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第二幕 千紗の章
焼き討ち
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「なっ……なんだ?! 西の空が……赤く……」
周辺と比べて小高い丘のようになっている見晴らしの良い場所から敵の追撃を警戒して、周囲の様子を見張っていた小次郎軍。
真っ暗だった夜の景色に、突如ぼんやりとした赤い光が遠くに浮かんで見えた。
それに気付いた忠輔が声を上げた。
忠輔の声に、皆一斉に西の方角を見れば、赤い光はゆっくりゆっくりと横に広がっていき――
「…………あれは……火かっ?! 炎が上がっているのか??!」
小次郎が強張った表情で呟く。
と、四郎が慌てた様子である一つの不安を口にした。
「兄貴、あの方角って……村岡……。忠輔殿の領地がある方じゃないか?!」
「っ!」
四郎の言葉に忠輔は顔を真っ青に染めて絶句した。
「いや……でも待て。落ち着いて考えてみれば、ここから村岡の地が見える筈がない……か」
自身が口にした疑念を、四郎は冷静になって訂正してみるも、たとえ忠輔の領地ではなかったにしろ、結局どこかで何かが燃えているわけで、しかもそれは遠く離れた場所から肉眼でも分かる程に、広大な範囲が燃えているのだ。
いったい今、何が起こっているのか?
遠くから見つめる事しかできない四郎や小次郎達には知る術もなくて、言い知れぬ不安が彼等を襲った。
そんな彼等の不安を煽るかのように、西の地が赤く染まったのを皮切りに、北や南、あちらこちらから大小様々な炎が物凄い勢いで闇夜を不気味に染め上げて行く。
見渡す限り真っ赤に染まる光景は、まるで燃え盛る炎の海を見ているかのようで、離れた場所にいる小次郎達の元にまで、その熱風が漂ってくる程だった。
そこまでの惨劇を見せつけられ、小次郎達はやっと全てを理解する。
叔父が追撃を仕掛けてこないわけを。
このあちらこちらで燃え盛る炎のわけを。
「…………やられた……。やっぱりこれは、叔父貴達の罠だったんだ。叔父貴の狙いは豊田じゃない。豊田に味方した周辺の村々の領地。叔父貴達の罠を警戒するあまり、俺達はこの場所を動かなかった。その時点で俺達はまんまと、伯父きの罠にハマってたんだ」
悔しげに呟く四郎。
その隣で、小次郎は珍しく怒りに震えていた。
「…………何故だ。何故関係のない者達を巻き込んだ。叔父達が欲っしていたのはこの豊田の領地であろう。それなのに……どうして関係ない村々まで襲撃するんだ!! しかも、焼き討ちなんて酷い手段をつかって。これでは彼等が汗水垂らして耕した田畑まで焼かれてしまう。一度焼かれた田畑を再び元の姿に戻すには、どれ程の苦労と年月が伴うか……我等板東人にとって田畑がどれ程大事なものか、同じ板東人ならばわからないはずがあるまい。それなのに……どうしてこんな酷い事ができるのだ? 何の権利があって……こんな事……」
小次郎は目を血走らせて、キツく唇を噛み締める。
噛む力が強すぎるのか、口許には血が滲んでいた。
今だかつて見たことがない小次郎の鬼のような形相。
四郎はそんな兄の姿に、躊躇いがちに答えた。
「兄貴を……心理的に追い詰めたかったんじゃないかな、きっと。兄貴はそうやって、自分の事以上に他人の事で心を痛める事が出来る人だから……。だから正攻法じゃ兄貴に勝てないって、そう思った叔父貴女達は、兄貴を心理面で追い詰めようと……こんな策を立てたんじゃないかな?」
「…………そうまでして勝ちを望むのか? それ程までに俺は……叔父上達に憎まれているのか?」
「…………兄貴……」
「畜生……。俺があの時、子飼の地で矢を射てていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。いや、そもそも、先の戦で情けをかけずにいたならば、関係のない人間を巻き込む事も、流れなくて良い血が流れる事も、なかったかもしれない。もしあの時、俺が叔父達を殺せていればっ!!」
小次郎は握り締める拳で自身の太ももを何度も殴り付けながら、悔しそうに過去の自分を責めた。
責め続けた。
周辺と比べて小高い丘のようになっている見晴らしの良い場所から敵の追撃を警戒して、周囲の様子を見張っていた小次郎軍。
真っ暗だった夜の景色に、突如ぼんやりとした赤い光が遠くに浮かんで見えた。
それに気付いた忠輔が声を上げた。
忠輔の声に、皆一斉に西の方角を見れば、赤い光はゆっくりゆっくりと横に広がっていき――
「…………あれは……火かっ?! 炎が上がっているのか??!」
小次郎が強張った表情で呟く。
と、四郎が慌てた様子である一つの不安を口にした。
「兄貴、あの方角って……村岡……。忠輔殿の領地がある方じゃないか?!」
「っ!」
四郎の言葉に忠輔は顔を真っ青に染めて絶句した。
「いや……でも待て。落ち着いて考えてみれば、ここから村岡の地が見える筈がない……か」
自身が口にした疑念を、四郎は冷静になって訂正してみるも、たとえ忠輔の領地ではなかったにしろ、結局どこかで何かが燃えているわけで、しかもそれは遠く離れた場所から肉眼でも分かる程に、広大な範囲が燃えているのだ。
いったい今、何が起こっているのか?
