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第一章 第二節 非純血の少年たち
第23話 だれが死者になりすました……
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「モスピダン!」
レイのカメラから送られてきた映像を見ながら、エドは興奮にからだを震わせていた。 亜獣出現の初期に現れた毛虫に似た亜獣「モスピダン」。姿形はまったく違うが、エドは今回の亜獣はこの「モスピダン」とおなじような能力を有していると推察した。この亜獣は出現ナンバー3番という、極めて初期に出現し、先人アナリストたちによって『幻影亜獣』と呼称された。
亜獣のデータベースが眼前に浮かびあがり、AIに自動ソートされた該当データを表示した。エドはそのデータに目を走らせながら、司令室にいる人々に講釈をはじめた。
「68年前にあらわれた亜獣3番の『モスピダン』は、まわりに幻影をまき散らしたという風に言われています」
「幻影?、それどういう意味?」
リンが怪訝そうな顔をして訊いた。
「わからない。ただその当時の資料によれば、避難する人々がみな一瞬にしてなにかに取り憑かれたようになった、としか」
「みんな何をみたの?」
「わからない。別の亜獣の姿を見せられたり、うしなった家族を見せられたりで、人によって見るものが違ったらしいんだ」
エドはリンからの矢継ぎ早の質問になんとか答えようと、該当データの取得のために意識を集中させたが、どうにも脳波による検索はまどろっこしく、いつの間にか中空に指を滑らせ、手で検索をはじめている自分に気づいた。
指が震えている。
この3番目の亜獣の時にたいへんな事件が起きたことを思いだしたからだった。
エドは操作を続けながら言った。緊張のあまり声がうわずっていた。
「あぁ、大変だ。この『モスピダン』の時、大事件が起きたんだ」
「そうだった……」
リンは狼狽しているように見えた。いちはやくその事実に気づいて、自分と同じように衝撃を受けているのは明らかだった。
「なにがあったんだ」
ふたりの専門家がそろってショックを受けている姿にブライトが苛立ちをぶつけた。エドは声をうわずらせたまま答えた。
「この亜獣の時に、デミリアンを一体うしなっているんです」
「セラ・ネプチューンよ」
「そんな早くに一体うしなっていたのか?」
ブライトの驚きももっともだった。自分もそれをはじめて知った時、同じように驚いたことを覚えている。まだパイロットの訓練や亜獣対策も充分ではなかったとはいえ、全部で九体しかいないデミリアンの一体を、こんな序盤でパイロットごとロストした。『モスピダン』とはそれほどまでに手ごわかったのだ。
エドの中空を操る手がとまった。目の前に浮かぶデータベースの画面に、パスワードを要求するアラートが点滅していた。
「生体パスワードがかかっている!」
「どういうことなんだ、エド」
たまらずブライトが問いただした。
「わかりません。誰かがこの亜獣のデータを封印しているんです」
「なんとかならないのか。そのためのデータベースじゃないのか」
「どうしようもないですよ。これはぼくの生体認証では無理なんです」
「誰の生体認証だったら開くんだ」
「永遠に無理なんです。この生体パスワードは初代責任者 ヘルム博士のものです」
エドはブライトのほうへ落胆の様子を隠そうともせず言った。
「何十年も前に亡くなっている……」
エドにはブライトが一瞬、天を仰いだのが見えた。が、彼はすぐに正面のパイロットたちの映像のほうへ向きなおると、指示を出しはじめた。
「アスカ、レイ、リョウマ、みんな聞いてくれ」
「さっきから聞いてるわよ」
「『アトン』は近づいた相手になにか幻覚のようなものが見せるらしい。みんな注意してくれ」
ブライトの注意喚起にレイとリョウマは口々に了解の合図を送ってきたが、アスカだけは皮肉たっぷりの軽口で返してきた。
「わからないってことは充分わかったわ」
「それにこいつと同種の亜獣に、デミリアンが殺されたってこともね」
エドはいたたまれない気分になった。今この時が、いままでの研究成果が花開く瞬間であったはずなのに、逆にパイロットたちに不安材料をふりまく結果になってしまうとは、思いもよらなかった。
いや、待て。
ふと、エドはこのデータのおかしなことに気づいた。この亜獣のデータが封印されているとして、自分はなぜこの『モスピダン』が幻影獣であることを知っていた。口にはしなかったが、生き残った人々の証言のいくつかも自分は覚えている。つまり、つい最近まではこのデータの、少なくともこの階層には生体パスワードはかかっていなかった……。 誰だ?。
