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第一章 第四節 誓い

第70話 神に祈りを棒げていたら、リョウマは助かっただろうか?

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「おいおい、ずいぶんものものしいな」
 アルがあきれたような顔で言ってきた
 今夜未明の国防軍との合同訓練の前に、各自、自分の機体の最終チェックをするようにとアルから連絡があったので、アスカはヤマトとレイと連れだって、出撃レーンに足を運んだ。
 ヤマトがうんざりとしたような表情を作ってみせた。
「そうだろ。一人につき三人。九人もの護衛がついてくるんだぜ」
 アスカは自分の回りにチラリと目をはせた。銃をもったフル装備の兵士たちが三人をとり囲んでいる。
「いやぁ、アル。お騒がしてすまんね。草薙大佐の命令なんでね」
 先頭にいたバットーがアルに詫びを入れた。たわいもない口調だったが、周囲に鋭い視線をむけ続け、あたりの整備員や修理ロボたちから目をはなそうとはしない。
 アスカには儀礼的なエクスキューズはどうでも良かった。
「アル、あたしのセラ・ヴィーナスを、さっさとチェックさせてもらうわよ」
「あぁ、いいぜ。たぶん非の打ちどころがないほど、ばっちりメンテナンスされてると思うけどな」
「それでも心配!。自分でチェックする」
 アルがなにか不都合があればなくなりと捜してみるがいい、と言わんばかりの余裕の表情を浮べた。
 アスカはくるりとふりむくと、後方の警護についていた兵士たちに言った。
「あんたたち、あたしがコックピットをチェック中は、下で待機しててよね。うしろにぴったりくっつかれたりしたら、気が散るから」
 その剣幕に兵士たちはどうしたものかと戸惑っていたが、先頭のバットーが彼らのことばを代弁するように言った。
「レイ、わかったよ。彼らにそうさせる。だが、先に内部をチェックさせてくれ」
 アスカーはバットーの方を見た。その目が『そこが落し所だぞ』と訴えていた。
 アスカは両手を広げて降参のサインをおくった。
「了解。あなたたちにも、任務があるものね」
「でも早くしてちょうだいね!」
 最後のことばは、バットーに対するあたしの落し所はここだよ、という宣言にほかならなかった。バットーはその意をすばやく察して、目と手ぶりで、部下達にデミリアンの方へ行くよう促した。
 少しの間、待ち時間ができたので、アスカはゲームで時間でも潰そうと、中空に指を這わせようとしたが、その先にある光景に気づいて手をとめた。
 出撃レーンの一番奥、今は格納するデミリアンがないので、空になっているドックの脇に、おどろくほどの人だかりができていた。どうやら日本国防軍の兵士らしい。会議の席で見たフィールズ中将と似た制服を着ている。
 二百メートルほど離れていたが、人々のざわめきがこちらに聞こえてくるほどで、目につくだけで数百人はいるのではないかと、アスカは推察した。
「教会だよ」
 ヤマトが言った。
「教会?。こんなところに」
「すぐ裏手には神社やモスクもある」
「何するの?」
「お祈り」
 レイがぼそりと補足した。
「お祈り?」
 アスカはそこまで言って、ことばに詰まった。そういう習慣がなかった自分としては、ことばの意味は知っていても、なぜお祈りをするのか理由がわからなかった。
 その様子に、ヤマトが苦笑を交えながら言った。
「むかしのパイロットたちは亜獣と戦う前に、それぞれが信じる神にお祈りしたらしい」
「でも、あの人たちはどうして?」
「今夜、実戦形式の亜獣撃滅訓練あるだろ。危険な実弾演習なんだ。だから、神に祈りを捧げている」
 アスカはレイの方を見た。レイは今のヤマトの説明に、完全に納得してはいなさそうだった。アスカもおなじだった。行為の目的は理解できても、そうしたから、どうなるのか、という、心情がまったく理解できないのだ。
 では、もし前回の出撃の時、神に祈りを棒げていたら、リョウマは助かっただろうか?
 そう、助かるはずがない。

 もし、それで助かるようなら、亜獣に七十年以上も苦しめられてなんかない。
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