遠くから見つめる事しかできない四郎や小次郎達には知る術もなくて、言い知れぬ不安が彼等を襲った。
そんな彼等の不安を煽るかのように、西の地が赤く染まったのを皮切りに、北や南、あちらこちらから大小様々な炎が物凄い勢いで闇夜を不気味に染め上げて行く。
見渡す限り真っ赤に染まる光景は、まるで燃え盛る炎の海を見ているかのようで、離れた場所にいる小次郎達の元にまで、その熱風が漂ってくる程だった。
そこまでの惨劇を見せつけられ、小次郎達はやっと全てを理解する。
叔父が追撃を仕掛けてこないわけを。
このあちらこちらで燃え盛る炎のわけを。
「…………やられた……。やっぱりこれは、叔父貴達の罠だったんだ。叔父貴の狙いは豊田じゃない。豊田に味方した周辺の村々の領地。叔父貴達の罠を警戒するあまり、俺達はこの場所を動かなかった。その時点で俺達はまんまと、伯父きの罠にハマってたんだ」
悔しげに呟く四郎。
その隣で、小次郎は珍しく怒りに震えていた。
「…………何故だ。何故関係のない者達を巻き込んだ。叔父達が欲っしていたのはこの豊田の領地であろう。それなのに……どうして関係ない村々まで襲撃するんだ!! しかも、焼き討ちなんて酷い手段をつかって。これでは彼等が汗水垂らして耕した田畑まで焼かれてしまう。一度焼かれた田畑を再び元の姿に戻すには、どれ程の苦労と年月が伴うか……我等板東人にとって田畑がどれ程大事なものか、同じ板東人ならばわからないはずがあるまい。それなのに……どうしてこんな酷い事ができるのだ? 何の権利があって……こんな事……」
小次郎は目を血走らせて、キツく唇を噛み締める。
噛む力が強すぎるのか、口許には血が滲んでいた。
今だかつて見たことがない小次郎の鬼のような形相。
四郎はそんな兄の姿に、躊躇いがちに答えた。
「兄貴を……心理的に追い詰めたかったんじゃないかな、きっと。兄貴はそうやって、自分の事以上に他人の事で心を痛める事が出来る人だから……。だから正攻法じゃ兄貴に勝てないって、そう思った叔父貴女達は、兄貴を心理面で追い詰めようと……こんな策を立てたんじゃないかな?」
「…………そうまでして勝ちを望むのか? それ程までに俺は……叔父上達に憎まれているのか?」
「…………兄貴……」
「畜生……。俺があの時、子飼の地で矢を射てていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。いや、そもそも、先の戦で情けをかけずにいたならば、関係のない人間を巻き込む事も、流れなくて良い血が流れる事も、なかったかもしれない。もしあの時、俺が叔父達を殺せていればっ!!」
小次郎は握り締める拳で自身の太ももを何度も殴り付けながら、悔しそうに過去の自分を責めた。
責め続けた。
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