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第二幕 千紗の章
再び手にする翼
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見たくなかった現実を突きつけられて、それ以上の反論の言葉が出てこない千紗に対し、秋成は敬語を使う事も忘れて、更に主を責める言葉を続ける。
「どうして……どうしてお前はいつもいつも……大事な事は何も言わずに、一人で勝手に決めるんだよ……。あの時もそうだ……」
――『周りが変わろうとして行く中で、いつまでも目を反らし続けるわけには行かないのだと、妾自身も変わらなければ行けないと言う事にやっと気付いた。妾だけがいつまでも子供のまま、周りを振り回して、足手まといとなっているのは嫌じゃ。だから決めたぞ。妾は裳着をする。これ以上小次郎に置いていかれぬよう、妾も大人になりたい』
『……本当にそれで良いのか? お前今、無理して笑ってるだろ。本当にそれでいいのか?』――
それは、長年京にいた小次郎が、突然故郷である板東へ帰ったと聞かされた日の記憶。
あの時も千紗は、誰にも何も相談する事なく一人で裳着をする――つまりは成人するという大きな決断を下した。
「どうして苦しんでいる時に、何も相談もしてくれないんだ。もし一言でも相談してくれていたら、違った今があったかもしれないのに。少なくともこんな……お前から翼を奪わせるような事、俺が絶対にさせなかった! 絶対に!」
「………秋成………」
秋成は悔しさに拳を握りしめる。
いつもいつも、彼女が大事な決断を下す時、自分は蚊帳の外。側にいながら、彼女の悩みに寄り添う事が出来ない自分が悔しくて……
今回だってそうだった。小次郎を助けてと朱雀帝に頼みに行った後、千紗の変化に気付いていたのに、千紗が悩んでいる事に気付いていたのに、その理由を深く知ろうとはしなかった。
あの時の自身の判断が許せなくて、悔しくて、今も後悔に囚われ続けている。
「なぁ……千紗。俺は………そんなに頼りないか?」
「違っ、そんな事…………」
「俺にも背負わせてくれよ。お前が背負っている物を、俺も一緒に背負わせてくれよ。もう一人で何でもかんでも背負い込もうとするな」
「っ…………」
秋成の言葉に、千紗の脳裏には板東で小次郎にかけた自身の言葉が思い起こされた。
――『私にも小次郎の痛みをわけてくれ。カッコつけて、何でも一人で抱え込もうとするから怖いのだ。そう教えてくれたのは小次郎ではないか。一人で抱えられない程に苦しいのなら、私にもその苦しみを分けてくれ。頼む小次郎……私もお主の力になりたいのだ』――
あぁ自分は、あの時の小次郎と同じ事をしているのだと気付かされる。
秋成が怒っている理由が今やっと理解できた。
誰よりも知っているはずだったのに。
頼っては貰えない苦しさを。
置いていかれる側の切なさを。
自分は秋成や小次郎に、あの時と同じ苦しみを味あわせてしまっていたのか。
今になって始めて千紗は、己の行いを悔いる気持ちが芽生えた。
「すまない……秋成……すまなかった……。私は……お主達に酷い事を……したのだな……」
「……そうだ。誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて誰も望まない。辛い時は皆で一緒に悩んで、苦しんで、そして一緒にその試練を乗り越えて行けば良いんだよ。一人で全部を抱え込む必要なんてないんだ」
後悔に表情を歪める千紗の元、不意に差し出される手。
「行こう、一緒に。兄上を助けに。本気で兄上を助けたいと思うのなら、ただあいつの言いなりになってるだけじゃなくて、ただ遠くから兄上の無事を祈るだけじゃなくて、自分の手と足で動くべきだ」
「…………」
「その為の力がないと言うのなら、俺はいくらでもお前に力を貸してやる。自由に空を飛ぶ翼を無くしたと言うのなら、俺がお前の翼になる」
「……………秋成……」
「だから、もう二度と一人で勝手に諦めるな! 最後まで運命に抗って見せろ!な、千紗っ!!」
そう叫ぶと、秋成は強引に千紗の腕を掴む。
そして、その勢いのまま自分の元へと引き寄せた。
「っ……!」
「俺のよく知る千紗とは、そういう人間だ!」
瞬間、千紗は体の奥底から何か熱く込み上げてくるものを感じて――
