずっと、シモンって呼んでた」
「シ・モ・ン……。女の名前じゃねぇか……」
呆然とした表情を浮べたまま、消えいりそうな声でアヤトが呟いた。
「シモン、たとえ偽物であっても、アンタと話しができて悪くなかったよ」
もう顔の輪郭くらいしか視認できなくなるほど、うすく透き通ったアヤトが寂しげに頷いた。
「あぁ、そうだな……。タケル……、悪くなかった」
消えていくアヤトの幻影に、ヤマトは最後のことばを静かに投げかけた。
「グレン団、団長。カミナ・シモンたぁ……、あんたのことだ」
思いがけない衝激波にヤマトはビクリと体を震わせた。耳がキーンと鳴る。
宿主であるアトンが絶命したのだから、当然のことだと思いながら、あまりにも劇的な変化にヤマトもとまどわざるをえなかった。
アヤトが恨めしげな目でヤマトをにらみつけた。コックピットのシートの端に左腕一本でしがみついていた。不思議と、おぞましさはなかった。
「タケル、やってくれたな」
「ぼくがなにか?」
「おまえの入れ智恵だろ。あの作戦はぁ」
ヤマトは「そうだ」と言ってやりたかったが、あれは自称ゲームの達人『 』の仕業だ。悔しいことに、自分では思いつきもしなかった。
「残念だな、アヤト兄ぃ、ぼくは何もしなかった」
アヤトが顔をゆがめた。
「くそぅ。なぜだ。なぜ、おまえはオレを信じなかった!」
「まさか?。信じさせることができたら、ボクを操れたとでも?」
「ああ繰れたとも。リョウマのようにな」
ヤマトは苦笑いした。
「残念。それはない。最初からね」
「どういうことだ」
アヤトの体の残った部分が、すこしずつ透けはじめていた。だが、アヤトは恫喝するような視線をむけるのをやめようとはしなかった。
「だって、ボクはあんたのことを『アヤト兄ぃ』なんて呼びかたを、したことないんだから……。一度もね」
アヤトは攻撃的な態度を変えようとしなかった。
「嘘をつくな、タケル」
「嘘じゃないんだ……」
そう言いながら二本指をたててふると、空間に3Dの文字があらわれた。『神名朱門(かみな・あやと)』という文字が浮かびあがる。
「本当のあんたは、アヤトっていう男っぽい名前が好きじゃなくてね。おしゃれじゃねーって……。バカみたいだろ。男気のある、男の中の男っていう性格なのに、男らしい呼び名は嫌だって、サ」
「なんて……、なんて……呼ばせてたんだ……」
アヤトの体も声もすでに消えいりそうになっていた。
ヤマトはこの偽物のアヤトともそろそろお別れだと感じた。ヤマトは中空に浮かんでいる文字から、名前の部分だけをピックアップして言った。
『朱門』の文字が中空で踊る。
「シモン——」
「ボクはアンタのことをずっと、シモンって呼んでた」
「シ・モ・ン……。女の名前じゃねぇか……」
呆然とした表情を浮べたまま、消えいりそうな声でアヤトが呟いた。
「シモン、たとえ偽物であっても、アンタと話しができて悪くなかったよ」
もう顔の輪郭くらいしか視認できなくなるほど、うすく透き通ったアヤトが寂しげに頷いた。
「あぁ、そうだな……。タケル……、悪くなかった」
消えていくアヤトの幻影に、ヤマトは最後のことばを静かに投げかけた。
「グレン団、団長。カミナ・シモンたぁ……、あんたのことだ」
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