120 / 1,035
第一章 最終節 決意
第119話 目をそらしてもらえばいいんです
しおりを挟む
マップにふいに点滅する光が現われた。一気に四つ。
この光は左側を警護していた重戦機甲兵『ズク』ではない。
ほかのエリアの重戦機甲兵が、援軍にむかってきていることを示していた。
「判断が速いな」
これでヤマトが相手にしなくてはならない敵は二体から、すくなくとも六体になった。 ヤマトは先を急いだ。今、もっとも回避しなければならない事態は、この六体と同時に襲いかかられることだ。
そんな暇はない——。
八ツ足の『アッカム』を機能不全にして、アスカを上空から迎いいれ、孤軍奮闘しているレイの応援にいかねばならない。
エリアの中央付近に近づくと、右側を護衛していたズクはすでに移動をおえ、迎撃体制を整えていることがわかった。ビルディングの陰に穏れていたが、見通しのきくワンフロアタイプのビジネスビルの窓から、銃をかまえている。
ヤマトはメインモニタに映る、ビル陰にひそむ二体のズクをつぶさに観察した。
おそれいったことに今いる場所からは、つけいる瞭がないように思える。
練度が高い。
ヤマトはメインモニタに司令部を呼びだした。
「ブライトさん。そちらから援護してもらう方法はなにかない?」
画面に映ったブライトは、憤懣やるかたない表情を隠そうともしてなかった。
「ヤマト、こちらの手駒はおまえたち、デミリアン三体のみだ。今もミライが攻撃中止をフィールズ中将にかけあってはいるが、聞く耳を持ってもらえんのは変わらん」
ヤマトは当然の回答だと、あらためて心の中で反芻したが、同時にひとつのアイディアが浮かんだ。
「ブライトさん、この場所はそちらからそんなに離れてないよね。こちらに届く威力の兵器ないですか?」
「こんな場所から当たるものか」
「目をそらしてもらえばいいんです。そうすればあとはボクがなんとかします」
すると、割り込んでくるように、アルがメインモニタの右隅のワイプ画面にあらわれた。
「すまねなヤマト。うちはデミリアン専門部隊だから、大仰な武器や兵器は配備されてねーんだ」
「武器じゃなくていい、敵の注意をそらせれば……」
「んじゃあ、あるじゃねーか」
アルの答えにヤマトが喰いついた。
「じゃあそれを撃ってくれ、アル」
「そんな長距離砲なんぞねぇよ。タケル、撃つんじゃない、落とすんだ」
「落とす?」
「頭上から照明弾をバラまいてもらえよ、タケル……。アスカにな」
-----------------------------------------------------------
「何発落とせばいい?」
メインモニタに呼びだした装備欄に目を這わせながら、アスカが声を弾ませた。下からの攻撃に逃げまわるしか術のない我が身が、腸が煮えくりかえるほどの悔しかったアスカにとって、その提案はまさに渡りに船だった。
「何十発でも落とせるわ」
モニタのむこうのヤマトはわずかにげんなりとした顔をした。
「アスカ、二発でいいよ。とにかく、二発、頭上に落としてくれ」
「了解」
アスカの鼓動が高なった。
これで変即的とはいえ、参戦することができる。正確に言えば、自分を助けようとするタケルを助ける、ということになるが、そんなことはどうでもよかった。
ヤマトの役にたてることが、なによりも嬉しかった。
ふとすぐ脇にある機器に目をむけた。
その機器の表面に、にやついた自分の顔が映っていた。アスカはぐっと表情をひきしめた。
なに嬉しそうにしてるのよ、アスカ。そんなに浮かれちゃって。あんたぁ『ボカ』ぁ!。
「タケル、落とすタイミング、教えなさいよね」
アスカがつっけんどんに言った。
そう、あんたはそういう偉そうな口調のおんなでしょ。己をわきまえるがいいわ。
「カウントする」
ヤマトのひと言とともに、メインモニタの真中に「10」の数字が表示された。「9・8・7……」数字がカウントダウンされる。数字の下に映るカメラ映像には、ヤマトがサムライソードを引き抜いてビルの陰から疾走していく姿があった。
あえて接近戦で勝負するらしい。
別のモニタにはヤマトの動きを察知したズク二体が迎撃体制に入ったのが見てとれた。
「3・2・1」
アスカはスイッチを押した。セラ・ヴィーナスの両側のふともも部分にある射出口から、照明弾がすべり落ちていく。アスカは頭上にある装置を操作し、目元をバイザーで覆うと、夜空を落下していく照明弾を目で追った。照明弾の点火位置は地上五十メートル。そんな近くで閃光を直視してしまったら、しばらくのあいだ視界を奪われるのは確実だろう。暗視ゴーグルをつけていたとしたら、失明の可能性すらある。
地上でまばゆい光が炸裂した。