「………たい……坂東へ……。小次郎に会いに……行きたいっ!」
やっと千紗が口にした本音。
秋成はふっと口元を緩めると、嬉しそうに微笑み言った。
「仰せのままに! 行きましょう、兄上が待つ板東へ!!」
「どうして……どうしてお前はいつもいつも……大事な事は何も言わずに、一人で勝手に決めるんだよ……。あの時もそうだ……」
――『周りが変わろうとして行く中で、いつまでも目を反らし続けるわけには行かないのだと、妾自身も変わらなければ行けないと言う事にやっと気付いた。妾だけがいつまでも子供のまま、周りを振り回して、足手まといとなっているのは嫌じゃ。だから決めたぞ。妾は裳着をする。これ以上小次郎に置いていかれぬよう、妾も大人になりたい』
『……本当にそれで良いのか? お前今、無理して笑ってるだろ。本当にそれでいいのか?』――
それは、長年京にいた小次郎が、突然故郷である板東へ帰ったと聞かされた日の記憶。
あの時も千紗は、誰にも何も相談する事なく一人で裳着をする――つまりは成人するという大きな決断を下した。
「どうして苦しんでいる時に、何も相談もしてくれないんだ。もし一言でも相談してくれていたら、違った今があったかもしれないのに。少なくともこんな……お前から翼を奪わせるような事、俺が絶対にさせなかった! 絶対に!」
「………秋成………」
秋成は悔しさに拳を握りしめる。
いつもいつも、彼女が大事な決断を下す時、自分は蚊帳の外。側にいながら、彼女の悩みに寄り添う事が出来ない自分が悔しくて……
今回だってそうだった。小次郎を助けてと朱雀帝に頼みに行った後、千紗の変化に気付いていたのに、千紗が悩んでいる事に気付いていたのに、その理由を深く知ろうとはしなかった。
あの時の自身の判断が許せなくて、悔しくて、今も後悔に囚われ続けている。
「なぁ……千紗。俺は………そんなに頼りないか?」
「違っ、そんな事…………」
「俺にも背負わせてくれよ。お前が背負っている物を、俺も一緒に背負わせてくれよ。もう一人で何でもかんでも背負い込もうとするな」
「っ…………」
秋成の言葉に、千紗の脳裏には板東で小次郎にかけた自身の言葉が思い起こされた。
――『私にも小次郎の痛みをわけてくれ。カッコつけて、何でも一人で抱え込もうとするから怖いのだ。そう教えてくれたのは小次郎ではないか。一人で抱えられない程に苦しいのなら、私にもその苦しみを分けてくれ。頼む小次郎……私もお主の力になりたいのだ』――
あぁ自分は、あの時の小次郎と同じ事をしているのだと気付かされる。
秋成が怒っている理由が今やっと理解できた。
誰よりも知っているはずだったのに。
頼っては貰えない苦しさを。
置いていかれる側の切なさを。
自分は秋成や小次郎に、あの時と同じ苦しみを味あわせてしまっていたのか。
今になって始めて千紗は、己の行いを悔いる気持ちが芽生えた。
「すまない……秋成……すまなかった……。私は……お主達に酷い事を……したのだな……」
「……そうだ。誰かの犠牲の上に成り立つ幸せなんて誰も望まない。辛い時は皆で一緒に悩んで、苦しんで、そして一緒にその試練を乗り越えて行けば良いんだよ。一人で全部を抱え込む必要なんてないんだ」
後悔に表情を歪める千紗の元、不意に差し出される手。
「行こう、一緒に。兄上を助けに。本気で兄上を助けたいと思うのなら、ただあいつの言いなりになってるだけじゃなくて、ただ遠くから兄上の無事を祈るだけじゃなくて、自分の手と足で動くべきだ」
「…………」
「その為の力がないと言うのなら、俺はいくらでもお前に力を貸してやる。自由に空を飛ぶ翼を無くしたと言うのなら、俺がお前の翼になる」
「……………秋成……」
「だから、もう二度と一人で勝手に諦めるな! 最後まで運命に抗って見せろ!な、千紗っ!!」
そう叫ぶと、秋成は強引に千紗の腕を掴む。
そして、その勢いのまま自分の元へと引き寄せた。
「っ……!」
「俺のよく知る千紗とは、そういう人間だ!」
瞬間、千紗は体の奥底から何か熱く込み上げてくるものを感じて――
「………たい……坂東へ……。小次郎に会いに……行きたいっ!」
やっと千紗が口にした本音。
秋成はふっと口元を緩めると、嬉しそうに微笑み言った。
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