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第二幕 千紗の章
脱走の協力者
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先程の騒ぎが嘘のようにシンと静まり返った藤壺殿。
「……がせ……」
今にも消え入りそうなか細い声が塗籠内から微かに聞こえてくる。
「…………帝? 大丈夫でしたか?」
その声の主が朱雀帝だと分かったキヨは、急いで彼の元へ駆け寄って行くと、震えるその背中をそっと擦ってやった。
「…………がせ………探せ…… あの者と千紗を、今すぐ探し出しだせっ! 絶対に逃がすなっ!! 絶対にっ!!」
悔しさ、怒り、寂しさ。
あらゆる感情が混ざりあったぐちゃぐちゃの顔で朱雀帝は叫んだ。
「お、仰せのままにっ!」
主の苛立ちに満ちた命に、警護の男達は腹に残る傷みを堪え苦し気に立ち上がりながら、秋成を追うべく塗籠を後にする。
「帝………」
朱雀帝の苦しみを側で感じたキヨが心配げに声を掛ける。
そんなキヨの声に、朱雀帝はふと彼女の発したある言葉を思い出していた。
――『帝。申し訳ございませんが、物忌み中の姫様に、帝を近付けるわけにはまいりません。帝まで悪い気に当てるわけには……どうかご理解下さい』
確かあの時キヨは、身を案じるフリをして頑なに朱雀帝の入室を拒んでいた。あの言葉の意図は――?
不意にある疑念が朱雀帝の頭を過る。
「……キヨ、もしかしてお前は……知っていたのか?」
「………え?」
朱雀帝から投げ掛けられた突然の質問に、キヨは戸惑いの色を浮かべる。
いったい何を問われているのか、キヨには分からなかったから。
だが、冷静さを欠いている朱雀帝には、キヨのその反応が肯定の意に思えたらしく、キヨの着物の襟を乱暴に掴んだかと思うと、捲し立てるように彼女を怒鳴り付けた。
「お前は、あの男の計画を知っていたんじゃないのか? だからあの時、朕をこの部屋へ入れる事を頑なに拒んでいたのだろう? そもそも、臨時で催したこの物忌みも、千紗を誘拐する為の計画の一部だった、違うか?」
「お、お待ちください帝! そのような事は決してございません! 千紗姫様は確かにここ数日、悪夢に魘されておられ……だからこそ、物忌みをしたらどうかと、ヒナが提案をして……」
隣にいるヒナに助けを求めようと、キヨはヒナの姿を探す。
「………え?……ヒナ?」
だが、今まで側にいるとばかり思っていたヒナの姿はそこにはない。
キヨは部屋中を見回すが、彼女の姿はどこにもなかった。
ここにきてキヨは、はっとする。
――『だからこそ、物忌みをしたらいかがかと、ヒナが提案をして……』
そう、物忌みを最初に提案したのはヒナだった。
――『…………千紗…様…は……もしかして……何か悪い気に……侵されているのかも……しれません……ね………。そうだ……。千紗様?今日は……物忌み……を……なされては……いかが…ですか?』
更に言えば、朱雀帝の入室を最初に強く拒んで見せたのもヒナ。
そして今、彼女の姿は忽然と消えた。
「……まさか……あの子…………」
辿り着いた疑念に、キヨの表情はみるみるうちに青白く染まって行く。
その様子に、キヨ自身は本当に何も知らなかったのかと疑念を解いた朱雀帝は、掴んでいた彼女の襟を乱暴にほどいた。
「……くそっ! 絶対に逃がさない。朕に歯向かった事をあの男には必ず後悔させてやる! 成明、屋敷の者にすぐ忠平を呼ぶよう伝えて参れ! それから……太郎……太郎貞盛も呼んで参れ」
弟にそれだけ言い残すと、自身も千紗を追い掛けるべく朱雀帝は荒い足取りで部屋を出て行った。
「……がせ……」
今にも消え入りそうなか細い声が塗籠内から微かに聞こえてくる。
「…………帝? 大丈夫でしたか?」
その声の主が朱雀帝だと分かったキヨは、急いで彼の元へ駆け寄って行くと、震えるその背中をそっと擦ってやった。
「…………がせ………探せ…… あの者と千紗を、今すぐ探し出しだせっ! 絶対に逃がすなっ!! 絶対にっ!!」
悔しさ、怒り、寂しさ。
あらゆる感情が混ざりあったぐちゃぐちゃの顔で朱雀帝は叫んだ。
「お、仰せのままにっ!」
主の苛立ちに満ちた命に、警護の男達は腹に残る傷みを堪え苦し気に立ち上がりながら、秋成を追うべく塗籠を後にする。
「帝………」
朱雀帝の苦しみを側で感じたキヨが心配げに声を掛ける。
そんなキヨの声に、朱雀帝はふと彼女の発したある言葉を思い出していた。
――『帝。申し訳ございませんが、物忌み中の姫様に、帝を近付けるわけにはまいりません。帝まで悪い気に当てるわけには……どうかご理解下さい』
確かあの時キヨは、身を案じるフリをして頑なに朱雀帝の入室を拒んでいた。あの言葉の意図は――?
不意にある疑念が朱雀帝の頭を過る。
「……キヨ、もしかしてお前は……知っていたのか?」
「………え?」
朱雀帝から投げ掛けられた突然の質問に、キヨは戸惑いの色を浮かべる。
いったい何を問われているのか、キヨには分からなかったから。
だが、冷静さを欠いている朱雀帝には、キヨのその反応が肯定の意に思えたらしく、キヨの着物の襟を乱暴に掴んだかと思うと、捲し立てるように彼女を怒鳴り付けた。
「お前は、あの男の計画を知っていたんじゃないのか? だからあの時、朕をこの部屋へ入れる事を頑なに拒んでいたのだろう? そもそも、臨時で催したこの物忌みも、千紗を誘拐する為の計画の一部だった、違うか?」
「お、お待ちください帝! そのような事は決してございません! 千紗姫様は確かにここ数日、悪夢に魘されておられ……だからこそ、物忌みをしたらどうかと、ヒナが提案をして……」
隣にいるヒナに助けを求めようと、キヨはヒナの姿を探す。
「………え?……ヒナ?」
だが、今まで側にいるとばかり思っていたヒナの姿はそこにはない。
キヨは部屋中を見回すが、彼女の姿はどこにもなかった。
ここにきてキヨは、はっとする。
――『だからこそ、物忌みをしたらいかがかと、ヒナが提案をして……』
そう、物忌みを最初に提案したのはヒナだった。
――『…………千紗…様…は……もしかして……何か悪い気に……侵されているのかも……しれません……ね………。そうだ……。千紗様?今日は……物忌み……を……なされては……いかが…ですか?』
更に言えば、朱雀帝の入室を最初に強く拒んで見せたのもヒナ。
そして今、彼女の姿は忽然と消えた。
「……まさか……あの子…………」
辿り着いた疑念に、キヨの表情はみるみるうちに青白く染まって行く。
その様子に、キヨ自身は本当に何も知らなかったのかと疑念を解いた朱雀帝は、掴んでいた彼女の襟を乱暴にほどいた。
「……くそっ! 絶対に逃がさない。朕に歯向かった事をあの男には必ず後悔させてやる! 成明、屋敷の者にすぐ忠平を呼ぶよう伝えて参れ! それから……太郎……太郎貞盛も呼んで参れ」
弟にそれだけ言い残すと、自身も千紗を追い掛けるべく朱雀帝は荒い足取りで部屋を出て行った。
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