54 / 1,035
第一章 第三節 幻影
第53話 残念だったね。本物はまちがわない
しおりを挟む
操られたふり、というレイのことばを聞いた神名朱門が、驚きの表情をヤマトにむけた。
「お、おまえ、どういうことだ」
「言ったろ。ちょっとした余興だ。おかげで、ほら、動けるようになった」
ヤマトは、アヤトの前で両手をぷらぷらと振ってみせた。
「アヤト兄ぃ、すまないな、騙して。さっきのは、ぼくのまちがった記憶だ」
ヤマトは昨夜のレイとのやりとりを思いだした。
ラウンジのソファにむかいあって座っているレイが、ペーパー端末をまさぐっていた。
時間はすでに23時を超えていて、自室に戻らなければならない時間だった。すでにふたりっきりで、3時間以上もここに座ったままでいる。
レイが端末のスクロールをとめて、端末に目をむけたまま訊いた。
「神名朱門とはじめて、ふたりだけで戦った亜獣の名前は?」
「アクロバン」
「あってる」
ヤマトは額に手をやった。
「すまないな、レイ。キミのはすぐにいくつも見つかったのに……」
「気にしないで。わたしは、自分で覚えてないことが多いだけ……」
ヤマトはレイを見つめた。亜獣対策のためとはいえ、こうやってお互いの秘密をカミングアウトしあって、レイという人物が徐々にかいま見えてきていた。最初に出会ったときに、なぜ、自分がレイにレッテル貼りしきれなかったか、ということも、なんとなくわかってきていた。レイの生い立ちに同情するのは、おこがましいとは思ったが、自分とはまたちがう過酷な生き方を強いられて、それを乗り越えてきたと考えると、一種の頼もしさすらおぼえた。
レイはヤマトに見つめられていることなど気にする様子もなく、端末を一心に操作していた。
「じゃあ、次、いくわ」
「神名朱門とあなたが、ふたりで名乗っていたチーム名は?」
「愚連隊」
レイがつぎのページを探ろうとペーパー端末をめくっていた手をとめた。
「ちがう……」
ヤマトは天井を仰いで大きくふーっと息を吐くと、からだを前にのりだし、左腕をレイのほうへさしだす。
「これでやっと5個目」
レイはヤマトがつきだしてきた左腕を掴むと、前かがみになって、油性マジックペンで答えを書き記しはじめた。ヤマトはすこしくすぐったかったので、それを紛らわすようにレイに小声で言った。
「レイには、ぼくの過去をずいぶん知られちゃたな」
「わたしのも、ずいぶん知られたわ」
「ごめん。恥ずかしい……よね」
「いいえ、ちっとも……」
レイはヤマトの腕を掴んでいた手を離しながら、ヤマトを見つめた。
「お望みなら、もっとほかも晒してもいいわ」
ヤマトはすこし恥ずかしくなって、あわてて横に首をふった。
「あ、いや……、次の質問、頼むよ」
ヤマトが目を開いた。
「幻影は、ぼくの記憶をさぐって、アヤト兄ぃになりすましてくると予想していたよ」
「だからあらかじめ、偽の記憶を念じて事実をゆがめることにした。さらに自分の記憶間違いを利用して、呪縛から逃れられるように細工もしておいた」
アヤトの顔にあきらかに戸惑っている表情が浮かんでいた。
「さっき、アヤト兄ぃは、『おれたちふたりは愚連隊』って言ってたね」
「わるいね。あれ、ぼくの記憶ちがいなんだよ」
ヤマトは操縦桿から手をはなすと、ジャケットの左袖をまくしあげ、上腕をアヤトのほうへむけた。そこにはレイがマジックで書いた文字が、いくつか並んでいた。
お世辞にも上手とは言えない筆跡で、『3回』『シナガワ』『ホットかき氷』『フェネックキャット』『3A棟の看護婦さん』『シナモン寿司』という意味不明の単語。
ヤマトはそのなかの一文字を指さした。
そこには『ぐれんだん』とあった。
「残念だったね。それはぼくの記憶ちがいから出てきた嘘の情報だ。アヤト兄ぃ、本物はまちがわない」
アヤトがうろたえながら、なにか抗弁しようとしたが、ヤマトは一喝した。
「茶番はおしまいだ。うせろ偽物!!」
そのつよいことばに、偽のアヤトがなにかを抗弁しよう口を開きかけたが、そのまま粒子状にパーッと弾けとび、その場からたちまち霧消した。
「お、おまえ、どういうことだ」
「言ったろ。ちょっとした余興だ。おかげで、ほら、動けるようになった」
ヤマトは、アヤトの前で両手をぷらぷらと振ってみせた。
「アヤト兄ぃ、すまないな、騙して。さっきのは、ぼくのまちがった記憶だ」
ヤマトは昨夜のレイとのやりとりを思いだした。
ラウンジのソファにむかいあって座っているレイが、ペーパー端末をまさぐっていた。
時間はすでに23時を超えていて、自室に戻らなければならない時間だった。すでにふたりっきりで、3時間以上もここに座ったままでいる。
レイが端末のスクロールをとめて、端末に目をむけたまま訊いた。
「神名朱門とはじめて、ふたりだけで戦った亜獣の名前は?」
「アクロバン」
「あってる」
ヤマトは額に手をやった。
「すまないな、レイ。キミのはすぐにいくつも見つかったのに……」
「気にしないで。わたしは、自分で覚えてないことが多いだけ……」
ヤマトはレイを見つめた。亜獣対策のためとはいえ、こうやってお互いの秘密をカミングアウトしあって、レイという人物が徐々にかいま見えてきていた。最初に出会ったときに、なぜ、自分がレイにレッテル貼りしきれなかったか、ということも、なんとなくわかってきていた。レイの生い立ちに同情するのは、おこがましいとは思ったが、自分とはまたちがう過酷な生き方を強いられて、それを乗り越えてきたと考えると、一種の頼もしさすらおぼえた。
レイはヤマトに見つめられていることなど気にする様子もなく、端末を一心に操作していた。
「じゃあ、次、いくわ」
「神名朱門とあなたが、ふたりで名乗っていたチーム名は?」
「愚連隊」
レイがつぎのページを探ろうとペーパー端末をめくっていた手をとめた。
「ちがう……」
ヤマトは天井を仰いで大きくふーっと息を吐くと、からだを前にのりだし、左腕をレイのほうへさしだす。
「これでやっと5個目」
レイはヤマトがつきだしてきた左腕を掴むと、前かがみになって、油性マジックペンで答えを書き記しはじめた。ヤマトはすこしくすぐったかったので、それを紛らわすようにレイに小声で言った。
「レイには、ぼくの過去をずいぶん知られちゃたな」
「わたしのも、ずいぶん知られたわ」
「ごめん。恥ずかしい……よね」
「いいえ、ちっとも……」
レイはヤマトの腕を掴んでいた手を離しながら、ヤマトを見つめた。
