時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第二幕 千紗の章

取り戻した千紗らしさ

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「どうやら、何か吹っ切れたご様子」


秋成が言う。
晴れやかな顔で千紗が頷いた。


「あぁ。悩むより先に、まず行動に移す。それお主のよく知る“私”だったな」

「はい」

「だから進むぞ、前へ。確かに秋成の言う通り、私は道を間違えたのかもしれない。間違えた事で歪みが生じたと言うのならば、己の過ちは己で正しに行かねばなるまい」


今度は周りに流され口にした言葉ではない。
己自身で悩み、考え、下した決意を、己の口で告げた千紗に、秋成は嬉しそうに笑った。

そして――


「お供いたします。俺はどこまでも、貴方の進む道へ。そう言う約束でしたからね。今度こそ俺に、約束を果たさせて下さい」


すっと床に方膝をつき、頭を垂れた。
千紗への変わらぬ忠誠心を態度で示すべく、深々と。

そんな二人のやりとりを、すぐ側で見ていたヒナが、嬉しそうに、会話に割って入る。


「そうと決まれば……千紗様。こちらに……お着替え下さいませ」


そう言って千紗に、何やら白い布で包まれたものを手渡した。



「それは?」



ヒナがそっと布を開いて見せると、千紗は驚きのあまり目を見開いた。

ヒナが差し出したそれは、以前千紗が坂東へと旅した際に、忠平が用意してくれた簡素な見た目の着物。
千紗の母親、順子がお忍びで京の街へと出掛ける際に着ていたと言う、民人達が着る水干と呼ばれる着物だった。

更に着物の上には、昔、兄のように慕っていた小次郎との突然の別れに、悲しむ千紗を励まそうと、小次郎からの預かり物だと秋成が下手くそな嘘をついて贈ってくれたあの簪が、ちょこんと乗っていた。



「驚いた。あの騒ぎの中、よく持ってこられたな、ヒナ」



秋成が関心したように言う。


「……どうして……母上の着物と簪がここに? それは、藤原の屋敷に……置いてきたはずのもの……」


秋成とは対象的に、驚きを隠せない様子の千紗に、ヒナは申し訳なさそうに謝罪した。



「勝手な事をして……申し訳……ございません……。でも……これは必ず……必ずまた必要となる日が……来ると思って……忠平様に許しを貰い、ずっと私が……預からせていただいて……おりました」


「…………」


「これを今……千紗様に……お返し……いたします」




内裏に入ったおり、もう二度と身に付ける事は叶わないと、手放すつもりで藤原の屋敷に置いてきたもの達。

それがまさか、再び千紗の手元に戻るとは……
再び身に付けられる日が来ようとは……



千紗は、ヒナからそれを受けとると、いとおしそうにギュッと抱き締めた。


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