時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第二幕 千紗の章

影の協力者

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「そこのお姫様が、どんな経緯で帝の妻となられたのかは、俺も小次郎から聞いて知っている」

「……兄上から?」

「あぁ、あいつが坂東に帰る前、俺の所にも挨拶に来てくれてな、その時に聞いたのさ」

「そう……だったのですか」

「あぁ。正直、此度の御上のやり方は、俺もちと腹を立てている。政に私情を挟み、権力を笠に着て人を思いのまま操ろうなんて、偉い立場の人間のやることじゃあないわな。いくら朝廷の犬である身とは言え、俺も心を持つ人の子よ。主が理不尽な行いをすれば、噛みつく事だってあるさ」

「秀郷殿……」

「いいか。お前達はこのまま達智門たっちもんへ行け。そこの警護も解いてある」


秀郷の発言に、秋成ははっとする。


「待って下さい。そこの警護とはどういう意味ですか? 秀郷殿もしや、豊楽院での目撃情報を流したのは、あなたではないですか?」


ここまで大きな障害もなく内裏を抜け出す事ができた。その大きな理由は、豊楽院での目撃情報があった事で内裏内の警護が手薄になったからだ。

式乾門へ来たのだって、大内裏の南側に警護が集中した事で、北側の警護が手薄になっていたから。

そして内裏に12もある門の中から何故か秀郷は、ここ式乾門で秋成達を待っていた。
まるでここに彼等が来ることが分かっていたかのように。

つまり、それら全ては秀郷の計算によるものだったからではないだろうか?

驚いた顔で問う秋成に、秀郷はニッと悪戯っ子のように笑って言った。


「察しが良いな。そうだ。俺が偽の情報を衛兵仲間の間に流した。警護を南に引き付ける事でお前達の役に立てたらと思ってたな。ついでに北側の門を守っていた衛兵達にも偽の指示を流して門の警護を解いておいた。どうだ、ここに来るまでの間、動きやすかっただろ?」

「……はい、誰にも鉢合わせる事なく無事にここまで辿り着く事ができました。まさか、俺達の知らないの所で藤太殿のご尽力があったとは……ありがとうございました」


感謝を口にしながら、秋成はまんまと秀郷の手の平で踊らされていた事実に、驚きと共に僅かな恐怖も感じていた。

味方であるならば心強い人物たが、敵であったならば?
想像してブルリと背筋が震えるのを感じた。



「礼などいらぬさ。俺は俺がしたくて勝手にした事だからな。それに、俺が手を貸せるのはここまでだ。内裏より先は自分達の力で何とかするしかない。追われる身での長旅はきっと様々な困難に見舞われるだろう。それでもその姫さんを守り通す覚悟はあるか?」


「あります。必ず千紗姫様を兄上の元へお連れ致します」


相変わらず一切の迷いのない瞳で言い切る秋成。
秀郷は満足気に、再び豪快に笑っていた。



達智門たっちもん
大内裏外郭十二門の一つ。北側の三門あるうち東に位置する門)
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