時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第二幕 千紗の章

子飼の渡しの合戦③

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「か、構うことたぁねぇ! 将門、討て!! 戦に神輿を持ち出すなど、奴等がしている事の方が余程神や先祖への冒涜だ! 神仏祟りがあるとしたら、それは絶対にあいつらの方に決まってる!」


誰もが絶望する中、ただ一人、玄明だけは戸惑いながらも、必死に虚勢をはっていた。

何度も何度も、小次郎に向かって敵に矢をいかけるよう訴え続ける。

だが、玄明の訴えも虚しく、やはり小次郎は、どうしても躊躇いを隠しきれなかった。

弓を構える手が震えるのだ。
その間にも敵軍は川を渡り、小次郎軍に迫り来る。


「もたもたすんな! 射て! 射つんだ将門っ!!」

「……………」



射てと叫ぶ玄明。


「ふはははは。どうだみたか! 手も足も出ないだろう小次郎!この平氏一門の正式な棟梁であり、上総介でもあるわしを怒らせた事、後悔させてくれるわ!!」


決して射てぬと高を括り、高笑いを浮かべ、進軍を続ける良兼。

この窮地を一変させるには、自らが模範となって敵を攻めなければならない。
弓を構えながら、そう何度も自分自身に言い聞かせる小次郎。

だがやはり神に向かって、ましてや自身を可愛がってくれた祖父に向かって矢を射る覚悟などできなくて……

いったいこの状況、どうすべきなのだろ?
どうしたら良いのだろうか?
追い詰められながら自問自答を繰り返す小次郎。

その隙に、距離を縮めた良兼軍は、小次郎軍目掛けて大量の矢をいかけた。

何も手を出せぬまま、良兼軍から一方的に放たれた矢は、小次郎軍のあちらこちらから苦しげな叫び声を上げさせた。



「っ!やめろっ!やめろっ………やめてくれ~~~~っ!!」



味方の悲鳴に小次郎の弓を引く手に思わず力が籠もめられる。

怒りに任せて力一杯引かれた弓は、限界を訴えるギリギリと音を鳴らす。

今手を離せば、確実に敵に一矢報いる事ができる。
傷付けられた味方の仇を取ることができる。
ここで手を離しさえすれば――


「…………くっ……」


それでもやはり小次郎は、霊像を前にして矢から手を放す覚悟が出来なくて……

味方が傷付けられてもまだ、自分は射つ事が出来ないのかと、己の不甲斐なさに唇を噛んだ。

小次郎の唇からは一滴の血が流れ落ちた。


悔しさ。悲しさ。やるせなさ。
そして、己自身へと情けなさ。

ありとあらゆる感情に押し潰されそうで……


「うわぁぁぁぁぁ~~~!!」


小次郎は突如として狂ったように叫びだした。

そしてついに覚悟を決めて、ギリギリと力の限り引く弓を、良兼の前に立ちはだかる霊像、高望王に向けて狙いを定めた。


瞬間――


小次郎の構える弓は勢いよく弦が切れ、切れた勢いのまま小次郎自身に襲いかかった。


「っ………」

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