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第二幕 千紗の章
賊と対峙するとき③
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圧倒的な秋成の強さを目の前で見せつけられた朱雀帝は、呆然と立ち尽くす。
少し離れた場所、塗篭の外から見ていたキヨや隠子、そして一人呑気にはしゃいでいた成明でさえも「信じられない」と言いたげな顔で、言葉を失っていた。
その場にいた全ての者の動きを封じる事に成功した秋成は、満足気に「ふっ」と小さく微笑むと、地に伏せる男達を踏み越え、皆が呆けた隙を狙って、塗篭唯一の出口である妻戸へ向かって走りだした。
「……っ!」
そんな秋成の動きに、はっと正気を取り戻した朱雀帝。
「……さない。絶対ここは通さぬぞ!」
護衛を失った恐怖に足が震えながらも、最愛の人を取り戻そうと必死に虚勢を張りながら、急いで秋成の眼前に飛び出し、大きく手を広げて秋成の行く手を遮ろうとする。
「寛明っっ?!」
「兄上~~~っっ!!?」
護衛の男4人をあっと言う間に地に伏した賊の目の前に、丸腰で立ちはだかる朱雀帝の姿に、彼の母と弟からは悲鳴にも似た叫び声があがる。
だが秋成は、逃げ道を塞ぐ朱雀帝の存在に焦る様子もなく冷静だった。
出口へ向かって走るその勢いを利用して、力強く地面を蹴り上げると、ひらりと宙を舞い、朱雀帝の頭上を可憐に飛び越えて行く。
気がつくと朱雀帝の視界から秋成の姿が一瞬にして消え、背後から“すとん”と、軽やかな着地音が聞こえた。
いったい今、目の前で何が起こったのか? 目を大きく見開き驚きながらも、緊張と恐怖に堪えかねた朱雀帝は一気に体中の力が抜け、その場にくずおれる。
その様子を塗篭の外から見ていた隠子、成明、そしてキヨの3人。力を持たぬ彼女達に秋成を止める術などあるはずもなく、秋成に道を譲るべく、すっと妻戸の前から身を引いた。
無事塗篭を抜け出し、更には藤壺殿の部屋から廊下まで走り抜ける事に成功した秋成は、その勢いのまま回廊を囲う高欄を飛び越え庭へと降り立つ。
一度だけくるりと朱雀帝達の方へ体を向けたかと思うと「姫様は返して貰う」と、短くそれだけを言い残し、再び背を向けた後、庭に無数に置かれた景石を踏み台にして、目の前に高く聳え立つ土壁のてっぺん目指して高く高く飛び上がって行った。
――いや、“舞い上がった”と表現した方が正しいのかもしれない。
月の光に照らされたその姿はあまりにも可憐で、美しく、まだ幼い成明は恐怖心も忘れて、思わず見とれてしまっていた。
その隣で隠子は、何故か驚いたような顔を浮かべながら、月明かりに照らされた秋成の姿をじっと見つめている。
そして壁の上へ立つ秋成が次に高く飛んだと思った次の瞬間、彼の姿はすっと闇夜に吸い込まれるかの如く静かに消えて行った。
少し離れた場所、塗篭の外から見ていたキヨや隠子、そして一人呑気にはしゃいでいた成明でさえも「信じられない」と言いたげな顔で、言葉を失っていた。
その場にいた全ての者の動きを封じる事に成功した秋成は、満足気に「ふっ」と小さく微笑むと、地に伏せる男達を踏み越え、皆が呆けた隙を狙って、塗篭唯一の出口である妻戸へ向かって走りだした。
「……っ!」
そんな秋成の動きに、はっと正気を取り戻した朱雀帝。
「……さない。絶対ここは通さぬぞ!」
護衛を失った恐怖に足が震えながらも、最愛の人を取り戻そうと必死に虚勢を張りながら、急いで秋成の眼前に飛び出し、大きく手を広げて秋成の行く手を遮ろうとする。
「寛明っっ?!」
「兄上~~~っっ!!?」
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だが秋成は、逃げ道を塞ぐ朱雀帝の存在に焦る様子もなく冷静だった。
出口へ向かって走るその勢いを利用して、力強く地面を蹴り上げると、ひらりと宙を舞い、朱雀帝の頭上を可憐に飛び越えて行く。
気がつくと朱雀帝の視界から秋成の姿が一瞬にして消え、背後から“すとん”と、軽やかな着地音が聞こえた。
いったい今、目の前で何が起こったのか? 目を大きく見開き驚きながらも、緊張と恐怖に堪えかねた朱雀帝は一気に体中の力が抜け、その場にくずおれる。
その様子を塗篭の外から見ていた隠子、成明、そしてキヨの3人。力を持たぬ彼女達に秋成を止める術などあるはずもなく、秋成に道を譲るべく、すっと妻戸の前から身を引いた。
無事塗篭を抜け出し、更には藤壺殿の部屋から廊下まで走り抜ける事に成功した秋成は、その勢いのまま回廊を囲う高欄を飛び越え庭へと降り立つ。
一度だけくるりと朱雀帝達の方へ体を向けたかと思うと「姫様は返して貰う」と、短くそれだけを言い残し、再び背を向けた後、庭に無数に置かれた景石を踏み台にして、目の前に高く聳え立つ土壁のてっぺん目指して高く高く飛び上がって行った。
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その隣で隠子は、何故か驚いたような顔を浮かべながら、月明かりに照らされた秋成の姿をじっと見つめている。
そして壁の上へ立つ秋成が次に高く飛んだと思った次の瞬間、彼の姿はすっと闇夜に吸い込まれるかの如く静かに消えて行った。
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