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第二幕 千紗の章
立ちはだかる者
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それから半刻程して、ヒナは無事二人のもとへ戻って来た。
「ヒナ、無事で良かった」
「はい、秋成様。早速……ご報告があります。先程の……衛兵達の話は……どうやら本当だったようで……今多くの兵は……大内裏の………南側に集められ……目撃情報のあった豊楽殿あたりを……特に重点的に捜索しているよう……でした。故に北側の警護は……今かなり手薄に……なっていて……脱出の可能性が……あるとすれば……北側に位置する3門……中でも式乾門が……宜しいかと」
「わかった。実際に見聞きしてきたヒナの判断に任せよう。では、千紗姫様、参りますよ」
ヒナの報告に秋成は頷き賛成を示しながら、千紗の手を取ると、物音を立てぬよう注意を払いながら静かに中和院を抜け出した。
そしてそのまま進路を北へ定め、夜の闇に紛れて走った。
目指すは内裏外郭の北西に位置する式乾門(しきけんもん)。
「秋成様、千紗様。見えて……来ました。あれが……式乾門です」
ヒナが前方に見える門を指差しながら声を上げた。
深い夜の闇から徐々に東の空が白み始めている。
あと少しで、千紗を窮屈な鳥籠から救い出す事ができる。頭に過った期待に、秋成の顔からも緊張の色が和らぎはじめている。
「千紗……姫様と……秋成様は……少しここで……お待ち下さい。念のため、私……が、外の様子を見て参ります」
そう言って一人外の様子を窺うべく、門の外へと足を踏み出すヒナ。
心のどこかに油断があったから、だから秋成はしなかった。一人先に門を潜るヒナを止めようと――
ヒナが門の外へと足を踏み出した瞬間、ヒナの姿が秋成と千紗の目の前から一瞬にして消えた。
「「ヒナっ?!」」
驚きに秋成と千紗は同時に声を上げる。
とっさに秋成は、千紗と繋いでいた手に力を籠める。
秋成の緊張がその手から伝わって、千紗はぎゅっと秋成の背にしがみついた。
そんな千紗を背に庇いながら、秋成は消えたヒナの姿を探すべくゆっくりと門を潜る。
目指していたはずの式乾門を抜けた先で秋成の目に写ったものは
「よぉ、こんな所でこそこそと、お前等いったい何やってんだ?」
ヒナの背後から彼女の首に腕を回し、ニヤニヤと笑顔を向けてくる大男の姿。
秋成は筋肉質で難いの良い、まるで熊みたいな大男を強く睨み付けながら、ある違和感を覚えた。
この男、前に一度何処で会った事があるような? そんな違和感を。
だが、何処で会ったのかまでは思い出せない。
必死に過去の記憶を手繰り寄せると、ふと秋成の脳裏に、ある場面が思い浮かんできた。
◇◇◇
――『こ、これは、藤太殿っ!』
『なんじゃお主、小次郎の知り合いか?』
『この方は、俺が検非違使庁にいた頃に世話になった方、俵藤太殿。俺が尊敬してやまないお方だ』
『よせよせ将門。世話したと言っても俺もお前と同じ検非違使見習い。大した世話はしてないだろう。それにお前、尊敬だのなんだのと、よくもそんな台詞を恥ずかしげもなく口にできるな』
『? 何故ですか? 藤太殿は私の剣の師であり、尊敬して止まない方です。俺は板東にいた頃からずっと貴方の強さに憧れておりました。そんな方に京で出会い、剣や弓を習う事が出来た事は私にとっての誉。感謝の気持ちしかありません。それに尊敬しているのは武芸の腕だけではありません。人の上に立つ指導者としても俺は憧れ、いつか貴方様のような男になりたいと、貴方様を目標にして』――
◇◇◇
「俵……藤太………殿……」
目の前に立ちはだかる男の名前をぽつりと呟く秋成。
「ヒナ、無事で良かった」
「はい、秋成様。早速……ご報告があります。先程の……衛兵達の話は……どうやら本当だったようで……今多くの兵は……大内裏の………南側に集められ……目撃情報のあった豊楽殿あたりを……特に重点的に捜索しているよう……でした。故に北側の警護は……今かなり手薄に……なっていて……脱出の可能性が……あるとすれば……北側に位置する3門……中でも式乾門が……宜しいかと」
「わかった。実際に見聞きしてきたヒナの判断に任せよう。では、千紗姫様、参りますよ」
ヒナの報告に秋成は頷き賛成を示しながら、千紗の手を取ると、物音を立てぬよう注意を払いながら静かに中和院を抜け出した。
そしてそのまま進路を北へ定め、夜の闇に紛れて走った。
目指すは内裏外郭の北西に位置する式乾門(しきけんもん)。
「秋成様、千紗様。見えて……来ました。あれが……式乾門です」
ヒナが前方に見える門を指差しながら声を上げた。
深い夜の闇から徐々に東の空が白み始めている。
あと少しで、千紗を窮屈な鳥籠から救い出す事ができる。頭に過った期待に、秋成の顔からも緊張の色が和らぎはじめている。
「千紗……姫様と……秋成様は……少しここで……お待ち下さい。念のため、私……が、外の様子を見て参ります」
そう言って一人外の様子を窺うべく、門の外へと足を踏み出すヒナ。
心のどこかに油断があったから、だから秋成はしなかった。一人先に門を潜るヒナを止めようと――
ヒナが門の外へと足を踏み出した瞬間、ヒナの姿が秋成と千紗の目の前から一瞬にして消えた。
「「ヒナっ?!」」
驚きに秋成と千紗は同時に声を上げる。
とっさに秋成は、千紗と繋いでいた手に力を籠める。
秋成の緊張がその手から伝わって、千紗はぎゅっと秋成の背にしがみついた。
そんな千紗を背に庇いながら、秋成は消えたヒナの姿を探すべくゆっくりと門を潜る。
目指していたはずの式乾門を抜けた先で秋成の目に写ったものは
「よぉ、こんな所でこそこそと、お前等いったい何やってんだ?」
ヒナの背後から彼女の首に腕を回し、ニヤニヤと笑顔を向けてくる大男の姿。
秋成は筋肉質で難いの良い、まるで熊みたいな大男を強く睨み付けながら、ある違和感を覚えた。
この男、前に一度何処で会った事があるような? そんな違和感を。
だが、何処で会ったのかまでは思い出せない。
必死に過去の記憶を手繰り寄せると、ふと秋成の脳裏に、ある場面が思い浮かんできた。
◇◇◇
――『こ、これは、藤太殿っ!』
『なんじゃお主、小次郎の知り合いか?』
『この方は、俺が検非違使庁にいた頃に世話になった方、俵藤太殿。俺が尊敬してやまないお方だ』
『よせよせ将門。世話したと言っても俺もお前と同じ検非違使見習い。大した世話はしてないだろう。それにお前、尊敬だのなんだのと、よくもそんな台詞を恥ずかしげもなく口にできるな』
『? 何故ですか? 藤太殿は私の剣の師であり、尊敬して止まない方です。俺は板東にいた頃からずっと貴方の強さに憧れておりました。そんな方に京で出会い、剣や弓を習う事が出来た事は私にとっての誉。感謝の気持ちしかありません。それに尊敬しているのは武芸の腕だけではありません。人の上に立つ指導者としても俺は憧れ、いつか貴方様のような男になりたいと、貴方様を目標にして』――
◇◇◇
「俵……藤太………殿……」
目の前に立ちはだかる男の名前をぽつりと呟く秋成。
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