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第二幕 千紗の章
新たなる協力者を探して
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所変わって坂東▪︎武蔵国――
「竹芝殿、どうか……将門殿の軍に、武蔵国でも人望の厚い、貴方様のお力をお貸しいただけないでしょうか!」
「忠輔、お前もしつこいのう。何度お願いされようと、わしの答えは変わらない。お前さん等に力を貸す事は出来ない。帰ってくれ」
「そこをなんとかっ!……お願いします!!」
「いい加減にしてくれ。先の戦で、将門に手を貸した人間はひどい目にあったそうじゃないか。悪いが上総介である良兼に目をつけられるわけにはいかないんだ。醜い一族同士の争いに巻き込まれて、わし等の領地まで焼かれてしまってはたまったもんじゃないからな! もう二度と、ここへは来ないでくれ、分かったな忠輔」
「竹芝殿っっ!お待ちくださいっ……竹芝殿っ――」
武蔵国で地方官僚を担い、武蔵国での人望も厚い豪族、武蔵竹芝の家を訪ね来ていた小次郎と忠輔だったが、なかば追い出されるような形で竹芝の屋敷を後にした。
「将門殿、お力になれず申し訳ありません。父の領地がある武蔵国まで来れば、協力者が見つかるやもしれぬと思いましたが、私の力が足りぬばかりに……」
「いや、違う。忠輔殿のせいでは決してない。どうか謝らないでくれ。全ては俺の……俺の弱さが原因なのだから」
そう言いながら小次郎は悔しげに唇を噛み締める。
先の戦――「子飼の渡しの合戦」から3週間が経ち、小次郎軍大敗の噂は、既に坂東中へと広まっていた。
一族同士の私的な争いでありながら、多くの罪なき者を巻き込んだ叔父の残忍なやり方は、坂東中を震え上がらせ、次また小次郎に味方する者あらば自身も同じ目にあうやもしれぬと言う恐怖心から、小次郎の協力者探しは難航していた。
だが、たとえ戦況が不利になろうと、今回ばかりは小次郎も引くわけにはいかなかった。
過去には叔父との争いを避け、自ら領地を手放した経験もある小次郎だったが、結果、多くを奪われ、多くの大切なもの達を傷付けられた。
争いによって多くの者達の平和を守るべく決断した事柄だったが、いくらこちらが争いを避けようと努力しようとも、向こうが振り上げた刀をおさめず、小次郎の大切な者達が乱暴に傷付けられ続けるのだとしたら、これ以上黙って奪われ続けるわけにはいかない。
叔父の一方的な暴力を自らの力ではねのけ、負の連鎖を立ちきらなければならないのだ。
その為にはやはり、協力者が絶対不可欠なのだが……
小次郎が自らの足で新たな協力者探しに奔走しているものの、なかなか首を縦に振ってくれる者は現れない。
それどころか、先の敗戦によって離れて行った者も多く、兵力は半分以下にまで減っていた。
敗戦により力が弱っている小次郎軍。この好機を、あの卑怯な叔父達が見逃すだろうか? いや。見逃す筈がない。
そう時間を置かずして、必ず叔父達は次の戦を仕掛けてくるだろう。
そんな切迫した状況の中、なかなか思うように兵力が集まらない状況に、小次郎は言い様のない不安と焦りを募らせていた。
「将門、そう焦るな」
沈んだ顔で唇を噛みしめる小次郎に、もう一人、小次郎に同行していた彼の数少ない協力者、藤原玄明が励ましの声を掛ける。
彼に同意するように忠輔も続く。
「そ、そうです、将門殿。人が集まらぬのは将門殿のせいなどてはございません。それに私は何があろうと、将門殿の味方です!」
「俺様だってそうだ。都合の良い時だけすり寄ってくる寄生虫みたいなやつらと一緒にするなよ。それに、俺様が居れば百人力だろ」
「玄明、忠輔殿……。そうだな。こうして今も俺に協力してくれる者達がいるのに、落ち込んでなどいられないな。根気強く頼み込めばきっと、二人みたいにまだ俺に力を貸してくれる人間がいるかもしれない」
敗戦してもなお、共に戦うと力を貸してくれる玄明と忠輔。彼等の存在が、今の小次郎にどれ程の勇気を与えてくれているか。彼等にはいくら感謝してもしたりない。
彼等にこれ以上迷惑をかけない為にも、彼等の信頼を裏切らない為にも、一人でも多くの援軍を集めなければ。
小次郎は心の中で強く自身に言い聞かせながら、次なる目的地を目指して馬に股がる。
と、その時――
「っ…………!?」
「ま、将門殿っ?! 大丈夫ですか!?」
小次郎は鐙から足を踏み外し、派手に落馬してしまった。
「忠輔殿、いや、これは恥ずかしい所を見せてしまったな。大丈夫、ちょっと足が滑っただけだ」
慌てて駆け寄ってくる忠輔に、小次郎は恥ずかしいそうに笑った。
「何やってんだ将門。暑いからってバテたのか?」
小次郎を気遣う忠輔とは対照的に、落馬した小次郎を馬鹿にする玄明。
「いや~、面目無い」
ばつが悪そうに頭をかきながら小次郎はぼんやりと考えた。『何故、落馬なんて素人のような失敗をしてしまのだろうか?』と。
「竹芝殿、どうか……将門殿の軍に、武蔵国でも人望の厚い、貴方様のお力をお貸しいただけないでしょうか!」
「忠輔、お前もしつこいのう。何度お願いされようと、わしの答えは変わらない。お前さん等に力を貸す事は出来ない。帰ってくれ」
「そこをなんとかっ!……お願いします!!」
「いい加減にしてくれ。先の戦で、将門に手を貸した人間はひどい目にあったそうじゃないか。悪いが上総介である良兼に目をつけられるわけにはいかないんだ。醜い一族同士の争いに巻き込まれて、わし等の領地まで焼かれてしまってはたまったもんじゃないからな! もう二度と、ここへは来ないでくれ、分かったな忠輔」
「竹芝殿っっ!お待ちくださいっ……竹芝殿っ――」
武蔵国で地方官僚を担い、武蔵国での人望も厚い豪族、武蔵竹芝の家を訪ね来ていた小次郎と忠輔だったが、なかば追い出されるような形で竹芝の屋敷を後にした。
「将門殿、お力になれず申し訳ありません。父の領地がある武蔵国まで来れば、協力者が見つかるやもしれぬと思いましたが、私の力が足りぬばかりに……」
「いや、違う。忠輔殿のせいでは決してない。どうか謝らないでくれ。全ては俺の……俺の弱さが原因なのだから」
そう言いながら小次郎は悔しげに唇を噛み締める。
先の戦――「子飼の渡しの合戦」から3週間が経ち、小次郎軍大敗の噂は、既に坂東中へと広まっていた。
一族同士の私的な争いでありながら、多くの罪なき者を巻き込んだ叔父の残忍なやり方は、坂東中を震え上がらせ、次また小次郎に味方する者あらば自身も同じ目にあうやもしれぬと言う恐怖心から、小次郎の協力者探しは難航していた。
だが、たとえ戦況が不利になろうと、今回ばかりは小次郎も引くわけにはいかなかった。
過去には叔父との争いを避け、自ら領地を手放した経験もある小次郎だったが、結果、多くを奪われ、多くの大切なもの達を傷付けられた。
争いによって多くの者達の平和を守るべく決断した事柄だったが、いくらこちらが争いを避けようと努力しようとも、向こうが振り上げた刀をおさめず、小次郎の大切な者達が乱暴に傷付けられ続けるのだとしたら、これ以上黙って奪われ続けるわけにはいかない。
叔父の一方的な暴力を自らの力ではねのけ、負の連鎖を立ちきらなければならないのだ。
その為にはやはり、協力者が絶対不可欠なのだが……
小次郎が自らの足で新たな協力者探しに奔走しているものの、なかなか首を縦に振ってくれる者は現れない。
それどころか、先の敗戦によって離れて行った者も多く、兵力は半分以下にまで減っていた。
敗戦により力が弱っている小次郎軍。この好機を、あの卑怯な叔父達が見逃すだろうか? いや。見逃す筈がない。
そう時間を置かずして、必ず叔父達は次の戦を仕掛けてくるだろう。
そんな切迫した状況の中、なかなか思うように兵力が集まらない状況に、小次郎は言い様のない不安と焦りを募らせていた。
「将門、そう焦るな」
沈んだ顔で唇を噛みしめる小次郎に、もう一人、小次郎に同行していた彼の数少ない協力者、藤原玄明が励ましの声を掛ける。
彼に同意するように忠輔も続く。
「そ、そうです、将門殿。人が集まらぬのは将門殿のせいなどてはございません。それに私は何があろうと、将門殿の味方です!」
「俺様だってそうだ。都合の良い時だけすり寄ってくる寄生虫みたいなやつらと一緒にするなよ。それに、俺様が居れば百人力だろ」
「玄明、忠輔殿……。そうだな。こうして今も俺に協力してくれる者達がいるのに、落ち込んでなどいられないな。根気強く頼み込めばきっと、二人みたいにまだ俺に力を貸してくれる人間がいるかもしれない」
敗戦してもなお、共に戦うと力を貸してくれる玄明と忠輔。彼等の存在が、今の小次郎にどれ程の勇気を与えてくれているか。彼等にはいくら感謝してもしたりない。
彼等にこれ以上迷惑をかけない為にも、彼等の信頼を裏切らない為にも、一人でも多くの援軍を集めなければ。
小次郎は心の中で強く自身に言い聞かせながら、次なる目的地を目指して馬に股がる。
と、その時――
「っ…………!?」
「ま、将門殿っ?! 大丈夫ですか!?」
小次郎は鐙から足を踏み外し、派手に落馬してしまった。
「忠輔殿、いや、これは恥ずかしい所を見せてしまったな。大丈夫、ちょっと足が滑っただけだ」
慌てて駆け寄ってくる忠輔に、小次郎は恥ずかしいそうに笑った。
「何やってんだ将門。暑いからってバテたのか?」
小次郎を気遣う忠輔とは対照的に、落馬した小次郎を馬鹿にする玄明。
「いや~、面目無い」
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