254 / 279
第二幕 千紗の章
見舞い
しおりを挟む
「……ど、帝?」
「っ!……母上……」
「帝? 今日はどうされたのですか? 具合でも悪いのですか? 朝からずっとぼ~っとして」
仕事中、様々な報告書に目を通していた朱雀帝だったが、どこか上の空といった様子。
側にいた母、隠子がたまらず声を掛ける。
「す……すみません……母上………」
「何かあったのですか? 先程から何をそんなに難しい表情をしているのです? 何か悩みがあるのなら、母に話しては下さいませんか?」
そして心配そうに我が子の顔を覗き込む。
「……………実は」
朱雀帝は、そんな母に躊躇い気味に今朝方弟から聞いた話を聞かせた。
「そうですか。そうだったのですね」
朱雀帝の話に、それまでの不安気な表情から一転して、隠子は何やら楽しげにクスクスと声を出して笑い始めた。
「な、何故笑っておいでなのですか母上? 朕は真剣に心配して……」
「いいえ、何でもありません。ただ、微笑ましいなと思って」
「微笑ましい? 千紗が邪気に苦しんでいる事がですか?」
「いいえ。千紗殿の事で、仕事も手につかなくなる程心配している帝がですよ。貴方は本当に、千紗姫の事が大好きなのですね」
「………」
隠子の言葉に一瞬、胸にチクリとした痛みを感じて朱雀帝は俯く。
だが、それが隠子には照れ隠しに見えたのか、更に笑みを強めて言った。
「貴女達を見ていると、保明の事を思い出しますね。あの子も、妻となった姫君の事が本当に大好きで、姫に関する些細な事で一喜一憂して、四六時中姫君の事で頭が一杯な様子でした。まさに今の貴女のように」
「……保明兄上が?」
「えぇ。思い返せば、あの子はよく妻となった姫君と喧嘩をしていましたね。でも、喧嘩した後には必ず姫君の機嫌を取ろうと贈り物をしたりして、その贈り物には何が良いかと、よく相談されたものです」
保明の事を懐かしんでいるのか、どこか遠くを見つめながら、楽しげに隠子は話した。
「あぁ、そうだ帝。そんなに心配なのでしたら、貴女も千紗姫に、何か見舞いの品を贈ってみてはいかがですか?」
「……見舞いの品?」
「はい。気の紛れるものを差し入れてあげたら、きっと千紗姫のお心も穏やかになります。心が穏やかになれば、邪気も祓われるのではないしょうか」
「………」
「午前の職務は少し休憩といたしましょう。その代わり仕事を怠けた分、午後からはしっかり働いてもらいますからね。 さぁ、心配で心配で仕方のない千紗姫の所へ見舞いに行って差し上げなさい」
「…………母上……」
隠子に背中を押されて朱雀帝は、半ば追い出されるように仕事部屋を後にする。
そんな息子の背を見送りながら、隠子はニコニコと、それはそれは嬉しそうに手を振っていた。
「っ!……母上……」
「帝? 今日はどうされたのですか? 具合でも悪いのですか? 朝からずっとぼ~っとして」
仕事中、様々な報告書に目を通していた朱雀帝だったが、どこか上の空といった様子。
側にいた母、隠子がたまらず声を掛ける。
「す……すみません……母上………」
「何かあったのですか? 先程から何をそんなに難しい表情をしているのです? 何か悩みがあるのなら、母に話しては下さいませんか?」
そして心配そうに我が子の顔を覗き込む。
「……………実は」
朱雀帝は、そんな母に躊躇い気味に今朝方弟から聞いた話を聞かせた。
「そうですか。そうだったのですね」
朱雀帝の話に、それまでの不安気な表情から一転して、隠子は何やら楽しげにクスクスと声を出して笑い始めた。
「な、何故笑っておいでなのですか母上? 朕は真剣に心配して……」
「いいえ、何でもありません。ただ、微笑ましいなと思って」
「微笑ましい? 千紗が邪気に苦しんでいる事がですか?」
「いいえ。千紗殿の事で、仕事も手につかなくなる程心配している帝がですよ。貴方は本当に、千紗姫の事が大好きなのですね」
「………」
隠子の言葉に一瞬、胸にチクリとした痛みを感じて朱雀帝は俯く。
だが、それが隠子には照れ隠しに見えたのか、更に笑みを強めて言った。
