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第二幕 千紗の章
叔父達の更なる悪巧み
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「はぁ~っはっは! みたか小次郎!! 我等を怒らせるとどんな目にあうか、もっともっと見せ付けてやるわ! 者共、小次郎軍を追え、追えーい! 決して奴等を逃がすなよ!!」
小次郎軍を敗走へと追いやった良兼陣営では、戦況に満足する良正が、高笑いを浮かべながら、小次郎軍の更なる追撃を命じていた。
だが、良正の下したその命令を、兄であり大将である良兼が横から割って入り、待ったをかけた。
「待て、小次郎を追う必要はない」
「な、何言ってるんだ兄者! 我等の策に恐れをなして奴は逃げたんだ!これは、奴を叩く好機だろう?」
思いもよらぬ兄の命に、不満顔の良正は烈火の如き剣幕で異を唱える。
「まぁ待て良正、そう熱くなるな。わしの話を最後まで聞け。ただ叩くだけでお前は満足できるのか? わし等が奴に味わされた苦汁をお前は忘れたのか?」
「忘れるわけがないだろうっ!だからこそ――」
「ならば、わし等が味わった以上の苦汁を奴にも味わせてやりたいとは思わぬか?」
「……? どう言う事だ、兄者?」
良兼には何かしらの深い考えがあるらしい事を察するも、どんな考えかまでには思考が追い付かない良正は、首を傾げて兄に問う。
当の良兼はと言えば、酷く不気味に微笑んでいて、良正をはじめ側で見ていた良兼軍の兵士達は、彼のあまりの不気味さに思わずごくりと音を立て唾を飲み込んだ。
「ただ負かすだけではつまらん。回りからじわじわと攻め、散々に奴を苦しめ、精神的に追い込んでやらねばな。ふふふ」
「あ……兄者が物凄く悪い顔をしている」
「ここから先は行き先を変更する。そして、いくつかに兵を分断するぞ。各々、わしが支持した先へ向かえ!良いな!!」
「「「は、ははぁっ!!」」」
◆◆◆
良兼が企てる不気味な計画など知るよしもない小次郎軍は、敵の追撃に対抗すべく体制を整え、引き返した先、豊田の地で良兼達の軍を今か今かと待ちわびる。
だが、およそ一刻もの時が流れようとも、一向に敵が現れる気配はなく、すっかり日も沈んだ辺りには、不気味な程の静寂と、夜陰が広がっていた。
「……いったいこれはどう言う事だ? 何故敵は攻めてこない?」
訳が分からないと、イライラした様子の玄明は、先程から落ちつきなく右往左往している。
「……分からない。こちらの油断を待っているのか、それとも本当に、これ以上攻める気がないのか?」
「こりゃ去年の戦とは完全に逆だな。あの時は本気で兄貴は伯父貴達を逃がすてもりで包囲を解いたが……あの欲にまみれた良兼、良正の伯父貴達だ。手に入るかもしれない領地を目前にして退却なんてするとは思えない。これは絶対に何かの罠に決まってる」
「おぉ、自信満々だな、弟。だが今回ばかりは俺様もお前と同じ意見だ」
「ふん、当たり前だろ。伯父貴達は、うちの兄貴みたいに人に情けをかけるような心優しい人間じゃない。そもそも、人となりの感情を持っていたら、実の甥の領地を狙うなんて非情な事、出来る筈がないんだから」
「ははは、前も存外酷い人間だな。それじゃまるで、人間じゃないみたいな言い方だぞ。実の伯父に対しても遠慮がない、全くもって失礼な奴だ」
四郎と玄明が、珍しく楽し気に会話を交わす。
その後で、玄明はある提案を皆の前、申し出た。
「よし、分かった。じゃあ、ここは俺様がひとっ走りして敵軍の様子を見てきてやろう。この不気味な程の静寂は、敵さんの罠なのか、それとも善意なのか、この目で確認してきてやる!」
「玄明、良いのか?」
「あぁ。このままただじっと待ってるたげじゃ拉致があかないからな。でも良いか、俺様が戻って来るまで決して油断して陣を解いたりするんじゃないぞ!」
「あぁ、分かっている。頼んだぞ、玄明」
「おう、任せとけって!」
小次郎の言葉に、玄明は握りこぶしから親指だけをグッと突き立てて見せながら、その手を前へと突き出して見せた。
かと思うと、次の瞬間には風のように早く小次郎達の前から走り去って行く。
