上 下
104 / 212
王位継承戦編

お母さん! 金色の戦士ヴァ二アル・ハンヌ

しおりを挟む
 民衆が蟻のように集まる箇所に目を向けるとその中央に肥満体型でエプロンを身に付けている髭面の男に小さな足を押さえ付けられ、市場に売っている鳥の丸焼きのように一人の少年が吊るされていた。

「おい! 早く! 俺の店から盗んだ物を返してもらおうか!」

「だから、知らねえって! 勝手に決めつけるな! クソデブが!」

 うっわあ... ...。
 口悪い子... ...。
 親の顔が見て見たいわ。

「あー。ロストの子か」

「ロスト?」

 俺よりも少し遅れてきたヴァ二アルはポツリと零す。

「うん。親を失った身寄りのない子供が集まって街の外れに集落を作って暮らしているんだよ。で、お金も食料もないからたまにこうやって街に忍び込んで悪さするのさ。困っちゃうよ全く... ...」

 ほう... ...。
 スラムってやつか。そういうのは聞いてはいたが実際に見たのは初めてだ。
 確かに少年はボロボロの雑巾のような服を着て、髪はボサボサで長く伸びた髪はつばの広い帽子のように目を隠している。

 やはり、国が大きくなれば貧富の差ってのは大きくなるんだな... ...。

「助けないのか?」

 そう。
 王様はこういう時に「何をやっているんだ! ロストの子だからといって決めつけてはいけない!」と言い良き指導者を演じるものだが... ...。

「え? なんで? ロストの子が盗んだのだろ?」

 とまるで俺が冗談を言っているかのようにヴァ二アルは笑う。
 それを見て、俺は別にヴァ二アルが悪い奴だとは思わなかったが、本当にこいつは王様の資格があるのか?? 
 とヴァ二アルの王子としての本質に疑問を抱いてしまった。

 まあ、人は平等に___。
 というのは俺の世界で刷り込まれたまるで洗脳のようなもの。
 他の世界では人は平等ではない。
 ヴァ二アルやその光景を嬉々とした表情で見ている民衆達は洗脳という名の教育を受けていないのだから致し方ないか... ...。

 異世界の倫理観を憂いていると、見慣れた金色のロングヘアをなびかせ、この国では異端とされる自称優しい王様が民衆から飛び出して... ...。

「__その子を離してやりなさい! まだ、子供よ!」

「ちょっと! シルフ!」

 天音がシルフを止めようとする。
 王位継承戦の前に悪目立ちするのは避けたかったのだろう。
 しかし、シルフは天音の制止を振り切り、言葉を続け。

「その子が盗った証拠はあるの?」

「俺の店の周りをウロチョロしてやがったんだ! こいつはロストの子。こいつが盗ったに決まっている!」

 サンタのコスプレをすればさまになりそうな顔立ちをしているのに店主は優しさの欠片かけらも見えない表情で掴んでいるロストの子を睨み付ける。

 店主の声に呼応するように集まっている民衆も「そうだそうだ」と頷き、同時におかしなことを言うシルフに罵声を浴びせる。
 ヴァ二アルや天音はこうなることが想像出来たのか、勇敢な行動をしたシルフに頭を抱えていた。

 シルフは罵声を浴びながらも民衆達を鼻で笑い。

「ふん。ロストの子? それがどうしたっていうの? 証拠もないのに犯人にでっち上げるなんてこの店主の方が私は悪人に見えるけどね」

「なに?! お前、今、なんて言った!?」

 民衆の前で鼻で笑われた店主は顔を真っ赤にし、右手で持っていたロストの子を乱雑に地面に落とし、シルフの頬を平手打ち。

 身体の軽いシルフは1mくらい吹っ飛んでその場にズサッと転がる。

「__シルフ!」

 急な出来事に俺は一歩も動けなかった。
 ヴァ二アルや忍者たちも王位継承戦のことを考えて動けず、唇を噛みしめている。
 遅れてきたゴーレム幼女は倒れているシルフをみて状況を察し、見るからに殺気を隠すことなく、店主の方に黙って向かう。

「ちょっと! ゴーレム幼女! 待てって!」

「... ...蒸発させてやる」

 殺すよりも恐ろしい事を言いながら向かうゴーレム幼女の腕を掴んだ時、シルフが涙を目に溜めながら立ち上がり、今度はシルフが店主の顔を平手内。

「女の子を殴るなんて最低ね! こんな店、潰れればいい!」

 叩かれた店主は怒り心頭な様子で再び、シルフを殴ろうと右手を振り上げた。
 このままではシルフを殴る前にゴーレム幼女によって店主が蒸発してしまう。
 俺は重たい足に鞭を打ち、民衆の中から飛び出した。
 その時___。

「__やめたまえ!」

 民衆の奥から何やら声が聞こえる。
 ふう... ...。
 やっと、争いを拒むまともな奴が現れてくれた。
 俺は内心ホッとした。
 民衆から”その名”を聞くまでは... ...。

「あ! ハンヌ様!」
「ほ・本当だ! ハンヌ王子様!」

 誰かが声を上げると民衆という名の海が割れ、道を作り、そこを歩いて来たのは数名の護衛達に囲まれた馬に跨った金色の戦士であった。

「に・兄さん... ...」

 俺はヴァ二アルの言ったことを聞き逃さなかった。
 そうか、こいつがヴァ二アル・ハンヌ。
 ヴァ二アルの兄であり、諸悪の根源。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...