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第二幕 千紗の章
子飼の渡しの合戦②
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“高望王”
それは、平氏一門の創始者であり、将門や忠輔の祖父にあたる人物だ。
「見よ、小次郎!ここにあるは我が平氏一門の祖、高望王をお奉りする神輿なるぞ! 我らが祖を射ると言う事、これすなわち平氏一門にあだなす反逆者なり。神を奉る神輿を射ると言う事、これ即ち神への冒涜なり。小次郎、お前は祖父であり、我が一門の守り神でもあらせられる高望王を射る事が出来るのか?!」
良兼は、生前の高望王を象った霊像を、神輿の如く担ぎ上げ、霊像を盾に小次郎軍を挑発した。
「くっ…………」
思いもよらなかった敵の奇策に、小次郎はただただ戸惑う事しかできなかった。
「…………こ………こんの…………卑怯者がぁ!!戦に神仏を持ち込むなんて、それこそ神への冒涜じゃねぇか!!」
その時、小次郎の気持ちを代弁するかのように、隣に立つ玄明が、額に幾重もの血管を浮き立たせながら、誰よりも先に怒りの声をあげる。
玄明がキレるのも無理はない。
この時代、神仏への信仰心は令和を生きる現代人とは比べものにならない程に熱く、神仏が招く祟りを本気で信じていた時代。
彼等は流行り病や自然災害、それら全てが神や怨霊の招く事象なのだと、心の底から信じて疑わなかったのだから。
神に背く事の出来る人間など、この時代の日本にいようはずもない。
そんな神仏への信仰心を良兼達は戦場に利用し、将門軍が決して手出し出来ぬよう心理的に追い込んだのだ。
神が宿りし神輿に……
しかも祖父を象った霊像に……
どうして矢など射てるはずがない。
玄明が怒る理由はそれだけではなかった。
どこから持ち出してきたかは知らないが、平氏の祖である高望王の霊像を掲げていると言う事、それ即ち良兼こそが一門の正義であり、小次郎は平氏一門にあだなす反逆者、悪であると、周囲に示したも同然だったからだ。
良兼の卑怯なまでの奇策によって、完全に小次郎側は正統性を失い、まんまと反逆者にしたてあげられてしまったのだ。
突然、何の前触れもなく反逆者の汚名を着せられてしまった今、小次郎軍の士気が保ってられようか。
いや、保てるはずはない。
戸惑いや不安、神仏や先祖に対する恐れ、罪悪感、様々な動揺が一気に小次郎軍を襲った。
____________________
●神輿
神霊を外へ連れ出す際に、一時的に鎮まるとされる乗りもの
それは、平氏一門の創始者であり、将門や忠輔の祖父にあたる人物だ。
「見よ、小次郎!ここにあるは我が平氏一門の祖、高望王をお奉りする神輿なるぞ! 我らが祖を射ると言う事、これすなわち平氏一門にあだなす反逆者なり。神を奉る神輿を射ると言う事、これ即ち神への冒涜なり。小次郎、お前は祖父であり、我が一門の守り神でもあらせられる高望王を射る事が出来るのか?!」
良兼は、生前の高望王を象った霊像を、神輿の如く担ぎ上げ、霊像を盾に小次郎軍を挑発した。
「くっ…………」
思いもよらなかった敵の奇策に、小次郎はただただ戸惑う事しかできなかった。
「…………こ………こんの…………卑怯者がぁ!!戦に神仏を持ち込むなんて、それこそ神への冒涜じゃねぇか!!」
その時、小次郎の気持ちを代弁するかのように、隣に立つ玄明が、額に幾重もの血管を浮き立たせながら、誰よりも先に怒りの声をあげる。
玄明がキレるのも無理はない。
この時代、神仏への信仰心は令和を生きる現代人とは比べものにならない程に熱く、神仏が招く祟りを本気で信じていた時代。
彼等は流行り病や自然災害、それら全てが神や怨霊の招く事象なのだと、心の底から信じて疑わなかったのだから。
神に背く事の出来る人間など、この時代の日本にいようはずもない。
そんな神仏への信仰心を良兼達は戦場に利用し、将門軍が決して手出し出来ぬよう心理的に追い込んだのだ。
神が宿りし神輿に……
しかも祖父を象った霊像に……
どうして矢など射てるはずがない。
玄明が怒る理由はそれだけではなかった。
どこから持ち出してきたかは知らないが、平氏の祖である高望王の霊像を掲げていると言う事、それ即ち良兼こそが一門の正義であり、小次郎は平氏一門にあだなす反逆者、悪であると、周囲に示したも同然だったからだ。
良兼の卑怯なまでの奇策によって、完全に小次郎側は正統性を失い、まんまと反逆者にしたてあげられてしまったのだ。
突然、何の前触れもなく反逆者の汚名を着せられてしまった今、小次郎軍の士気が保ってられようか。
いや、保てるはずはない。
戸惑いや不安、神仏や先祖に対する恐れ、罪悪感、様々な動揺が一気に小次郎軍を襲った。
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●神輿
神霊を外へ連れ出す際に、一時的に鎮まるとされる乗りもの
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