244 / 285
第二幕 千紗の章
子飼の渡しの合戦③
しおりを挟む
「か、構うことたぁねぇ! 将門、討て!! 戦に神輿を持ち出すなど、奴等がしている事の方が余程神や先祖への冒涜だ! 神仏祟りがあるとしたら、それは絶対にあいつらの方に決まってる!」
誰もが絶望する中、ただ一人、玄明だけは戸惑いながらも、必死に虚勢をはっていた。
何度も何度も、小次郎に向かって敵に矢をいかけるよう訴え続ける。
だが、玄明の訴えも虚しく、やはり小次郎は、どうしても躊躇いを隠しきれなかった。
弓を構える手が震えるのだ。
その間にも敵軍は川を渡り、小次郎軍に迫り来る。
「もたもたすんな! 射て! 射つんだ将門っ!!」
「……………」
射てと叫ぶ玄明。
「ふはははは。どうだみたか! 手も足も出ないだろう小次郎!この平氏一門の正式な棟梁であり、上総介でもあるわしを怒らせた事、後悔させてくれるわ!!」
決して射てぬと高を括り、高笑いを浮かべ、進軍を続ける良兼。
この窮地を一変させるには、自らが模範となって敵を攻めなければならない。
弓を構えながら、そう何度も自分自身に言い聞かせる小次郎。
だがやはり神に向かって、ましてや自身を可愛がってくれた祖父に向かって矢を射る覚悟などできなくて……
いったいこの状況、どうすべきなのだろ?
どうしたら良いのだろうか?
追い詰められながら自問自答を繰り返す小次郎。
その隙に、距離を縮めた良兼軍は、小次郎軍目掛けて大量の矢をいかけた。
何も手を出せぬまま、良兼軍から一方的に放たれた矢は、小次郎軍のあちらこちらから苦しげな叫び声を上げさせた。
「っ!やめろっ!やめろっ………やめてくれ~~~~っ!!」
味方の悲鳴に小次郎の弓を引く手に思わず力が籠もめられる。
怒りに任せて力一杯引かれた弓は、限界を訴えるギリギリと音を鳴らす。
今手を離せば、確実に敵に一矢報いる事ができる。
傷付けられた味方の仇を取ることができる。
ここで手を離しさえすれば――
「…………くっ……」
それでもやはり小次郎は、霊像を前にして矢から手を放す覚悟が出来なくて……
味方が傷付けられてもまだ、自分は射つ事が出来ないのかと、己の不甲斐なさに唇を噛んだ。
小次郎の唇からは一滴の血が流れ落ちた。
悔しさ。悲しさ。やるせなさ。
そして、己自身へと情けなさ。
ありとあらゆる感情に押し潰されそうで……
「うわぁぁぁぁぁ~~~!!」
小次郎は突如として狂ったように叫びだした。
そしてついに覚悟を決めて、ギリギリと力の限り引く弓を、良兼の前に立ちはだかる霊像、高望王に向けて狙いを定めた。
瞬間――
小次郎の構える弓は勢いよく弦が切れ、切れた勢いのまま小次郎自身に襲いかかった。
「っ………」
誰もが絶望する中、ただ一人、玄明だけは戸惑いながらも、必死に虚勢をはっていた。
何度も何度も、小次郎に向かって敵に矢をいかけるよう訴え続ける。
だが、玄明の訴えも虚しく、やはり小次郎は、どうしても躊躇いを隠しきれなかった。
弓を構える手が震えるのだ。
その間にも敵軍は川を渡り、小次郎軍に迫り来る。
「もたもたすんな! 射て! 射つんだ将門っ!!」
「……………」
射てと叫ぶ玄明。
「ふはははは。どうだみたか! 手も足も出ないだろう小次郎!この平氏一門の正式な棟梁であり、上総介でもあるわしを怒らせた事、後悔させてくれるわ!!」
決して射てぬと高を括り、高笑いを浮かべ、進軍を続ける良兼。
この窮地を一変させるには、自らが模範となって敵を攻めなければならない。
弓を構えながら、そう何度も自分自身に言い聞かせる小次郎。
だがやはり神に向かって、ましてや自身を可愛がってくれた祖父に向かって矢を射る覚悟などできなくて……
いったいこの状況、どうすべきなのだろ?
どうしたら良いのだろうか?
追い詰められながら自問自答を繰り返す小次郎。
その隙に、距離を縮めた良兼軍は、小次郎軍目掛けて大量の矢をいかけた。
何も手を出せぬまま、良兼軍から一方的に放たれた矢は、小次郎軍のあちらこちらから苦しげな叫び声を上げさせた。
「っ!やめろっ!やめろっ………やめてくれ~~~~っ!!」
味方の悲鳴に小次郎の弓を引く手に思わず力が籠もめられる。
怒りに任せて力一杯引かれた弓は、限界を訴えるギリギリと音を鳴らす。
今手を離せば、確実に敵に一矢報いる事ができる。
傷付けられた味方の仇を取ることができる。
ここで手を離しさえすれば――
「…………くっ……」
それでもやはり小次郎は、霊像を前にして矢から手を放す覚悟が出来なくて……
味方が傷付けられてもまだ、自分は射つ事が出来ないのかと、己の不甲斐なさに唇を噛んだ。
小次郎の唇からは一滴の血が流れ落ちた。
悔しさ。悲しさ。やるせなさ。
そして、己自身へと情けなさ。
ありとあらゆる感情に押し潰されそうで……
「うわぁぁぁぁぁ~~~!!」
小次郎は突如として狂ったように叫びだした。
そしてついに覚悟を決めて、ギリギリと力の限り引く弓を、良兼の前に立ちはだかる霊像、高望王に向けて狙いを定めた。
瞬間――
小次郎の構える弓は勢いよく弦が切れ、切れた勢いのまま小次郎自身に襲いかかった。
「っ………」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

金蝶の武者
ポテ吉
歴史・時代
時は天正十八年。
関東に覇を唱えた小田原北条氏は、関白豊臣秀吉により滅亡した。
小田原征伐に参陣していない常陸国府中大掾氏は、領地没収の危機になった。
御家存続のため、選ばれたのは当主大掾清幹の従弟三村春虎である。
「おんつぁま。いくらなんでもそったらこと、むりだっぺよ」
春虎は嘆いた。
金の揚羽の前立ての武者の奮戦記 ──
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる