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第一章 最終節 決意
第116話 それが『紅蓮団』のやりかただったろ
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相手の兵士はこちらの居場所を把握しているはずだった。
ニューロン・ストリーマーで意識を共有していなかったが、機体の識別信号はマップ上ですぐに確認できる。ここまで接近しても攻撃してこないということは、このマンゲツという機体を味方と認識しているか、撃てない理由があるかのどちらかだ。
ヤマトはどちらであってもすぐに対応できるようしに、サムライ・ソードをうしろ手に隠したまま、ビルの影から半身進み出た。
八ツ足兵器『アッカム』の後方の警備を受けもっていた二体の重戦機甲兵がマンゲツの存在に気づいた。だが、彼らはこちらに銃をむけてこなかった。ヤマトはメインモニタに二体の兵士のコックピットの映像を分割して呼びだした。
一人は黒人系、一人はヒスパニック系の顔だちをしていた。
「すみません。手を借してもらえませんか」
「ヤマトは兵士たちに呼びかけながらゆっくりと近づいた。
「どうした。若いの?」
ヒスパニック系の兵士が陽気に返してきた。ヤマトは心の中で『よし』と思った。現場の兵士たちの間には幻影は共有されていない。指揮官が上空にいるアスカを敵と見なして命令を下しただけで、個々は単純にその命に従っているにすぎない。
「真中のレーザー砲を撃っている隊員に伝言をあずかってまして」
「機密事項を?。なんで直接じゃねーんだ」
「聞いてないな」とヒスパニック系の兵士が言うと黒人系の兵士が「いつだってそうだろうよ。本当に重要なことは俺たちには教えてもらえない」とぐちった。
「嘘はいけねーえな、タケル」
ふいに耳元で声がした。ヤマトはそれが誰かわかっていたが気づかないふりをした。不審なそぶりを見せて、二人の兵士に計画をさとられるわけにはいかなかった。
ヤマトはことさら屈託のない笑顔をカメラにむけてた。
「じゃあ、行かせてもらいますね」
「おう」という承諾の声が聞こえた。ヤマトは浅い呼吸を心がけながら、ゆっくりと息を吐きだすと、マンゲツの歩をすすめた。二機の重戦機甲兵は両側に一歩づつ退き、マンゲツが通る分の幅をあけた。
「こいつ、敵ですよ。兵士のみなさん。こいつは亜獣だ!!」
耳元で大きな声があがった。
『カンナ・アヤトぉぉぉ』
ヤマトは怒りを押し潰しながら、心の中で呟いたが、平穏そのものという顔色はピクリとも変えなかった。大丈夫だ。この声は兵士たちには届いていない。
だが、その演技は徒労に終った。
メインモニタに映った兵士二人の顔色が一瞬にして硬ばったのがわかった。
アヤトの声が届いたはずはない。だが、なにかしらの心情の変化はもたらせた。
それくらいの力はもっているということだ。「不安」という力を利用したのだ。
驚き、失態に対する反省、行動への俊巡、どうするという目くばせと、意思の疎通。
ほんの数秒のそれら一連の経緯が、ヤマトは手にとるようにわかった。
ヤマトはアクセルを踏み込むと、マンゲツの体を黒人兵の機体に激しくぶつけた。
予想より速い行動と、重々しい衝激に黒人兵の機体が大きく揺さぶられ、両手をひろげて倒れまいとバランスをとろうとする。ヤマトはその手から離れそうになった銃をもぎとると、至近距離から、顔、胸、腹に三発づつ撃ちこんだ。このモデルの機体のどこを破壊すれば、動きをとめられるかがわからなかったので、間違いのない部位を全部試してみただけだった。
コックピット右側の壁にあるデッドマンカウンターが、パタッと一枚めくれた。
すくなくともコックピットには命中したことがわかった。
力をうしない倒れかかってきた機体を、肩ですくいあげるようにして持ちあげると、ヤマトは反対側に渾身の力で押しだした。重戦機甲兵と言われるだけあってデミリアンの力を持ってしても、空中を舞わせることができなかったが、背後から銃を撃とうとしていたヒスパニック兵の注意をひくことはできた。
彼は目の前にどさりところがった同瞭の姿に一瞬、墟をつかれ、ひき金をひくのをためらった。ヤマトは体を兵士の機体へとびこませるとサムライ・ソードを真横に振るった。重戦機甲兵の機体はぐらりと揺らぎ、その場に崩れおちた。胴体部分の半分以上が切断され、倒れた拍子に、まっぷたつに分離した。
デッドマンカウンターがパタリと一枚めくれる音がした。
「あ~ぁ、みんな殺しちまいやがった」
耳元でカミナアヤトがあきれたような声をあげた。
「アヤト兄、あんたのせいだろ」
ヤマトはそちらに顔をむけた。アヤトは死んだときの姿そのままの容姿をしていた。右半身がどろっと溶け、その末端部分はぱりっと乾いていた。
「ひでえ姿だろ?」
ヤマトはアヤトをにらみつけた。醜いとも気持ち悪いとも思わなかった。
ただ、腹だたしかった。
「そんな姿に、ボクが動揺するとでも?」
「は、おまえにも罪の意識を感じてもらえないんだな。ブライトさんとおんなじ。悲しいよ、まったく」
「一緒にしないで欲しいね」
「この間、夢枕に立ってやったんだが、奴はなんの反省もしてなかった」
ヤマトはあえてそれを無視した。動揺をさそおうとしているだけだ。おなじ土俵になんかに乗ってられない。ヤマトはスロットルを操作し、地面に転がっているヒスパニック系兵士のものだった機銃をひろいあげた。
銃に装着されている紐を肩にひっかけると、付近で一番高いビルにすっと体を寄せた。
「おいおい、無視かい。冷めてーじゃねーか」
「アヤト兄ぃ、あんたとおしゃべりしている時間はない。二人の兵士のヴァイタルがとだえたんだ。すぐに援軍がこちらへむかってくる」
ヤマトはメインモニタに周辺のカメラ映像をザッピングさせ、敵影がないか注視しはじめた。すぐに重戦機甲兵が二体がこちらにむかっている映像がメインモニタに映しだされた。左弦の守備についていたズクだ。
モニタ下部に表示されているデータをみて、こちらまでの距離をチェックする。
ヤマトが隣接するビルとビルのわずかなすきまに銃身をさしこみ銃を構えた。
あたりを伺いながら、重戦機甲兵が慎重にこちらへ近づいてきた。攻めてくる様子はない。こちらがビルのうしろに隠れているのはわかっているのだ。
おそらく、それまでここに釘付けするのが任務——。
そうされるわけにはいかない。
スコープの照準をサブモニタに表示すると、腹部に照準を合わせる。照準の十字がロックオンを合図の点滅を送ってくると、ヤマトは一切のためらいもなくひき金を引いた。
まず一機が掃討された。 デッドマンカウンターが一枚めくれる
「ひゅー、容赦なしかよ」
アヤトが軽口をヤマトに投げつける。
「それが『紅蓮団』のやりかただったろ」
ヤマトはセンサー画面を注視した。一体が狙撃されたことで、もう一体はビルの陰にかくれたまま、身動きできずにいることがわかった。
ここは戦わずに駆け抜けるか。
ヤマトはグッとアクセルを踏み込んだ。マンゲツのからだが勢いよく、前に飛び出す。
その加速に耐えきれず、カミナ・アヤトのからだが前方にひっぱられると、そのまま前面のハッチ方向へとんでいった。
マンゲツはビルの陰から飛び出すやいなや、身を潜めているズクのほうへ威嚇射撃した。
そのまま銃弾を撃ち尽くすと、銃をポーンと投げ捨て、そのまま中央に陣取るアッカムがいる方角へ一気に駆け抜けた。
「よし!」
ヤマトはグッとさらにアクセルを踏み込んだ。これだけのスピードで走りぬければ、そう簡単に追いつけない。
マンゲツの渾身の走りにコックピット内が激しく揺れる。
ヤマトはふと、正面にアヤトの顔が浮かんでいるのに気づいた。アヤトは顔こそ、こちらにむけていたが、からだはまるで熟した果物が潰れたように、べったりとハッチ部分に貼り付いていた。
