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第二幕 千紗の章
京に届けられた敗戦の知らせ
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「兄貴っ!もうやめろよ!兄貴が自分を責める事。それも伯父貴達の卑劣な策の1つだ。そうやって兄貴から冷静さを奪おうとしてるんだ。冷静さを欠いたら、人は判断を誤る。判断を誤ったら、救える命も救えなくなる。違う?
過去を後悔するより先に、今出来る事があるんじゃないの?」
「っ…………」
らしくない小次郎の姿に、四郎は思わず声を荒げた。
四郎の言葉で少し興奮が治まった小次郎は、兵士達に命令を下す。
敵軍に脅かされているだろう村々の元、救援へ向かえと。
だが……命令も虚しく、小次郎軍が駆け付けた時にはもう既に敵の姿はどこにもなく、いくつもの集落が跡形もなく焼きつくされた後だった。
結局この戦では、関係のない多くの人の命が奪われた。
そして小次郎もまた、多くの物を失った。
小次郎を信じ、味方した者達の小次郎への信頼や、多くの後ろ楯を。
こうして、後に『子飼い渡の合戦』と呼ばれるこの戦は、小次郎にとって生涯決して忘れる事のできない、一方的な負け戦として彼の心に深く深く刻み込まれたのである。
◆◆◆
所変わって、京・内裏にて――
小次郎敗戦の話は、すぐに政治の中心である京にも伝わった。
そして、小次郎の身を案じる千紗の耳にも、侍女達の噂話として届けられる事となった。
「なっ……今……なんと申した? 小次郎が……良兼との戦に負けた? そんな……そんな……小次郎は? 小次郎は無事なのか?! 教えてくれキヨっ、小次郎は無事なのか?!」
内裏に広まりし噂を、急ぎ千紗の元へと知らせにきたキヨの肩を鷲掴み、乱暴に前後へと揺さぶりながら、千紗は
小次郎の安否を問い質す。
「分かりません。ただ、此度の戦で被害にあったのは小次郎様が住まう豊田の地ではなく、周辺の村々だったと噂では聞きました。なんでも、豊田に味方した者達を見せしめとばかりに焼きつくしたとか」
「……なんと……酷い事を……」
「姫様、そんな悲し気な顔なさらないで下さい。きっと、きっと小次郎様はご無事でいらっしゃいます。そうだ。帝なら、帝ならばもっと詳しい事をご存知なのではないですか?」
「駄目だ。小次郎の事、坂東の事、幾度もチビ助に聞いてみたが、あやつは何も教えてはくれなかった」
側にいながら他の男に心奪われたままの千紗に、朱雀帝は決して坂東の様子を語る事はしない。
小次郎の自由と引き替えに、籠の鳥になる事を決めた千紗。彼女にはもう、遠く離れた京の地で、小次郎の無事をただ祈る事しか出来はしない。
それがもどかしくて仕方がない。
千紗はただただ東の空を見上げながら、ポツリと呟いた。
「……………小次郎……どうか……どうか無事でいてくれ……」
悲しげに、そして苦し気に小次郎の無事を祈る千紗の横顔を、彼女の侍女であるキヨとヒナもまた、苦し気に見つめていた。
過去を後悔するより先に、今出来る事があるんじゃないの?」
「っ…………」
らしくない小次郎の姿に、四郎は思わず声を荒げた。
四郎の言葉で少し興奮が治まった小次郎は、兵士達に命令を下す。
敵軍に脅かされているだろう村々の元、救援へ向かえと。
だが……命令も虚しく、小次郎軍が駆け付けた時にはもう既に敵の姿はどこにもなく、いくつもの集落が跡形もなく焼きつくされた後だった。
結局この戦では、関係のない多くの人の命が奪われた。
そして小次郎もまた、多くの物を失った。
小次郎を信じ、味方した者達の小次郎への信頼や、多くの後ろ楯を。
こうして、後に『子飼い渡の合戦』と呼ばれるこの戦は、小次郎にとって生涯決して忘れる事のできない、一方的な負け戦として彼の心に深く深く刻み込まれたのである。
◆◆◆
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小次郎敗戦の話は、すぐに政治の中心である京にも伝わった。
そして、小次郎の身を案じる千紗の耳にも、侍女達の噂話として届けられる事となった。
「なっ……今……なんと申した? 小次郎が……良兼との戦に負けた? そんな……そんな……小次郎は? 小次郎は無事なのか?! 教えてくれキヨっ、小次郎は無事なのか?!」
内裏に広まりし噂を、急ぎ千紗の元へと知らせにきたキヨの肩を鷲掴み、乱暴に前後へと揺さぶりながら、千紗は
小次郎の安否を問い質す。
「分かりません。ただ、此度の戦で被害にあったのは小次郎様が住まう豊田の地ではなく、周辺の村々だったと噂では聞きました。なんでも、豊田に味方した者達を見せしめとばかりに焼きつくしたとか」
「……なんと……酷い事を……」
「姫様、そんな悲し気な顔なさらないで下さい。きっと、きっと小次郎様はご無事でいらっしゃいます。そうだ。帝なら、帝ならばもっと詳しい事をご存知なのではないですか?」
「駄目だ。小次郎の事、坂東の事、幾度もチビ助に聞いてみたが、あやつは何も教えてはくれなかった」
側にいながら他の男に心奪われたままの千紗に、朱雀帝は決して坂東の様子を語る事はしない。
小次郎の自由と引き替えに、籠の鳥になる事を決めた千紗。彼女にはもう、遠く離れた京の地で、小次郎の無事をただ祈る事しか出来はしない。
それがもどかしくて仕方がない。
千紗はただただ東の空を見上げながら、ポツリと呟いた。
「……………小次郎……どうか……どうか無事でいてくれ……」
悲しげに、そして苦し気に小次郎の無事を祈る千紗の横顔を、彼女の侍女であるキヨとヒナもまた、苦し気に見つめていた。
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