闇夜に紛れ消え行く玄明の背を、小次郎は心強く思いながらも、どこか不安な面持ちで見送った。
_________________________________
●一刻
およそ2時間
小次郎軍を敗走へと追いやった良兼陣営では、戦況に満足する良正が、高笑いを浮かべながら、小次郎軍の更なる追撃を命じていた。
だが、良正の下したその命令を、兄であり大将である良兼が横から割って入り、待ったをかけた。
「待て、小次郎を追う必要はない」
「な、何言ってるんだ兄者! 我等の策に恐れをなして奴は逃げたんだ!これは、奴を叩く好機だろう?」
思いもよらぬ兄の命に、不満顔の良正は烈火の如き剣幕で異を唱える。
「まぁ待て良正、そう熱くなるな。わしの話を最後まで聞け。ただ叩くだけでお前は満足できるのか? わし等が奴に味わされた苦汁をお前は忘れたのか?」
「忘れるわけがないだろうっ!だからこそ――」
「ならば、わし等が味わった以上の苦汁を奴にも味わせてやりたいとは思わぬか?」
「……? どう言う事だ、兄者?」
良兼には何かしらの深い考えがあるらしい事を察するも、どんな考えかまでには思考が追い付かない良正は、首を傾げて兄に問う。
当の良兼はと言えば、酷く不気味に微笑んでいて、良正をはじめ側で見ていた良兼軍の兵士達は、彼のあまりの不気味さに思わずごくりと音を立て唾を飲み込んだ。
「ただ負かすだけではつまらん。回りからじわじわと攻め、散々に奴を苦しめ、精神的に追い込んでやらねばな。ふふふ」
「あ……兄者が物凄く悪い顔をしている」
「ここから先は行き先を変更する。そして、いくつかに兵を分断するぞ。各々、わしが支持した先へ向かえ!良いな!!」
「「「は、ははぁっ!!」」」
◆◆◆
良兼が企てる不気味な計画など知るよしもない小次郎軍は、敵の追撃に対抗すべく体制を整え、引き返した先、豊田の地で良兼達の軍を今か今かと待ちわびる。
だが、およそ一刻もの時が流れようとも、一向に敵が現れる気配はなく、すっかり日も沈んだ辺りには、不気味な程の静寂と、夜陰が広がっていた。
「……いったいこれはどう言う事だ? 何故敵は攻めてこない?」
訳が分からないと、イライラした様子の玄明は、先程から落ちつきなく右往左往している。
「……分からない。こちらの油断を待っているのか、それとも本当に、これ以上攻める気がないのか?」
「こりゃ去年の戦とは完全に逆だな。あの時は本気で兄貴は伯父貴達を逃がすてもりで包囲を解いたが……あの欲にまみれた良兼、良正の伯父貴達だ。手に入るかもしれない領地を目前にして退却なんてするとは思えない。これは絶対に何かの罠に決まってる」
「おぉ、自信満々だな、弟。だが今回ばかりは俺様もお前と同じ意見だ」
「ふん、当たり前だろ。伯父貴達は、うちの兄貴みたいに人に情けをかけるような心優しい人間じゃない。そもそも、人となりの感情を持っていたら、実の甥の領地を狙うなんて非情な事、出来る筈がないんだから」
「ははは、前も存外酷い人間だな。それじゃまるで、人間じゃないみたいな言い方だぞ。実の伯父に対しても遠慮がない、全くもって失礼な奴だ」
四郎と玄明が、珍しく楽し気に会話を交わす。
その後で、玄明はある提案を皆の前、申し出た。
「よし、分かった。じゃあ、ここは俺様がひとっ走りして敵軍の様子を見てきてやろう。この不気味な程の静寂は、敵さんの罠なのか、それとも善意なのか、この目で確認してきてやる!」
「玄明、良いのか?」
「あぁ。このままただじっと待ってるたげじゃ拉致があかないからな。でも良いか、俺様が戻って来るまで決して油断して陣を解いたりするんじゃないぞ!」
「あぁ、分かっている。頼んだぞ、玄明」
「おう、任せとけって!」
小次郎の言葉に、玄明は握りこぶしから親指だけをグッと突き立てて見せながら、その手を前へと突き出して見せた。
かと思うと、次の瞬間には風のように早く小次郎達の前から走り去って行く。
闇夜に紛れ消え行く玄明の背を、小次郎は心強く思いながらも、どこか不安な面持ちで見送った。
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