「お望みなら、もっとほかも晒してもいいわ」
ヤマトはすこし恥ずかしくなって、あわてて横に首をふった。
「あ、いや……、次の質問、頼むよ」
ヤマトが目を開いた。
「幻影は、ぼくの記憶をさぐって、アヤト兄ぃになりすましてくると予想していたよ」
「だからあらかじめ、偽の記憶を念じて事実をゆがめることにした。さらに自分の記憶間違いを利用して、呪縛から逃れられるように細工もしておいた」
アヤトの顔にあきらかに戸惑っている表情が浮かんでいた。
「さっき、アヤト兄ぃは、『おれたちふたりは愚連隊』って言ってたね」
「わるいね。あれ、ぼくの記憶ちがいなんだよ」
ヤマトは操縦桿から手をはなすと、ジャケットの左袖をまくしあげ、上腕をアヤトのほうへむけた。そこにはレイがマジックで書いた文字が、いくつか並んでいた。
お世辞にも上手とは言えない筆跡で、『3回』『シナガワ』『ホットかき氷』『フェネックキャット』『3A棟の看護婦さん』『シナモン寿司』という意味不明の単語。
ヤマトはそのなかの一文字を指さした。
そこには『ぐれんだん』とあった。
「残念だったね。それはぼくの記憶ちがいから出てきた嘘の情報だ。アヤト兄ぃ、本物はまちがわない」
アヤトがうろたえながら、なにか抗弁しようとしたが、ヤマトは一喝した。
「茶番はおしまいだ。うせろ偽物!!」
そのつよいことばに、偽のアヤトがなにかを抗弁しよう口を開きかけたが、そのまま粒子状にパーッと弾けとび、その場からたちまち霧消した。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組
瑞多美音
SF
福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……
「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。
「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。
「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。
リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。
そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。
出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。
○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○
※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。
※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
ゾクッ⁉︎ ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に腐ってる〜
されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
数週間前、無数の巨大な隕石が地球に飛来し衝突すると言った、人類史上かつてないSFさながらの大惨事が起きる。
一部のカルト信仰な人々は、神の鉄槌が下されたとかなんとかと大騒ぎするのだが……。
その大いなる厄災によって甚大な被害を受けた世界に畳み掛けるが如く、更なる未曾有の危機が世界規模で発生した!
パンデミック――感染爆発が起きたのだ!
地球上に蔓延る微生物――要は細菌が襲来した隕石によって突然変異をさせられ、生き残った人類や生物に猛威を振い、絶滅へと追いやったのだ――。
幸運と言って良いのか……突然変異した菌に耐性のある一握りの極一部。
僅かな人類や生物は生き残ることができた。
唯一、正しく生きていると呼べる人間が辛うじて存在する。
――俺だ。
だがしかし、助かる見込みは万に一つも絶対にないと言える――絶望的な状況。
世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。
生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に――第二部、開始。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
冬に鳴く蝉
橋本洋一
SF
時は幕末。東北地方の小さな藩、天道藩の下級武士である青葉蝶次郎は怠惰な生活を送っていた。上司に叱責されながらも自分の現状を変えようとしなかった。そんなある日、酒場からの帰り道で閃光と共に現れた女性、瀬美と出会う。彼女はロボットで青葉蝶次郎を守るために六百四十年後の未来からやってきたと言う。蝶次郎は自身を守るため、彼女と一緒に暮らすことを決意する。しかし天道藩には『二十年前の物の怪』という事件があって――
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
シグマの日常
Glace on!!!
SF
博士に助けられ、瀕死の事故から生還した志津馬は、「シグマ」というね――人型ロボットに意識を移し、サイボーグとなる。
彼は博士の頼みで、世界を救うためにある少女を助けることになる。
志津馬はタイムトラベルを用い、その少女を助けるべく奔走する。
彼女と出会い、幾人かの人や生命と出逢い、平和で退屈な、されど掛け替えのない日常を過ごしていく志津馬。
その果てに出合うのは、彼女の真相――そして志津馬自身の真相。
彼女の正体とは。
志津馬の正体とは。
なぜ志津馬が助けられたのか。
なぜ志津馬はサイボーグに意識を移さなければならなかったのか。
博士の正体とは。
これは、世界救済と少女救出の一端――試行錯誤の半永久ループの中のたった一回…………それを著したものである。
――そして、そんなシリアスの王道を無視した…………日常系仄々〈ほのぼの〉スラップスティッキーコメディ、かも? ですっ☆
ご注文はサイボーグですか?
はい! どうぞお召し上がり下さい☆ (笑顔で捻じ込む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる