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第二幕 千紗の章
暗闇の世界 灯る一筋の光
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「…………さ……助け……ち……さ……」
自分を呼ぶ声に千紗は目を覚ます。
目を開けた先に広がるは真っ暗な闇の世界。
暗闇の中、聞こえ来る声に千紗は怯えを見せながらも、小さな声で返事をした。
「………誰?……私を呼ぶのは……誰?」
「……助け……て……助け……」
「…………」
弱々しくも助けを求めるその声に、千紗は何故か小次郎の顔が思い浮かんだ。
助けを求め、千紗の名を呼んでいるのは小次郎なのではないか。そう思ったら、じっとしている事などできなくて
「………小次郎、小次郎が私を呼んでいるのか?」
「……さ……千……紗…………助け……」
「待っていろ。今助けに行くからな」
暗闇の恐怖から必死に自身を奮い立たせ、真っ暗な闇の中を走り出して行く。
「助けて……助けて……」
今にも泣き出しそうな弱々しい声は、何度となく助けてと千紗を呼んでいる。
だがその声は、反響しているのかあちらこちらから聞こえており、いったいどこから発せられているのかうまく位置が掴めない。
ふと、前にもこんな事があったかと、千紗は不思議な感覚を覚える。
その感覚に戸惑いながらも足を止める事はせず、当て所なく必死に小次郎の姿を探して走り続けた。
どこまでも、どこまでも――
「小次郎?小次郎~!!」
だが、走っても走っても目の前に続くは闇の世界ばかり。
深く、どこまでも深く続く闇に、千紗の焦りや不安も深まって行く。
助けを求めている小次郎を、自分は見つけられないのではないか。
この闇の世界から、抜け出す事は出来ないのではないかと。
「…………小次郎? 何処におるのだ? お主は今、いったい何処におるのだ?」
「……け……て……助けて……」
「今行く、すぐ行くから……お主を助けに必ず行くから、だから今しばらく待っておれ……あっ……」
不安をぬぐい去ろうと、叫ぶ事に夢中になり過ぎたのか、足が縺れて千紗は派手に転んだ。
“ドボン”
転んだと思った次の瞬間、聞こえて来たのは水に落ちる音。気が付くと千紗の体は冷たい水に包まれていた。
「……?!」
転んだ拍子に池にでも落ちたのだろうか?
千紗は早く池から上がろうと、必死にもがく。
だが貴族の姫である千紗は泳ぎ方など知らない。
もがけばもがく程、腕や足は鉛のように重くなって行き身動きが取れなくなって行く。
息継ぎもままならぬままに水の中でもがき続ける千紗だったが、ついには息苦しさに意識が遠退き始めた頃――
「千紗っ!」
先程まで聞こえていた、「助けて」と弱々しく千紗を呼び続けていた声とは違う、力強く逞しい声で名前を呼ばれた気がして、薄れ行く意識の中、千紗はゆっくりと顔を上げた。
すると、今まで真っ暗だったはずの世界に、一筋の淡い光が差し込んでいる事に気付いて、揺れる水面の向こう、ぼんやりと見える水上の景色に目を凝らした。
そこに見えるは一つの人影。
逆光で、顔までははっきりと見えなかったが、その人はこちらに向かって何かを必死に叫んでいるように見える。
『誰?そこにいるのは……誰……?……小次……郎?』
千紗はぼんやりする意識の中、無意識に水上にいるその人物に向かって手を伸ばした。
瞬間、伸ばした手の先からじわりじわりと温かなものが体中に伝わってくる。
その熱をもっと感じたくて、千紗は必死に温もりにしがみついた。
「………さっ!……千紗…………」
「……誰? そこにいるのは……私を呼ぶのは……誰?」
その人は、しがみつく千紗の手をギュッと握り返すと、暗く冷たい水の中から、光指す方へ千紗を導くかのように、強い力で引っぱり上げた。
体中を包んでいた冷たい水の感触が、太陽の光を浴びているかのような、ぽかぽかと温かなものへと変わって行く。
全身を包む心地よい温もりに千紗はゆっくりと目を開けた。
◇◇◇
次に目を開いた時、ぼんやりとする視界に映ったのは、どこか見慣れた天井と、部屋に灯る蝋燭のかすかな灯り。
あぁ、ここは物忌みをしていた部屋で、キヨと話している間に、いつの間にか眠ってしまっていたのかと思い至る。
夢の中感じた温もりを、目覚めた今尚手のひらに感じている事に気付いて千紗は自身の手の先へと視線を向けた。
するとそこには一つの人影があって、夢と同じように自分の手を握ってくれている。
悪夢にうなされるのを見かねてキヨが手を繋いでいてくれたのかと人影に目を凝らせば、その人物は女のキヨとは明らかに違った体格をしていて、千紗は慌てて体を起こした。
そんな千紗の体を、目の前の人物は背中に腕を回し、がっしりと支えてくれる。
筋肉質で逞しい腕。それは明らかに男のもの。
不思議と懐かしささえ覚える温もりに、千紗はもう一人、ある人物の姿を思い絵がいた。
けれど――
彼がここにいるはずはない。いるはずが……
沸き上がる疑念を否定しながらも、目の前の人物の顔を改めて確認しようと、再び目を凝らし見た千紗は、次の瞬間息を呑んだ。
「っ?!……どうして……?」
「千紗姫様、長い間お側を離れて申し訳ございません」
「……どうして?……何故お主がここにいるのだ、秋成?」
自分を呼ぶ声に千紗は目を覚ます。
目を開けた先に広がるは真っ暗な闇の世界。
暗闇の中、聞こえ来る声に千紗は怯えを見せながらも、小さな声で返事をした。
「………誰?……私を呼ぶのは……誰?」
「……助け……て……助け……」
「…………」
弱々しくも助けを求めるその声に、千紗は何故か小次郎の顔が思い浮かんだ。
助けを求め、千紗の名を呼んでいるのは小次郎なのではないか。そう思ったら、じっとしている事などできなくて
「………小次郎、小次郎が私を呼んでいるのか?」
「……さ……千……紗…………助け……」
「待っていろ。今助けに行くからな」
暗闇の恐怖から必死に自身を奮い立たせ、真っ暗な闇の中を走り出して行く。
「助けて……助けて……」
今にも泣き出しそうな弱々しい声は、何度となく助けてと千紗を呼んでいる。
だがその声は、反響しているのかあちらこちらから聞こえており、いったいどこから発せられているのかうまく位置が掴めない。
ふと、前にもこんな事があったかと、千紗は不思議な感覚を覚える。
その感覚に戸惑いながらも足を止める事はせず、当て所なく必死に小次郎の姿を探して走り続けた。
どこまでも、どこまでも――
「小次郎?小次郎~!!」
だが、走っても走っても目の前に続くは闇の世界ばかり。
深く、どこまでも深く続く闇に、千紗の焦りや不安も深まって行く。
助けを求めている小次郎を、自分は見つけられないのではないか。
この闇の世界から、抜け出す事は出来ないのではないかと。
「…………小次郎? 何処におるのだ? お主は今、いったい何処におるのだ?」
「……け……て……助けて……」
「今行く、すぐ行くから……お主を助けに必ず行くから、だから今しばらく待っておれ……あっ……」
不安をぬぐい去ろうと、叫ぶ事に夢中になり過ぎたのか、足が縺れて千紗は派手に転んだ。
“ドボン”
転んだと思った次の瞬間、聞こえて来たのは水に落ちる音。気が付くと千紗の体は冷たい水に包まれていた。
「……?!」
転んだ拍子に池にでも落ちたのだろうか?
千紗は早く池から上がろうと、必死にもがく。
だが貴族の姫である千紗は泳ぎ方など知らない。
もがけばもがく程、腕や足は鉛のように重くなって行き身動きが取れなくなって行く。
息継ぎもままならぬままに水の中でもがき続ける千紗だったが、ついには息苦しさに意識が遠退き始めた頃――
「千紗っ!」
先程まで聞こえていた、「助けて」と弱々しく千紗を呼び続けていた声とは違う、力強く逞しい声で名前を呼ばれた気がして、薄れ行く意識の中、千紗はゆっくりと顔を上げた。
すると、今まで真っ暗だったはずの世界に、一筋の淡い光が差し込んでいる事に気付いて、揺れる水面の向こう、ぼんやりと見える水上の景色に目を凝らした。
そこに見えるは一つの人影。
逆光で、顔までははっきりと見えなかったが、その人はこちらに向かって何かを必死に叫んでいるように見える。
『誰?そこにいるのは……誰……?……小次……郎?』
千紗はぼんやりする意識の中、無意識に水上にいるその人物に向かって手を伸ばした。
瞬間、伸ばした手の先からじわりじわりと温かなものが体中に伝わってくる。
その熱をもっと感じたくて、千紗は必死に温もりにしがみついた。
「………さっ!……千紗…………」
「……誰? そこにいるのは……私を呼ぶのは……誰?」
その人は、しがみつく千紗の手をギュッと握り返すと、暗く冷たい水の中から、光指す方へ千紗を導くかのように、強い力で引っぱり上げた。
体中を包んでいた冷たい水の感触が、太陽の光を浴びているかのような、ぽかぽかと温かなものへと変わって行く。
全身を包む心地よい温もりに千紗はゆっくりと目を開けた。
◇◇◇
次に目を開いた時、ぼんやりとする視界に映ったのは、どこか見慣れた天井と、部屋に灯る蝋燭のかすかな灯り。
あぁ、ここは物忌みをしていた部屋で、キヨと話している間に、いつの間にか眠ってしまっていたのかと思い至る。
夢の中感じた温もりを、目覚めた今尚手のひらに感じている事に気付いて千紗は自身の手の先へと視線を向けた。
するとそこには一つの人影があって、夢と同じように自分の手を握ってくれている。
悪夢にうなされるのを見かねてキヨが手を繋いでいてくれたのかと人影に目を凝らせば、その人物は女のキヨとは明らかに違った体格をしていて、千紗は慌てて体を起こした。
そんな千紗の体を、目の前の人物は背中に腕を回し、がっしりと支えてくれる。
筋肉質で逞しい腕。それは明らかに男のもの。
不思議と懐かしささえ覚える温もりに、千紗はもう一人、ある人物の姿を思い絵がいた。
けれど――
彼がここにいるはずはない。いるはずが……
沸き上がる疑念を否定しながらも、目の前の人物の顔を改めて確認しようと、再び目を凝らし見た千紗は、次の瞬間息を呑んだ。
「っ?!……どうして……?」
「千紗姫様、長い間お側を離れて申し訳ございません」
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