照らされた光の中で、ヤマトが二体のズクを一気に斬り伏せたのが見えた。ヤマトはそのまま、自走式テラ素粒子砲『八ツ足』アッカムのほうへ突っ走る。アッカムの粒子砲の先に光が集まりはじめたのが見える。オレンジ色に発光している。発射準備にはいった証拠だ。
「タケル、急いで」
ヤマトがアッカムの上空への砲撃を食い止めようと、サムライソードで砲身を断ち切った。
「よし」
アスカは思わず声をあげた。
が、ぐらりと傾いた砲身の砲口から光が消えていないのが見えた。
粒子砲がまだ生きている。
砲口はヤマトのマンゲツのほうをむいていた。
アスカの息が止まった。
砲口からオレンジ色の眩い光が放射された。
この光は左側を警護していた重戦機甲兵『ズク』ではない。
ほかのエリアの重戦機甲兵が、援軍にむかってきていることを示していた。
「判断が速いな」
これでヤマトが相手にしなくてはならない敵は二体から、すくなくとも六体になった。 ヤマトは先を急いだ。今、もっとも回避しなければならない事態は、この六体と同時に襲いかかられることだ。
そんな暇はない——。
八ツ足の『アッカム』を機能不全にして、アスカを上空から迎いいれ、孤軍奮闘しているレイの応援にいかねばならない。
エリアの中央付近に近づくと、右側を護衛していたズクはすでに移動をおえ、迎撃体制を整えていることがわかった。ビルディングの陰に穏れていたが、見通しのきくワンフロアタイプのビジネスビルの窓から、銃をかまえている。
ヤマトはメインモニタに映る、ビル陰にひそむ二体のズクをつぶさに観察した。
おそれいったことに今いる場所からは、つけいる瞭がないように思える。
練度が高い。
ヤマトはメインモニタに司令部を呼びだした。
「ブライトさん。そちらから援護してもらう方法はなにかない?」
画面に映ったブライトは、憤懣やるかたない表情を隠そうともしてなかった。
「ヤマト、こちらの手駒はおまえたち、デミリアン三体のみだ。今もミライが攻撃中止をフィールズ中将にかけあってはいるが、聞く耳を持ってもらえんのは変わらん」
ヤマトは当然の回答だと、あらためて心の中で反芻したが、同時にひとつのアイディアが浮かんだ。
「ブライトさん、この場所はそちらからそんなに離れてないよね。こちらに届く威力の兵器ないですか?」
「こんな場所から当たるものか」
「目をそらしてもらえばいいんです。そうすればあとはボクがなんとかします」
すると、割り込んでくるように、アルがメインモニタの右隅のワイプ画面にあらわれた。
「すまねなヤマト。うちはデミリアン専門部隊だから、大仰な武器や兵器は配備されてねーんだ」
「武器じゃなくていい、敵の注意をそらせれば……」
「んじゃあ、あるじゃねーか」
アルの答えにヤマトが喰いついた。
「じゃあそれを撃ってくれ、アル」
「そんな長距離砲なんぞねぇよ。タケル、撃つんじゃない、落とすんだ」
「落とす?」
「頭上から照明弾をバラまいてもらえよ、タケル……。アスカにな」
-----------------------------------------------------------
「何発落とせばいい?」
メインモニタに呼びだした装備欄に目を這わせながら、アスカが声を弾ませた。下からの攻撃に逃げまわるしか術のない我が身が、腸が煮えくりかえるほどの悔しかったアスカにとって、その提案はまさに渡りに船だった。
「何十発でも落とせるわ」
モニタのむこうのヤマトはわずかにげんなりとした顔をした。
「アスカ、二発でいいよ。とにかく、二発、頭上に落としてくれ」
「了解」
アスカの鼓動が高なった。
これで変即的とはいえ、参戦することができる。正確に言えば、自分を助けようとするタケルを助ける、ということになるが、そんなことはどうでもよかった。
ヤマトの役にたてることが、なによりも嬉しかった。
ふとすぐ脇にある機器に目をむけた。
その機器の表面に、にやついた自分の顔が映っていた。アスカはぐっと表情をひきしめた。
なに嬉しそうにしてるのよ、アスカ。そんなに浮かれちゃって。あんたぁ『ボカ』ぁ!。
「タケル、落とすタイミング、教えなさいよね」
アスカがつっけんどんに言った。
そう、あんたはそういう偉そうな口調のおんなでしょ。己をわきまえるがいいわ。
「カウントする」
ヤマトのひと言とともに、メインモニタの真中に「10」の数字が表示された。「9・8・7……」数字がカウントダウンされる。数字の下に映るカメラ映像には、ヤマトがサムライソードを引き抜いてビルの陰から疾走していく姿があった。
あえて接近戦で勝負するらしい。
別のモニタにはヤマトの動きを察知したズク二体が迎撃体制に入ったのが見てとれた。
「3・2・1」
