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第二幕 千紗の章
明らかになる非道な行い
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「お春!無事か?!」
「父ちゃんっ!!」
玄明の背後より襲いかかった人物は、どうやら娘の声を聞き付けやってきた父親らしい中年の男で、血のべったり付いた刃こぼれだらけの刀を玄明に向け構えながら、少女を自身の背に隠した。
刀を持つ手は酷く震えており、持ち方もぎこちない。
どうやら刀の扱いには慣れていない様子。
「そいつ、あんたの娘か?」
「……あぁそうだ。この子はおらの大事な娘だ。これ以上傷付けさせはせんぞ! この子だけは……この子だけは何があっても守り抜く!お春までもを失ってたまるかぁ!!」
玄明の投げ掛けた、たったそれだけの問いに、少女の父親は、興奮気味に刀を振り上げ、玄明に向かって襲いくる。
何をそんなに殺気だっているのか、一方的に斬りかかられる理由がわからない玄明は、男の振り回す剣先を器用にかわしながら、男を落ち着かせようと語りかける。
「まぁ待てって。とりあえず落ち着け。俺様は、あんたら親子に何かしようなんて思ってはいない。ただ、その子の顔や腕にある痣が気になっただけなんだ」
「嘘をつけ! この痣は、お前達がした事だろう! 今更、何をとぼけた事を言っている。この子の母親とまだ幼かった弟まで殺しておいて!!」
「なっ!? はぁ?? 待て待て!! それは完全に人違い。俺様には本当に何の事だか分からないぞ。とにかく刀をおさめて、少し話を聞かせてくれねぇか?」
必死な様子で無実を訴える玄明に、少女の父親は、訝しがりながらも、振り上げていた刀を下ろし、ある疑問を聞き返した。
「……お前は、良兼の兵士じゃないのか?」
思いがけない名前の登場に、玄明はすっとんきょうな声を上げる。
「良兼?! ……って事は何か。この子の体中にできた痣は、良兼軍の兵士達がやったって事なのか?」
「…………そうだ。突然村に押し入って来たかと思えば、おら達の村は将門様に味方したからと、突然暴れ出し、家々をを破壊して回った。家だけじゃねぇ、か弱い女や子供にまで手を上げて、見せしめとばかりに殺された者が大勢いる」
「……母ちゃんと、吉治も殺されて………」
母や弟の命が奪われた瞬間の記憶が甦ったのだろう。
まだ幼い娘の瞳からは、ボロボロと瀧のような涙が溢れだす。
父親は、泣きじゃくる娘を抱き締めてやりながら手に持つ刀を睨み付け、憎々しげに言葉を続けた。
「このままでは、お春までもを殺されてしまう。何としてもこの子だけは守らなければと、奴等の目を盗んで、必死に村から逃げて来たんだ」
「……そうか…………そう言う事か……」
親子が語ったその話に、玄明はそう呟きながら、顔を真っ青にして頭を抱えた。
良兼軍は、小次郎軍が追撃に備えて豊田に撤退し、陣を整えている間に、豊田以外の……小次郎に与した村々や豪族の領地を見せしめとばかりに襲わせていたのだ。
もしこの事を小次郎が知ったら、どう思うだろうか?