「貴女達を見ていると、保明の事を思い出しますね。あの子も、妻となった姫君の事が本当に大好きで、姫に関する些細な事で一喜一憂して、四六時中姫君の事で頭が一杯な様子でした。まさに今の貴女のように」
「……保明兄上が?」
「えぇ。思い返せば、あの子はよく妻となった姫君と喧嘩をしていましたね。でも、喧嘩した後には必ず姫君の機嫌を取ろうと贈り物をしたりして、その贈り物には何が良いかと、よく相談されたものです」
保明の事を懐かしんでいるのか、どこか遠くを見つめながら、楽しげに隠子は話した。
「あぁ、そうだ帝。そんなに心配なのでしたら、貴女も千紗姫に、何か見舞いの品を贈ってみてはいかがですか?」
「……見舞いの品?」
「はい。気の紛れるものを差し入れてあげたら、きっと千紗姫のお心も穏やかになります。心が穏やかになれば、邪気も祓われるのではないしょうか」
「………」
「午前の職務は少し休憩といたしましょう。その代わり仕事を怠けた分、午後からはしっかり働いてもらいますからね。 さぁ、心配で心配で仕方のない千紗姫の所へ見舞いに行って差し上げなさい」
「…………母上……」
隠子に背中を押されて朱雀帝は、半ば追い出されるように仕事部屋を後にする。
そんな息子の背を見送りながら、隠子はニコニコと、それはそれは嬉しそうに手を振っていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
浅井長政は織田信長に忠誠を誓う
ピコサイクス
歴史・時代
1570年5月24日、織田信長は朝倉義景を攻めるため越後に侵攻した。その時浅井長政は婚姻関係の織田家か古くから関係ある朝倉家どちらの味方をするか迷っていた。
連合航空艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年のロンドン海軍軍縮条約を機に海軍内では新時代の軍備についての議論が活発に行われるようになった。その中で生れたのが”航空艦隊主義”だった。この考えは当初、一部の中堅将校や青年将校が唱えていたものだが途中からいわゆる海軍左派である山本五十六や米内光政がこの考えを支持し始めて実現のためにの政治力を駆使し始めた。この航空艦隊主義と言うものは”重巡以上の大型艦を全て空母に改装する”というかなり極端なものだった。それでも1936年の条約失効を持って日本海軍は航空艦隊主義に傾注していくことになる。
デモ版と言っては何ですが、こんなものも書く予定があるんだなぁ程度に思ってい頂けると幸いです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
日本には1942年当時世界最強の機動部隊があった!
明日ハレル
歴史・時代
第2次世界大戦に突入した日本帝国に生き残る道はあったのか?模索して行きたいと思います。
当時6隻の空母を集中使用した南雲機動部隊は航空機300余機を持つ世界最強の戦力でした。
ただ彼らにもレーダーを持たない、空母の直掩機との無線連絡が出来ない、ダメージコントロールが未熟である。制空権の確保という理論が判っていない、空母戦術への理解が無い等多くの問題があります。
空母が誕生して戦術的な物を求めても無理があるでしょう。ただどの様に強力な攻撃部隊を持っていても敵地上空での制空権が確保できなけれな、簡単に言えば攻撃隊を守れなけれな無駄だと言う事です。
空母部隊が対峙した場合敵側の直掩機を強力な戦闘機部隊を攻撃の前の送って一掃する手もあります。
日本のゼロ戦は優秀ですが、悪迄軽戦闘機であり大馬力のPー47やF4U等が出てくれば苦戦は免れません。
この為旧式ですが96式陸攻で使われた金星エンジンをチューンナップし、金星3型エンジン1350馬力に再生させこれを積んだ戦闘機、爆撃機、攻撃機、偵察機を陸海軍共通で戦う。
共通と言う所が大事で国力の小さい日本には試作機も絞って開発すべきで、陸海軍別々に開発する余裕は無いのです。
その他数多くの改良点はありますが、本文で少しづつ紹介して行きましょう。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる