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王位継承戦編

お母さん! 第五回戦は3ON3!⑦

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 ■ ■ ■

 いける、いけるぞ!
 俺は沸々と湧き上がる勝利の気持ちを抑えようと心臓を叩く。
 第一ピリオドは劣勢となってしまったが、同点に追いつき、相手側にタイムを使わせた。
 本来であれば第四ピリオドまで持っていたかったタイムの権利をここで使わせたのだ。
 これは俺達が善戦した証である。

 ただ、一つ、気掛かりなのは天音だ。
 鈴音を超えると意気込んでいたが、実際に鈴音に対して挑む事はなく、まだ、100%力を出し切れていない。
 天音に声を掛けるべきか... ...。
 俺が悩んでいる中、天音の肩を叩いたのはやはり才蔵だった。

「天音。水でも飲め」

「あ、ありがとう」

 才蔵から木のカップに入った水を受け取る天音。
 二人は目を何故か目を合わそうとせず、黙って、整備されるコートを見ている。

「懐かしいな。学生時代を思い出す。あの時は俺とお前と鈴音でよくバスケしたな」

 何、その両手に華の状態。
 俺なんか、高校時代、男だけで集まって遊〇王カードして終わったけど。
 っうか、その状態で童貞ってヤバイな。

「ええ。まるで昨日の事のように思い出すわ。いつからかしら、三人の歯車が狂いだしたのって?」

「さあな。天音。まだ、鈴音が怖いか?」

「... ...ええ。怖い」

 天音は無表情でそう答える。

「そうか。俺も怖くてな。実は12歳くらいの時に鈴音に告白した事があるんだ」

 ええ!!!
 そうなの!?
 そういうの無縁だと思ってた!

「ぷぷぷ。才蔵のそういう話聞いたことないから面白い!(小声)」
「へえー。花島? 告白ってなに?(小声)」
「青春時代を思い出すねえ(小声)」

「うお!? 何さ!?」

 俺の後ろから声がしたと思うとヴァ二アルやホワイト、エイデンが才蔵と天音の会話に聞き耳を立てていた。
 才蔵と天音は少し離れたところでこちらに完全に後ろ向きなのだが、大勢でジロジロ見ていたらバレるリスクも高い。
 俺は「シッシッ!」と一同を犬のように払う。

「いいじゃん! 僕だって才蔵の恥ずかしいところみたい!(小声)」
「ねえねえ。告白って?(小声)」
「大丈夫。大丈夫。隠密はスパイの十八番だから(小声)」

 そんなに他人の恋愛話が気になるのか... ...。

「ちょっと、いい加減にしなさい」

 統率の取れないバカな連中を注意するシルフ。
 流石、王を務める事だけはある。
 シルフの声を聞いて、みんな、襟を正す。

「肝心なところが聞こえないわ」

 まるで、TV全盛期時代の視聴者のように他人の恋愛事情に興味津々のエルフの王女は前のめりで聞く耳を立てていた。
 こいつも何だかんだ言っても女の子なんだな... ...。
 と痛感。
 もし、地球に連れて行く事が出来たら少女漫画でも読ませてあげたいと思った。

「知っているわよ。姉さんが私に『あいつ、フガフガ言ってて気持ち悪かった』ってバカにしてたから」

「そうか... ...。まあ、鈴音にはその時、『あんた、身体が岩石みたいにゴツゴツして気持ち悪い』って言われてな... ...。それ、結構なトラウマで... ...」

 トラウマを語る才蔵の体は塩をかけられたナメクジみたいに小さくなっていった。

「___ぶふう! そいつは辛い!(小声)」
「ねえ? 才蔵はゴーレムなのお?(小声)」
「青春だねえ(小声)」

 こいつら、うるせえな... ...。
 黙って見てろよ。
 絶対、一緒に映画見たくないわ。

 小鳥たちがせわしなく鳴く中、シルフを見ると何故かすすり泣いている。

「え~... ...。何? どうしたの?」

「才蔵... ...。辛かったわね... ...」

 恐らく、シルフは自身の全然関係ない思い出か何かとリンクさせているのだろう。
 こいつも、若くから王様をやってきたから、色々と言われて苦労しているんだ。
 まあ、こうやって、人に感情移入出来る所は可愛げがあるか... ...。

「ハンカチよこしなさい」

 鼻声でシルフは俺に涙拭き用の布を所望する。

「え? いや、ないよ」

 俺は用を足した後は服で拭う派なのだ。
 そんなの、急に言われても持ち合わせはない。
 それをシルフに伝えると。

「使えないわね。汚いからもう、あたしの半径10m以内に入らないでよね」

 と"使えない"と"汚い"の二つを同時認定されてしまった。
 さっき、可愛らしいと言ったのは訂正。
 俺もお前を可愛げがない認定してやる。

「... ...だから、才蔵、彼女作らないの?」

「え、いや、まあ、それもあるってだけで... ...」

 才蔵はどうも歯切れが悪い。
 やはり、見ていてイライラしてくる。
 恐らく、才蔵は天音に恋心を抱いている。
 それは誰の目で見ても明白だ。
 ただ、才蔵は30代くらいにも関わらず、童貞で彼女も出来た事がないのだ。
 それに今聞いた話だとトラウマ持ちでもある。
 色んな修行をやってきたにも関わらず、恋の修行を疎かにしたツケが回ってきたとしか言いようがない。

「全く... ...。歯切れ悪いわね」

 ん?
 進まぬ展開に文句を言う視聴者様は金色の髪をなびかせ、スッと立ち上がり、豊満な胸を張り。

「好きなら好きっていいなさいよ!」

 と思わぬスタンドプレーに打って出た。

「___!? うお!? シルフさん!? 何やってんの!?」

「だって! 才蔵、ウジウジし過ぎよ!」

 まあ、それは一理あるけど... ...。
 才蔵と天音は何事かと目を丸くしていたのだが、この状況は告白シュチュエーションだと察し、お互い顔を赤らめる。

「い、いや、俺はそういうつもりじゃあ... ...」

 才蔵はまるで羅漢撃をお見舞いするかのように目の前に円を描くように手を回す。
 それだけ、焦っていたのだろう。

「へえー。そういうつもりじゃあ、ないんだ... ...」

 天音も才蔵の気持ちを察している。
 後は才蔵が勇気を振り絞るだけだ。

「才蔵! 頑張れ!」

 シルフは精一杯、声を振り絞って才蔵にエールを送る。

「そうだ! 才蔵! 頑張れ!」
「よく分からないけど、がんばれー」
「才蔵! 男を見せろ!」

 パス陣営。
 ここに来て一致団結を見せる。
 試合中でもないのに声援を送っている事が可笑しかったのか、観客達も。
「才蔵! 頑張れ!」
 と声を揃え、まるで、大きな波のようにそれはうねりを上げる。

「お、俺は... ...!」

 ここで引いたら、もう、後はないぞ! 才蔵!

「才蔵! 頑張れ! 勇気だせ!」

 最初は冷ややかな目を向けていたが、俺も才蔵を応援したくなり、声を上げた。
 拳を握り、他人の恋愛事情にこんなに熱くなったのは初めてかもしれない。

 覚悟を決めたのか、才蔵は大きく深呼吸し、初めて天音の顔を見る。

 その様子を固唾を呑んで見守る一同... ...。

「あ、天音。け、結婚してくれ... ...」

 あ!?
 結婚!?
 お付き合いからじゃないの!?

 一段階ジャンプした才蔵の告白を何やってんの!?
 と驚いている中、殆ど、考える時間もなしに天音からシンプルな回答が返ってきた。

「はい。よろしくお願いいたします」

「... ...え? それって... ...」

「ええ。才蔵と結婚するわ」

「... ...や、やったー?」

 まさか、OKを貰えるとは思っていなかったのか、才蔵の感情は迷子になっていた。

「うおー! おめでとう!」
「おめでとう!」
「才蔵! おめでとう!」

 観客や味方チーム、ハンヌ陣営のハンヌやミーレやトムも才蔵を祝福していた。
 誰が用意したか分からないが白い鳥のような生き物も会場内に解き放たれ、二人の新たな門出を祝った。

「才蔵! やったな!」

 金〇先生のOPのように才蔵のもとに集まり、才蔵に言葉をかけた。

「み、みんな、ありがとう」

 才蔵の目には薄っすらと涙が... ...。
 それを見て、何か、恋愛っていいなと俺も青春時代を思い出し、やっぱり、ノリで結婚するって良くないな。
 と自身の結婚の経緯を反省させられた。

「ねえ? ねえ? 子供は何人作るの?」
「子供? 子供って作れるの? ドラゴンが運んでくるんじゃないの?」

 ヴァ二アルとホワイトは天音に質問をするが、天音もタジタジになっている。
 そんな、もみくちゃになる中、思いがお互いに通じ合った二人は目を合わせてどこか幸せそうだ。

「... ...はあ。あたしも恋したいな」

 集団から外れたところでシルフがポツリと本音のようなことを呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

「ほう。じゃあ、俺に恋してみれば?」

 当然、シルフから「はあ? ゴミと恋愛ってどんな悲劇よ。それ、何て本? 破り捨ててあげる」と言われるに違いない。
 ただ、シルフを揶揄うつもり言ったのだ。

「ハッ? あんたに?」

 思った通り、シルフは俺の発言を嘲笑した。
 だが、返って来た言葉はちょっと意外なものだった。

「... ...ま、考えといてあげるわ」

 上目遣いでこちらを見るシルフ。
 男性の心をくすぐるように普段はあまり上げない口角を上げ、右斜め45度の位置から覗き込むのは反則だぞ!

 サファイアのような美しい青い瞳でそんな小悪魔的な事を言われたら誰だってときめいてしまうではないか!

 待て! 花島! 
 こいつは俺を乱雑にいつも扱っているんだぞ!?
 しかも、ヴァ二アルと結婚させたのもこいつだ!
 いいか! 
 断じて、シルフは俺に好意はない!
 俺を混乱させようとしているだけだ!

 エルフの皮を被った魔女に誘惑されまいと俺は自身の頬を両の手でぶった。

「... ...あの」

 ん?
 何やら、申し訳なさそうに審判がこちらに声を掛ける。

「そろそろ、試合を再開したいんですけど... ...」

 審判の言葉に一同、ハッと息を呑んだ。

 そういや、まだ、試合終わってなかった... ...。







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