ヤマトはその姿をみて、吹き出しそうになった。
「アヤト兄ぃ。あんた、そろそろ人間やめたほうがいいぜ」
ニューロン・ストリーマーで意識を共有していなかったが、機体の識別信号はマップ上ですぐに確認できる。ここまで接近しても攻撃してこないということは、このマンゲツという機体を味方と認識しているか、撃てない理由があるかのどちらかだ。
ヤマトはどちらであってもすぐに対応できるようしに、サムライ・ソードをうしろ手に隠したまま、ビルの影から半身進み出た。
八ツ足兵器『アッカム』の後方の警備を受けもっていた二体の重戦機甲兵がマンゲツの存在に気づいた。だが、彼らはこちらに銃をむけてこなかった。ヤマトはメインモニタに二体の兵士のコックピットの映像を分割して呼びだした。
一人は黒人系、一人はヒスパニック系の顔だちをしていた。
「すみません。手を借してもらえませんか」
「ヤマトは兵士たちに呼びかけながらゆっくりと近づいた。
「どうした。若いの?」
ヒスパニック系の兵士が陽気に返してきた。ヤマトは心の中で『よし』と思った。現場の兵士たちの間には幻影は共有されていない。指揮官が上空にいるアスカを敵と見なして命令を下しただけで、個々は単純にその命に従っているにすぎない。
「真中のレーザー砲を撃っている隊員に伝言をあずかってまして」
「機密事項を?。なんで直接じゃねーんだ」
「聞いてないな」とヒスパニック系の兵士が言うと黒人系の兵士が「いつだってそうだろうよ。本当に重要なことは俺たちには教えてもらえない」とぐちった。
「嘘はいけねーえな、タケル」
ふいに耳元で声がした。ヤマトはそれが誰かわかっていたが気づかないふりをした。不審なそぶりを見せて、二人の兵士に計画をさとられるわけにはいかなかった。
ヤマトはことさら屈託のない笑顔をカメラにむけてた。
「じゃあ、行かせてもらいますね」
「おう」という承諾の声が聞こえた。ヤマトは浅い呼吸を心がけながら、ゆっくりと息を吐きだすと、マンゲツの歩をすすめた。二機の重戦機甲兵は両側に一歩づつ退き、マンゲツが通る分の幅をあけた。
「こいつ、敵ですよ。兵士のみなさん。こいつは亜獣だ!!」
耳元で大きな声があがった。
『カンナ・アヤトぉぉぉ』
ヤマトは怒りを押し潰しながら、心の中で呟いたが、平穏そのものという顔色はピクリとも変えなかった。大丈夫だ。この声は兵士たちには届いていない。
だが、その演技は徒労に終った。
メインモニタに映った兵士二人の顔色が一瞬にして硬ばったのがわかった。
アヤトの声が届いたはずはない。だが、なにかしらの心情の変化はもたらせた。
それくらいの力はもっているということだ。「不安」という力を利用したのだ。
驚き、失態に対する反省、行動への俊巡、どうするという目くばせと、意思の疎通。
ほんの数秒のそれら一連の経緯が、ヤマトは手にとるようにわかった。
ヤマトはアクセルを踏み込むと、マンゲツの体を黒人兵の機体に激しくぶつけた。
予想より速い行動と、重々しい衝激に黒人兵の機体が大きく揺さぶられ、両手をひろげて倒れまいとバランスをとろうとする。ヤマトはその手から離れそうになった銃をもぎとると、至近距離から、顔、胸、腹に三発づつ撃ちこんだ。このモデルの機体のどこを破壊すれば、動きをとめられるかがわからなかったので、間違いのない部位を全部試してみただけだった。
コックピット右側の壁にあるデッドマンカウンターが、パタッと一枚めくれた。
すくなくともコックピットには命中したことがわかった。
力をうしない倒れかかってきた機体を、肩ですくいあげるようにして持ちあげると、ヤマトは反対側に渾身の力で押しだした。重戦機甲兵と言われるだけあってデミリアンの力を持ってしても、空中を舞わせることができなかったが、背後から銃を撃とうとしていたヒスパニック兵の注意をひくことはできた。
