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第一章 第四節 誓い

第80話 わたしの邪魔をするな

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 あくまでしおらしく、女っぽく近づけばいいのだ。

 なぁに、すこし前までは「女」だったのだ、演じるのはたやすい。
 タムラレイコはパイロットエリアの入り口に目をやった。
 これみよがしにわかるような、武骨で頑丈そうな作りのゲートが正面にあった。超合金製とおぼしき頑強な鉄扉。おそらくゼータファイバーポリマーを間に挟み込むことで、レーザー銃のピンポイントの攻撃も、MJP爆薬のような『面』での攻撃も、容易に退けることができる構造になっているはずだ。
 さらに、そのまわりを厳重きわまりないセキュリティ装置が、何基も取り囲んでいた。
生体認証や虹彩認証はもちろん、声紋や歩き方などが完全合致しないと、ゲートはピクリともしないのだろう。
 つまり、部外者がここを突破するの生半(なまなか)なことでないのは間違いなかった。
 それだけ強固な設備にくわえて、重装備の兵士が四人、ゲート前に立ちはだかっているのを、レイコは確認した。おそらくゲートのむこうにも精鋭部隊が待ちかまえているに違いない。
 だが、兵士ごときは何の問題はない。
 レイコは無警戒な様子を装いながら、ひとりの兵士に近づいた。
「あのぅ……。草薙大佐に、こちらへ来るように言われたんですが……」
「草薙大佐に?」
 その兵士がほかの三人に目配せした。ニューロンストリーマで意識を共有しているので、すぐに連絡を確認できたのだろう。一瞬ののちに兵士が口を開いた。

「いや、誰も草薙大佐から言付けされていないよう……」
 そのあとのことばはくぐもった雑音だけになった。
 タムラレイコは右上腕部を鋭利な刃に変形させて、兵士の咽を一閃していた。兵士の首の動脈から、大量の血しぶきがほとばしった。レイコはそれをすばやい動作で回避し、一滴たりとも浴びることなく兵士のうしろへ素早く回り込んだ。
 残り三人の兵士の動きは俊敏だったが、あまりに思いがけない事態を、脳に納得させるまでのほんの一瞬のためらいが、命取りになった。兵士たちが引き金に指をかけた時には、すでに全員が反撃不能なほどの致命傷を負っていた。
 驚くほど簡単に兵士達が崩れ落ちた。

 ひとりの兵士が最後の力を振り絞って、敵の足首をつかもうと必死で手をのばした。レイコはそれを力いっぱい踏みつけて振り払うと、ゆっくりと認証装置の前に近づいた。彼女が静脈認証のセンサーに手をかざすと、すぐにセンサーの上に『承認』の文字が浮かびあがった。続けて顔認証のセンサー光がレイコの顔を捉えた。

『承認』の文字が浮かびあがる。

 にたりと不敵な笑みをうかべた彼女の口元は、タムラレイコのものとはまったく違う顔に変わっていた。

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 右手里美を犯人と決定づける証言をしたイズミ・シンイチこそが、なにかに憑依された「敵」であることを聞かされても、草薙はそのことばを鵜呑みにはしなかった。ものすごい不安が腹の奥底をひっかきまわしはじめているのが、自分でもわかったが、彼女は行動した。
 彼女はこころのなかで「ヴァイタルデータを!」と叫んだ。網膜デバイスの下の方にパイロットたちの警護にあたっている兵士たちのヴァイタル・データが表示された。
 草薙は目をくわっと見開いた。
 入り口の警護にあたっている四人の兵士のヴァイタル・データのひとつがすでに沈黙していた。脳波・脈拍・呼吸……、すべてがフラットになっていた。ぼう然とする草薙に追い討ちをかけるように、残りの三人のヴァイタル・データの数値が一気に下降し始めた。
『映像!』とあわてて念じると、彼らが警護するパイロットエリアの入り口を映したカメラ映像が網膜に投影された。
 そこには無残な姿で転がっている兵士たちの姿が映っていた。
 草薙はほんの一瞬、我をうしないそうになった。
 あまりの失態に、口が裂けるほどの大声で、叫びだしそうな衝動にすら駆られた。だが、ぐっと奥歯を噛みしめると、トグサ兄のほうに顔をむけて、絞り出すように言った。
「トグサ大佐、エアーバイクを借りるぞ」
 草薙はトグサ兄のバイクのほうへ駆け出したが、足が震えて、つんのめりそうになった。その動揺を気取られまいと、足にちからをいれて踏ん張ると、ジャンプするようにして、トグサ兄が乗ってきたバイクにまたがった。
「草薙大佐、どこへ?」
「わたしはパイロットエリアにむかう」
「では、我々も……」
「わたしの邪魔をするな!」
 草薙が大声で一喝した。トグサだけでなく、ほかの兵士たちもビクリとしたのがわかった。彼がこちらを慮って、言ってくれているのがわかっていたが、いまはその気遣いのことばで、発狂しそうになる自分がいた。
 草薙はバイクをスタートし浮遊させると、無言でシミュレーションエリアのほうへバイクを走らせた。

『どうすれば……、どうすればいい……。どうすれば、タケルたちの元へ最速でたどり着ける?』
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