誰が死人の代わりに生体パスワードを施した……。
死者になりすましたのだ。
そう、なんのために……。
レイのカメラから送られてきた映像を見ながら、エドは興奮にからだを震わせていた。 亜獣出現の初期に現れた毛虫に似た亜獣「モスピダン」。姿形はまったく違うが、エドは今回の亜獣はこの「モスピダン」とおなじような能力を有していると推察した。この亜獣は出現ナンバー3番という、極めて初期に出現し、先人アナリストたちによって『幻影亜獣』と呼称された。
亜獣のデータベースが眼前に浮かびあがり、AIに自動ソートされた該当データを表示した。エドはそのデータに目を走らせながら、司令室にいる人々に講釈をはじめた。
「68年前にあらわれた亜獣3番の『モスピダン』は、まわりに幻影をまき散らしたという風に言われています」
「幻影?、それどういう意味?」
リンが怪訝そうな顔をして訊いた。
「わからない。ただその当時の資料によれば、避難する人々がみな一瞬にしてなにかに取り憑かれたようになった、としか」
「みんな何をみたの?」
「わからない。別の亜獣の姿を見せられたり、うしなった家族を見せられたりで、人によって見るものが違ったらしいんだ」
エドはリンからの矢継ぎ早の質問になんとか答えようと、該当データの取得のために意識を集中させたが、どうにも脳波による検索はまどろっこしく、いつの間にか中空に指を滑らせ、手で検索をはじめている自分に気づいた。
指が震えている。
この3番目の亜獣の時にたいへんな事件が起きたことを思いだしたからだった。
エドは操作を続けながら言った。緊張のあまり声がうわずっていた。
「あぁ、大変だ。この『モスピダン』の時、大事件が起きたんだ」
「そうだった……」
リンは狼狽しているように見えた。いちはやくその事実に気づいて、自分と同じように衝撃を受けているのは明らかだった。
「なにがあったんだ」
ふたりの専門家がそろってショックを受けている姿にブライトが苛立ちをぶつけた。エドは声をうわずらせたまま答えた。
「この亜獣の時に、デミリアンを一体うしなっているんです」
「セラ・ネプチューンよ」
「そんな早くに一体うしなっていたのか?」
ブライトの驚きももっともだった。自分もそれをはじめて知った時、同じように驚いたことを覚えている。まだパイロットの訓練や亜獣対策も充分ではなかったとはいえ、全部で九体しかいないデミリアンの一体を、こんな序盤でパイロットごとロストした。『モスピダン』とはそれほどまでに手ごわかったのだ。
エドの中空を操る手がとまった。目の前に浮かぶデータベースの画面に、パスワードを要求するアラートが点滅していた。
「生体パスワードがかかっている!」
「どういうことなんだ、エド」
たまらずブライトが問いただした。
「わかりません。誰かがこの亜獣のデータを封印しているんです」
「なんとかならないのか。そのためのデータベースじゃないのか」
「どうしようもないですよ。これはぼくの生体認証では無理なんです」
「誰の生体認証だったら開くんだ」
「永遠に無理なんです。この生体パスワードは初代責任者 ヘルム博士のものです」
エドはブライトのほうへ落胆の様子を隠そうともせず言った。
「何十年も前に亡くなっている……」
エドにはブライトが一瞬、天を仰いだのが見えた。が、彼はすぐに正面のパイロットたちの映像のほうへ向きなおると、指示を出しはじめた。
「アスカ、レイ、リョウマ、みんな聞いてくれ」
「さっきから聞いてるわよ」
「『アトン』は近づいた相手になにか幻覚のようなものが見せるらしい。みんな注意してくれ」
ブライトの注意喚起にレイとリョウマは口々に了解の合図を送ってきたが、アスカだけは皮肉たっぷりの軽口で返してきた。
「わからないってことは充分わかったわ」
「それにこいつと同種の亜獣に、デミリアンが殺されたってこともね」
エドはいたたまれない気分になった。今この時が、いままでの研究成果が花開く瞬間であったはずなのに、逆にパイロットたちに不安材料をふりまく結果になってしまうとは、思いもよらなかった。
いや、待て。
ふと、エドはこのデータのおかしなことに気づいた。この亜獣のデータが封印されているとして、自分はなぜこの『モスピダン』が幻影獣であることを知っていた。口にはしなかったが、生き残った人々の証言のいくつかも自分は覚えている。つまり、つい最近まではこのデータの、少なくともこの階層には生体パスワードはかかっていなかった……。 誰だ?。
誰が死人の代わりに生体パスワードを施した……。
死者になりすましたのだ。
そう、なんのために……。
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