時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第二幕 千紗の章

鳥籠からの脱走②

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「賊はまだ捕まらぬのか?!」

「はっ!申し訳ございません。内裏内を汲まなく探すよう指示を出してはいますが、なかなか見つからず……」

「ええい!お前達がもたもたしてる間に、とっくにもう外へと逃げてしまったのではないのか?」 


「そ、それは……可能性は否定できませんが」


「内裏ばかり探していないで、大内裏、更には大内裏の外にまで捜索の手を広げてみてはいかがか」


「し、しかし、それでは範囲が広すぎて捜索の手が回りませぬ。それに抜け穴も増えましょう」


「既に抜け穴をつかれて外へ逃げられている可能性もあるではないか。もしそうだとしたら我等が内裏を探している間、嘲笑うように遥か遠くへ逃げているやもしれない」


「し、しかし、この短時間で大内裏の外にまで逃げられるとは……到底思えませんが」


上官と部下と思われる衛兵達が口論をしている。
そこに一人の伝令兵が現れる。


「伝令、伝令!内裏に残っている衛兵は急ぎ建礼門までくるようにとのご命令です」


「建礼門に?」


「はい、内裏の外、大内裏の豊楽院ぶらくいんあたりで怪しい人陰を見たとの情報が。これより捜索範囲を大内裏にまで広げ、目撃情報のあった内裏より南側を重点的に調べるそうです」


「なに、目撃情報が?」


「はい」


「わかった、すぐに参ろう」


「宜しくお願い致します」



衛兵達のそんな会話の後、中和院の辺りを彷徨うろついていていた男達の足音が遠ざかって行った。





「…………行ったか?」


中和院の中、聞き耳を立てていた秋成がボソリと漏らす。
秋成の確認にヒナがコクりと小さく頷いた。



「大内裏で……目撃情報があったと……言っていましたが……どういう事でしょうか?」


「詳しい事はわからぬが、衛兵が門に集まっているのであるならば、これは今が動く好機なのではないか?」



ヒナの疑問に千紗が口を出す。



「かもしれません。ですがこれは、俺達を油断させる為の作戦である可能性も否定はできません。今はまだ慎重に動くべきかと」


秋成の意見にヒナが頷く。


「外も……静かになったようですし……今、外はどのような状況に……なっているのか……私が外の様子を……確かめて……参ります。ついでに警護の……手薄な場所を……探して参ります。お二人は……ここを動かぬよう……今暫くこちらにお隠れ……下さいませ」


「あぁ、頼んだぞヒナ。だが、くれぐれも気を付けて」


その声音から、秋成が自分の事を心配してくれいてるのだと分かったヒナは、微かに頬を染めながら微笑んだ。


「はい。秋成様と千紗様もお気をつけ」


そう言ってヒナは、一人中和院を後にした。




建礼門けんれいもん
平安宮内裏外郭の南正面に位置する門

豊楽院ぶらくいん
平安京大内裏の南部に位置し、朝廷の饗宴に用いられた施設。
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