アスカはスイッチを押した。セラ・ヴィーナスの両側のふともも部分にある射出口から、照明弾がすべり落ちていく。アスカは頭上にある装置を操作し、目元をバイザーで覆うと、夜空を落下していく照明弾を目で追った。照明弾の点火位置は地上五十メートル。そんな近くで閃光を直視してしまったら、しばらくのあいだ視界を奪われるのは確実だろう。暗視ゴーグルをつけていたとしたら、失明の可能性すらある。
地上でまばゆい光が炸裂した。
照らされた光の中で、ヤマトが二体のズクを一気に斬り伏せたのが見えた。ヤマトはそのまま、自走式テラ素粒子砲『八ツ足』アッカムのほうへ突っ走る。アッカムの粒子砲の先に光が集まりはじめたのが見える。オレンジ色に発光している。発射準備にはいった証拠だ。
「タケル、急いで」
ヤマトがアッカムの上空への砲撃を食い止めようと、サムライソードで砲身を断ち切った。
「よし」
アスカは思わず声をあげた。
が、ぐらりと傾いた砲身の砲口から光が消えていないのが見えた。
粒子砲がまだ生きている。
砲口はヤマトのマンゲツのほうをむいていた。
アスカの息が止まった。
砲口からオレンジ色の眩い光が放射された。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
グローリー・リーグ -宇宙サッカー奮闘記-
山中カエル
SF
サッカー日本代表山下龍也は、数多の困難を乗り越えついにワールドカップ本戦に駒を進めた。
待ちに待った開会式、その日会場は
破壊された
空に浮かぶUFO。壊される会場。現実味のない光景が眼前に広がる中、宇宙人から声が発せられる。
『サッカーで勝負だ。我々が勝てば地球は侵略する』
地球のため、そして大好きなサッカーのため、龍也は戦うことを決意する。
しかしそこに待ち受けていたのは、一癖も二癖もある仲間たち、試合の裏に隠された陰謀、全てを統べる強大な本当の敵。
そして龍也たちに隠された秘密とは……?
サッカーを愛する少年少女の、宇宙での戦いが今ここに始まる……!
***
※カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも同時掲載中です
※第三章は毎週水曜土曜更新の予定です
***
はじめまして、山中カエルです!
小説を書くのは初めての経験で右も左もわかりませんが、とにかく頑張って執筆するので読んでいただけたら嬉しいです!
よろしくお願いします!
Twitter始めました→@MountainKaeru
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
コスモス・リバイブ・オンライン
hirahara
SF
ロボットを操縦し、世界を旅しよう!
そんなキャッチフレーズで半年前に発売したフルダイブ型VRMMO【コスモス・リバイブ・オンライン】
主人公、柊木燕は念願だったVRマシーンを手に入れて始める。
あと作中の技術は空想なので矛盾していてもこの世界ではそうなんだと納得してください。
twitchにて作業配信をしています。サボり監視員を募集中
ディスコードサーバー作りました。近況ボードに招待コード貼っておきます
日本が日露戦争後大陸利権を売却していたら? ~ノートが繋ぐ歴史改変~
うみ
SF
ロシアと戦争がはじまる。
突如、現代日本の少年のノートにこのような落書きが成された。少年はいたずらと思いつつ、ノートに冗談で返信を書き込むと、また相手から書き込みが成される。
なんとノートに書き込んだ人物は日露戦争中だということだったのだ!
ずっと冗談と思っている少年は、日露戦争の経緯を書き込んだ結果、相手から今後の日本について助言を求められる。こうして少年による思わぬ歴史改変がはじまったのだった。
※地名、話し方など全て現代基準で記載しています。違和感があることと思いますが、なるべく分かりやすくをテーマとしているため、ご了承ください。
※この小説はなろうとカクヨムへも投稿しております。
100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。
弱職忍者はなりきり悪魔っ娘と「敵の後ろに回り込むスキル」で無双したい!
白遠
SF
新作VRゲームのベータ版先行プレイヤーに当たった主人公は、ゲームキャラとして「忍者」を選択、気づいた時にはゲーム世界に閉じ込められていた。
忍者に与えられたスキルは「敵の後ろに回りこむ」だけ! 湧いてくるエネミーともろくに戦えない弱職だったが、主人公はもともとマゾキャラ使い、しかもとってもかわいくてとっても強い悪魔ナリキリ美少女とパーティを組んでゲーム世界を満喫していた。
満喫し過ぎてうっかりしてたけどいつログアウトできんの!?
すっかりなりきり悪魔っ娘のしもべとなった忍者がマゾキャラプレイヤーの限界に挑む!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる