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1-8.生徒の会長②
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斜陽が生徒会室に差し込み、俺と生徒会長間を断つ。
廊下から吹奏楽部の楽器の音が聞こえ、雑談している帰宅部の声は聞こえなくなっていた。
「一つ目はあなたと友人になるのは俺じゃなくてポプラです。あなたはポプラを毛嫌いしているけど、あいつはそんなに悪い奴じゃない。それに、男の俺と友達になるよりは変な噂が立たなくて良いでしょう? その方が俺も都合がいい」
「分かった。そこは君の提案を受け入れる」
この人、ニコリともしないな。
まあ、俺もニヤニヤはするけど、ニコニコはしないけど。
「で、二つ目です。友達になるのは二週間でいい。その間、ポプラからの遊びの誘いなどは極力受け入れてください。友達になると言っても内容が伴ってなくては意味がない」
「それも受け入れよう。しかし、今の言い方だと二週間経過した後は友人関係を切ってもいいと認識したが?」
「ええ。仰る通り。その間に俺は光ちゃんに『生徒会長には友人がいる』と認識させます」
「ただ、流石に数か月経って、今のような友人のいない生活に戻ってしまったら再び、光が心配するのでは? そこは何か策があるのか?」
「ええ。今、それをあなたに話してしまうと作戦が破綻する恐れもありますので詳しくは話せませんが人の意識を変えるのに二週間もあれば問題はない」
「意識を変える?」
「そう。要は光ちゃんはあなたに友人がいないから可哀想。寂しいのでは? と言葉は強いですが余計なお世話をしてしまっている。しかし、一人が寂しいというのは価値観の違いです。友人がいる事で幸福感を得る人も居ますが、一人でいる事に幸福感を感じる人もいるという事を彼女に認識させます」
光ちゃんはまだ小学生だ。
価値観というのは大分、完成しつつある。
しかし、それは周囲の環境に影響されて出来たもの。
幸福論者しかいない集団の中に不幸論者は居らず、不幸論者の中に幸福論者はいない。
分かりやすい言葉でいうと世間を知らない。
という事だ。
友人がいない事で良い事もある。
それを分からせればいいだけだ。
「人の意識を変えるのには二週間でいいか。君の中での人間はその程度という事か」
生徒会長が初めて見せた笑みは皮肉なことに人を否定したことだった。
俺がそうだから言える事だが、恐らく、会長はずっと一人が好きだった訳ではない。
恐らく、どこかの過程で『一人でいた方がいい』と意識を変えていった人。
光ちゃんが言った「お姉ちゃんとあなたは似ている」は恐らく、そういう所を指して言った言葉だったかもしれない。
「そして、三つ目です。俺を生徒会に入れてくれませんか?」
「何故だ? 形式的に副会長などの席はあるが、実務はほぼ私がやっている。それで問題はないので人員はいらん」
そう。
この生徒会長はとんでもなく仕事が出来る。
普通は四人でやるような仕事も一人でこなすし、人手がいる仕事などは先生を使い、人員を集め、スポット的にしか人を使わない。
効率が良いといえば言葉は良いが些か独裁的な運営にも見えなくもない。
しかし、それで問題なく回っている。
むしろ、会議などの面倒で時間ばかり取られるものを短縮しており、先生としては時間が取られずに済んでいて、生徒会長の評価は先生の間では良い。
生徒の間では真逆だが。
そのように拒絶されるのは俺も分かっていた。
だが、俺にはどうしても生徒会という枠が欲しかった。
「ええっとですね。生徒会長は俺が今、友達部部長と言われて揶揄われているの知ってますか?」
「そうなのか。気の毒だな」
本当だよ。
そして、生徒会長は再び、頬を緩める。
人の不幸は蜜の味ってやつか。
「それでですね、生徒会に入れば友達部部長としての枠が外れて、生徒会委員となるので今より揶揄いは少なくなるかと思うんです」
「うむ。君が言わんとしている事は大体理解出来た。つまり、一人でいる時間を増やして平穏な学校生活を取り戻したいというのが本題で生徒会に入るのが目的ではないという事だな」
話が早くて助かる。
さすが、生徒会長だ。
「よし。では、全てが上手く行ったあかつきにはそれを校長に進言することを約束してやろう」
はは~!
いや、何、かしこまってるんだ俺は......。
ただ、俺の平穏な日常が取り戻せるのは有り難い。
しかも、この生徒会長のお膝元であれば何かしらの恩恵を受けることも可能かも。
そんな、タラればの事を考えていると微笑を浮かべた氷の魔女は突然。
「で、どういう具合に君は揶揄われるのだ?」
「え? それ言わないといけないんですか?」
「生徒会長が在校生の悩みを聞くのは当然の義務だよ」
ええ......。
俺が抵抗しているのに生徒会長はジッとこちらを見ている。
口元を隠しているのは緩んだ口元を見せない為に違いない。
先程からの言動や態度で気付いてはいたが、恐らく、生徒会長はドSだ。
そして、しどろもどろになりながら揶揄われる内容を生徒会長に伝えた。
廊下から吹奏楽部の楽器の音が聞こえ、雑談している帰宅部の声は聞こえなくなっていた。
「一つ目はあなたと友人になるのは俺じゃなくてポプラです。あなたはポプラを毛嫌いしているけど、あいつはそんなに悪い奴じゃない。それに、男の俺と友達になるよりは変な噂が立たなくて良いでしょう? その方が俺も都合がいい」
「分かった。そこは君の提案を受け入れる」
この人、ニコリともしないな。
まあ、俺もニヤニヤはするけど、ニコニコはしないけど。
「で、二つ目です。友達になるのは二週間でいい。その間、ポプラからの遊びの誘いなどは極力受け入れてください。友達になると言っても内容が伴ってなくては意味がない」
「それも受け入れよう。しかし、今の言い方だと二週間経過した後は友人関係を切ってもいいと認識したが?」
「ええ。仰る通り。その間に俺は光ちゃんに『生徒会長には友人がいる』と認識させます」
「ただ、流石に数か月経って、今のような友人のいない生活に戻ってしまったら再び、光が心配するのでは? そこは何か策があるのか?」
「ええ。今、それをあなたに話してしまうと作戦が破綻する恐れもありますので詳しくは話せませんが人の意識を変えるのに二週間もあれば問題はない」
「意識を変える?」
「そう。要は光ちゃんはあなたに友人がいないから可哀想。寂しいのでは? と言葉は強いですが余計なお世話をしてしまっている。しかし、一人が寂しいというのは価値観の違いです。友人がいる事で幸福感を得る人も居ますが、一人でいる事に幸福感を感じる人もいるという事を彼女に認識させます」
光ちゃんはまだ小学生だ。
価値観というのは大分、完成しつつある。
しかし、それは周囲の環境に影響されて出来たもの。
幸福論者しかいない集団の中に不幸論者は居らず、不幸論者の中に幸福論者はいない。
分かりやすい言葉でいうと世間を知らない。
という事だ。
友人がいない事で良い事もある。
それを分からせればいいだけだ。
「人の意識を変えるのには二週間でいいか。君の中での人間はその程度という事か」
生徒会長が初めて見せた笑みは皮肉なことに人を否定したことだった。
俺がそうだから言える事だが、恐らく、会長はずっと一人が好きだった訳ではない。
恐らく、どこかの過程で『一人でいた方がいい』と意識を変えていった人。
光ちゃんが言った「お姉ちゃんとあなたは似ている」は恐らく、そういう所を指して言った言葉だったかもしれない。
「そして、三つ目です。俺を生徒会に入れてくれませんか?」
「何故だ? 形式的に副会長などの席はあるが、実務はほぼ私がやっている。それで問題はないので人員はいらん」
そう。
この生徒会長はとんでもなく仕事が出来る。
普通は四人でやるような仕事も一人でこなすし、人手がいる仕事などは先生を使い、人員を集め、スポット的にしか人を使わない。
効率が良いといえば言葉は良いが些か独裁的な運営にも見えなくもない。
しかし、それで問題なく回っている。
むしろ、会議などの面倒で時間ばかり取られるものを短縮しており、先生としては時間が取られずに済んでいて、生徒会長の評価は先生の間では良い。
生徒の間では真逆だが。
そのように拒絶されるのは俺も分かっていた。
だが、俺にはどうしても生徒会という枠が欲しかった。
「ええっとですね。生徒会長は俺が今、友達部部長と言われて揶揄われているの知ってますか?」
「そうなのか。気の毒だな」
本当だよ。
そして、生徒会長は再び、頬を緩める。
人の不幸は蜜の味ってやつか。
「それでですね、生徒会に入れば友達部部長としての枠が外れて、生徒会委員となるので今より揶揄いは少なくなるかと思うんです」
「うむ。君が言わんとしている事は大体理解出来た。つまり、一人でいる時間を増やして平穏な学校生活を取り戻したいというのが本題で生徒会に入るのが目的ではないという事だな」
話が早くて助かる。
さすが、生徒会長だ。
「よし。では、全てが上手く行ったあかつきにはそれを校長に進言することを約束してやろう」
はは~!
いや、何、かしこまってるんだ俺は......。
ただ、俺の平穏な日常が取り戻せるのは有り難い。
しかも、この生徒会長のお膝元であれば何かしらの恩恵を受けることも可能かも。
そんな、タラればの事を考えていると微笑を浮かべた氷の魔女は突然。
「で、どういう具合に君は揶揄われるのだ?」
「え? それ言わないといけないんですか?」
「生徒会長が在校生の悩みを聞くのは当然の義務だよ」
ええ......。
俺が抵抗しているのに生徒会長はジッとこちらを見ている。
口元を隠しているのは緩んだ口元を見せない為に違いない。
先程からの言動や態度で気付いてはいたが、恐らく、生徒会長はドSだ。
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