他を思い、他を生かす為に戦う小次郎だ。自分のせいで、罪もなき大勢の者達が苦しめられ、殺されたとなったら、小次郎はきっと自身を酷く責めるだろう。
その事実に、どれ程心を傷付けられるだろう。
小次郎の苦しむ姿を想像して、ギリギリと拳が握られる。
「………………あんの……狸親父がっ!!卑怯にも程があるだろう!! これが曲なりにも上総介の肩書きを持つ男のする事なのか!?」
玄明は拳を握るだけでは抑えきれなくなった怒りを、力一杯地面に叩きつけた。
そしてこの時玄明が目の当たりにしたこの敵の非道な策は、そう時を空かずして、小次郎達にも目に見える形となって明かされる事となる。
「父ちゃんっ!!」
玄明の背後より襲いかかった人物は、どうやら娘の声を聞き付けやってきた父親らしい中年の男で、血のべったり付いた刃こぼれだらけの刀を玄明に向け構えながら、少女を自身の背に隠した。
刀を持つ手は酷く震えており、持ち方もぎこちない。
どうやら刀の扱いには慣れていない様子。
「そいつ、あんたの娘か?」
「……あぁそうだ。この子はおらの大事な娘だ。これ以上傷付けさせはせんぞ! この子だけは……この子だけは何があっても守り抜く!お春までもを失ってたまるかぁ!!」
玄明の投げ掛けた、たったそれだけの問いに、少女の父親は、興奮気味に刀を振り上げ、玄明に向かって襲いくる。
何をそんなに殺気だっているのか、一方的に斬りかかられる理由がわからない玄明は、男の振り回す剣先を器用にかわしながら、男を落ち着かせようと語りかける。
「まぁ待てって。とりあえず落ち着け。俺様は、あんたら親子に何かしようなんて思ってはいない。ただ、その子の顔や腕にある痣が気になっただけなんだ」
「嘘をつけ! この痣は、お前達がした事だろう! 今更、何をとぼけた事を言っている。この子の母親とまだ幼かった弟まで殺しておいて!!」
「なっ!? はぁ?? 待て待て!! それは完全に人違い。俺様には本当に何の事だか分からないぞ。とにかく刀をおさめて、少し話を聞かせてくれねぇか?」
必死な様子で無実を訴える玄明に、少女の父親は、訝しがりながらも、振り上げていた刀を下ろし、ある疑問を聞き返した。
「……お前は、良兼の兵士じゃないのか?」
思いがけない名前の登場に、玄明はすっとんきょうな声を上げる。
「良兼?! ……って事は何か。この子の体中にできた痣は、良兼軍の兵士達がやったって事なのか?」
「…………そうだ。突然村に押し入って来たかと思えば、おら達の村は将門様に味方したからと、突然暴れ出し、家々をを破壊して回った。家だけじゃねぇ、か弱い女や子供にまで手を上げて、見せしめとばかりに殺された者が大勢いる」
「……母ちゃんと、吉治も殺されて………」
母や弟の命が奪われた瞬間の記憶が甦ったのだろう。
まだ幼い娘の瞳からは、ボロボロと瀧のような涙が溢れだす。
父親は、泣きじゃくる娘を抱き締めてやりながら手に持つ刀を睨み付け、憎々しげに言葉を続けた。
「このままでは、お春までもを殺されてしまう。何としてもこの子だけは守らなければと、奴等の目を盗んで、必死に村から逃げて来たんだ」
「……そうか…………そう言う事か……」
親子が語ったその話に、玄明はそう呟きながら、顔を真っ青にして頭を抱えた。
良兼軍は、小次郎軍が追撃に備えて豊田に撤退し、陣を整えている間に、豊田以外の……小次郎に与した村々や豪族の領地を見せしめとばかりに襲わせていたのだ。
もしこの事を小次郎が知ったら、どう思うだろうか?
他を思い、他を生かす為に戦う小次郎だ。自分のせいで、罪もなき大勢の者達が苦しめられ、殺されたとなったら、小次郎はきっと自身を酷く責めるだろう。
その事実に、どれ程心を傷付けられるだろう。
小次郎の苦しむ姿を想像して、ギリギリと拳が握られる。
「………………あんの……狸親父がっ!!卑怯にも程があるだろう!! これが曲なりにも上総介の肩書きを持つ男のする事なのか!?」
玄明は拳を握るだけでは抑えきれなくなった怒りを、力一杯地面に叩きつけた。
そしてこの時玄明が目の当たりにしたこの敵の非道な策は、そう時を空かずして、小次郎達にも目に見える形となって明かされる事となる。
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