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第一章 最終節 決意
第131話 死ぬのはあとまわしにしてもらえる?
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空が黒々と染まりはじめた。
あれは人類にとっての福音。人々をくるしめた亜獣どもへの審判がくだされたのだ。
シン・フィールズは心が湧きたった。
今こそ黄泉より集いし友たちと共に、人類の勝利の勝ちどきを高らかにあげようではないか。
目の前に福音が黒い閃光となって迫っていた。
「うぉぉぉぉぉぉ……」
フィールズはその歓喜の瞬間に、雄叫びをあげずにいられなかった。
ああ、これで何もかも終わりになる。
視野の中に黒い影だけが目いっぱいに映ったその時、フィールズは体に強烈な衝激を感じた。からだ中を痛みが駆け抜け、フィールズの体がうしろにそっくり返る。自分では想像すらしたことのない悲鳴が、咽の奥底からほとばしりでていた。
彼は痛みに目をむけた。
肩口に長い針が刺さっていた。
なぜ、こんなものが刺さっている?
ぼうっとした表情であたりを見回した。自分の周辺のすぐ近くの路面は、おなじような長い針でびっしりと埋め尽くされていた。
なにがあった?。
「フィールズ中将!」
突然、網膜デバイスを通じて龍アスカの顔が映しだされた。アスカはほっとした表情を浮かべていた。
「死ぬのはあとまわしにしてもらえる?」
彼はふと自分の目の前にあるものに気づいてハッとした。
それは、セラ・ヴィーナスの手のひらだった。その手のひらを貫いた針が何本か、短く突き出していた。そのわずかな針の先端部分が自分の肩に刺さっていたのだ。
「龍少尉か……」
「もうちょっとであいつの串刺しコレクションの仲間入りだったわよ」
「きみに助けられたのか?」
「えぇ。完璧ではないけどね」
シン・フィールズはようやく合点がいった。自分は亜獣からの攻撃をうけて、串刺しになるところを身を呈して助けられたのだ。フィールズは肩に刺さっていた針の先端部分を引き抜いた。
「まったくだ。完璧ではないようだ」
明けてきた日の光に照らされはじめたセラ・ヴィーナスの機体を見上げながら、フィールズが返事した。
「フィールズ中将、ご無事ですか?」
ブライトの声がふいに脳内に飛び込んできた。
「あぁ、手荒い目覚ましだったがね。ところで、わたしは……」
フィールズの問いかけを、ブライトが早口で遮った。
「それはあとで説明します。今すぐ亜獣アトンへの攻撃をお願いします」
フィールズの網膜の映像が強制的にラ・サターンと亜獣の影像に切り変った。
「さきほどアトンが針の矢を放ってから50秒経っています。おそらく数十秒から数分後にもう一撃がきます。その瞬間に攻撃を!」
フィールズはブライトにむけて無言で頷いてみせると、痛む右肩を手でおさえながら声を張った。
「各員!。正面の亜獣にむけて照準を合せろ!」
------------------------------------------------------------
「遠慮なく撃ってくれてかまわない」
レイは躊躇することなくそう言い切った。
「なにを言ってるの、プルートゥもろとも吹き飛ぶわよ」
リンがヒステリックなまでに声を荒げた。レイは必死になる彼女の心中を察したが、命令は『亜獣を倒せ』だ。そこには言外にセラ・サターンがどうなろうとも、が含まれる。
「アトンの息の根をとめて。それが最優先でしょ」
「でも、このアトンの息の根はとめないとダメでしょ」
「ヤマトが援軍に戻るのを待てない?」
リンが懇願するように意見したが、すぐに脇からエドが口をはさんできた。
「春日博士、それでは間に合わない。アトンにのこちら世界の活動時間は残り5分を切った。もうそれほど時間は残されてない」
リンは横からさしでがましく口を狭んできたエドをにらみつけた。
「よかった。もうやるしかない」
「レイ、亜獣のうしろに隠れてても『移行領域』に弾が抜けたら、ひとたまりもないのよ」
「たぶん、大丈夫だと思う」
「大丈夫だと!。どうしてそう言える」
「頭の中にいる別の私が言ってるの……」
「『 』が?。なんて言ってるんだ」
「ゲームは終ってないって……」
「どういう意味なんだ?」
「私が聞きたい。みんなさっきまでのこの子と話してたんでしょ」
「だが……」
「だったら、大丈夫だって、わかるんじゃないの」
「でも、あなた、動けないのよ」
リンがすがるように翻意をうながした。
「えぇ。でも指の二、三本、動かせるみたいだから、なんとかなる」
「たったそれだけで……」
その時、ミライが司令部の室内に声を響かせた。
「アトンから攻撃の波形。針の矢が発射されます!!」
あれは人類にとっての福音。人々をくるしめた亜獣どもへの審判がくだされたのだ。
シン・フィールズは心が湧きたった。
今こそ黄泉より集いし友たちと共に、人類の勝利の勝ちどきを高らかにあげようではないか。
目の前に福音が黒い閃光となって迫っていた。
「うぉぉぉぉぉぉ……」
フィールズはその歓喜の瞬間に、雄叫びをあげずにいられなかった。
ああ、これで何もかも終わりになる。
視野の中に黒い影だけが目いっぱいに映ったその時、フィールズは体に強烈な衝激を感じた。からだ中を痛みが駆け抜け、フィールズの体がうしろにそっくり返る。自分では想像すらしたことのない悲鳴が、咽の奥底からほとばしりでていた。
彼は痛みに目をむけた。
肩口に長い針が刺さっていた。
なぜ、こんなものが刺さっている?
ぼうっとした表情であたりを見回した。自分の周辺のすぐ近くの路面は、おなじような長い針でびっしりと埋め尽くされていた。
なにがあった?。
「フィールズ中将!」
突然、網膜デバイスを通じて龍アスカの顔が映しだされた。アスカはほっとした表情を浮かべていた。
「死ぬのはあとまわしにしてもらえる?」
彼はふと自分の目の前にあるものに気づいてハッとした。
それは、セラ・ヴィーナスの手のひらだった。その手のひらを貫いた針が何本か、短く突き出していた。そのわずかな針の先端部分が自分の肩に刺さっていたのだ。
「龍少尉か……」
「もうちょっとであいつの串刺しコレクションの仲間入りだったわよ」
「きみに助けられたのか?」
「えぇ。完璧ではないけどね」
シン・フィールズはようやく合点がいった。自分は亜獣からの攻撃をうけて、串刺しになるところを身を呈して助けられたのだ。フィールズは肩に刺さっていた針の先端部分を引き抜いた。
「まったくだ。完璧ではないようだ」
明けてきた日の光に照らされはじめたセラ・ヴィーナスの機体を見上げながら、フィールズが返事した。
「フィールズ中将、ご無事ですか?」
ブライトの声がふいに脳内に飛び込んできた。
「あぁ、手荒い目覚ましだったがね。ところで、わたしは……」
フィールズの問いかけを、ブライトが早口で遮った。
「それはあとで説明します。今すぐ亜獣アトンへの攻撃をお願いします」
フィールズの網膜の映像が強制的にラ・サターンと亜獣の影像に切り変った。
「さきほどアトンが針の矢を放ってから50秒経っています。おそらく数十秒から数分後にもう一撃がきます。その瞬間に攻撃を!」
フィールズはブライトにむけて無言で頷いてみせると、痛む右肩を手でおさえながら声を張った。
「各員!。正面の亜獣にむけて照準を合せろ!」
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「遠慮なく撃ってくれてかまわない」
レイは躊躇することなくそう言い切った。
「なにを言ってるの、プルートゥもろとも吹き飛ぶわよ」
リンがヒステリックなまでに声を荒げた。レイは必死になる彼女の心中を察したが、命令は『亜獣を倒せ』だ。そこには言外にセラ・サターンがどうなろうとも、が含まれる。
「アトンの息の根をとめて。それが最優先でしょ」
「でも、このアトンの息の根はとめないとダメでしょ」
「ヤマトが援軍に戻るのを待てない?」
リンが懇願するように意見したが、すぐに脇からエドが口をはさんできた。
「春日博士、それでは間に合わない。アトンにのこちら世界の活動時間は残り5分を切った。もうそれほど時間は残されてない」
リンは横からさしでがましく口を狭んできたエドをにらみつけた。
「よかった。もうやるしかない」
「レイ、亜獣のうしろに隠れてても『移行領域』に弾が抜けたら、ひとたまりもないのよ」
「たぶん、大丈夫だと思う」
「大丈夫だと!。どうしてそう言える」
「頭の中にいる別の私が言ってるの……」
「『 』が?。なんて言ってるんだ」
「ゲームは終ってないって……」
「どういう意味なんだ?」
「私が聞きたい。みんなさっきまでのこの子と話してたんでしょ」
「だが……」
「だったら、大丈夫だって、わかるんじゃないの」
「でも、あなた、動けないのよ」
リンがすがるように翻意をうながした。
「えぇ。でも指の二、三本、動かせるみたいだから、なんとかなる」
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