彼は目の前にどさりところがった同瞭の姿に一瞬、墟をつかれ、ひき金をひくのをためらった。ヤマトは体を兵士の機体へとびこませるとサムライ・ソードを真横に振るった。重戦機甲兵の機体はぐらりと揺らぎ、その場に崩れおちた。胴体部分の半分以上が切断され、倒れた拍子に、まっぷたつに分離した。
デッドマンカウンターがパタリと一枚めくれる音がした。
「あ~ぁ、みんな殺しちまいやがった」
耳元でカミナアヤトがあきれたような声をあげた。
「アヤト兄、あんたのせいだろ」
ヤマトはそちらに顔をむけた。アヤトは死んだときの姿そのままの容姿をしていた。右半身がどろっと溶け、その末端部分はぱりっと乾いていた。
「ひでえ姿だろ?」
ヤマトはアヤトをにらみつけた。醜いとも気持ち悪いとも思わなかった。
ただ、腹だたしかった。
「そんな姿に、ボクが動揺するとでも?」
「は、おまえにも罪の意識を感じてもらえないんだな。ブライトさんとおんなじ。悲しいよ、まったく」
「一緒にしないで欲しいね」
「この間、夢枕に立ってやったんだが、奴はなんの反省もしてなかった」
ヤマトはあえてそれを無視した。動揺をさそおうとしているだけだ。おなじ土俵になんかに乗ってられない。ヤマトはスロットルを操作し、地面に転がっているヒスパニック系兵士のものだった機銃をひろいあげた。
銃に装着されている紐を肩にひっかけると、付近で一番高いビルにすっと体を寄せた。
「おいおい、無視かい。冷めてーじゃねーか」
「アヤト兄ぃ、あんたとおしゃべりしている時間はない。二人の兵士のヴァイタルがとだえたんだ。すぐに援軍がこちらへむかってくる」
ヤマトはメインモニタに周辺のカメラ映像をザッピングさせ、敵影がないか注視しはじめた。すぐに重戦機甲兵が二体がこちらにむかっている映像がメインモニタに映しだされた。左弦の守備についていたズクだ。
モニタ下部に表示されているデータをみて、こちらまでの距離をチェックする。
ヤマトが隣接するビルとビルのわずかなすきまに銃身をさしこみ銃を構えた。
あたりを伺いながら、重戦機甲兵が慎重にこちらへ近づいてきた。攻めてくる様子はない。こちらがビルのうしろに隠れているのはわかっているのだ。
おそらく、それまでここに釘付けするのが任務——。
そうされるわけにはいかない。
スコープの照準をサブモニタに表示すると、腹部に照準を合わせる。照準の十字がロックオンを合図の点滅を送ってくると、ヤマトは一切のためらいもなくひき金を引いた。
まず一機が掃討された。 デッドマンカウンターが一枚めくれる
「ひゅー、容赦なしかよ」
アヤトが軽口をヤマトに投げつける。
「それが『紅蓮団』のやりかただったろ」
ヤマトはセンサー画面を注視した。一体が狙撃されたことで、もう一体はビルの陰にかくれたまま、身動きできずにいることがわかった。
ここは戦わずに駆け抜けるか。
ヤマトはグッとアクセルを踏み込んだ。マンゲツのからだが勢いよく、前に飛び出す。
その加速に耐えきれず、カミナ・アヤトのからだが前方にひっぱられると、そのまま前面のハッチ方向へとんでいった。
マンゲツはビルの陰から飛び出すやいなや、身を潜めているズクのほうへ威嚇射撃した。
そのまま銃弾を撃ち尽くすと、銃をポーンと投げ捨て、そのまま中央に陣取るアッカムがいる方角へ一気に駆け抜けた。
「よし!」
ヤマトはグッとさらにアクセルを踏み込んだ。これだけのスピードで走りぬければ、そう簡単に追いつけない。
マンゲツの渾身の走りにコックピット内が激しく揺れる。
ヤマトはふと、正面にアヤトの顔が浮かんでいるのに気づいた。アヤトは顔こそ、こちらにむけていたが、からだはまるで熟した果物が潰れたように、べったりとハッチ部分に貼り付いていた。
ヤマトはその姿をみて、吹き出しそうになった。
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