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第二幕 千紗の章
子飼の渡しの合戦
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その頃、良兼軍では――
「えぇい。あれはまだか? まだ来ないのか?!」
「兄者、早く、早くしないと。小次郎に先に仕掛けられたらこの戦、勝てるかどうか……」
小次郎にいつ攻めいられるかそわそわしながら、何かの到着を待っている様子。
どうやら良兼が言うあれが来ないから、手を出したくても出せずにいるようだ。
「分かっておる!お前なんぞに急かされぬとて分かっておるわ良正!! とにかく、こちらの焦りが向こうに漏れぬよう、最大限の睨みをきかせておけ! そう先頭部隊へ伝えよ!」
苛立ちを抑えられない良兼は、ギリギリと歯軋りしながら乱暴な口調で、弟良正と、彼が引き連れる部下達に命じた。
「お、仰せの通りに!」
主の兄であり、上総国で2番目に権力をもつ上総介でもある良兼から、八つ当たりの如く向けられた苛立ちに、良正の部下達は恐れおののきながら逃げるように先頭部隊へと駆け込んで行く。
それから更にお互い何の動きも見せないまま時間だけが無駄に流れて行き、夏の空に沈む夕陽が辺りを真っ赤に染める終わる頃――
流石に時を稼ぐのも、もう限界に感じられたその時、ついに良兼が待ちわびていたあるものが到着する。
「ご報告いたします! 只今、神輿部隊が到着いたしました」
「よし、 ようやっと来たか! 待ちわびたぞ! これにて進軍を開始する!者共、わしの後へ続けぇ!」
先の戦では隊列の中腹に紛れ、己の前後を強固に守らせていた良兼が、此度は勇ましくも先頭に躍り出て、出陣を命じた。
良兼の号令に、良兼軍の兵士達からは、待ちわびたとばかりに「おぉぉぉー!!」と、雄叫びが上がる。
「っ! 来る……」
川向こうの敵陣から、腹に響く重低音が響き渡ると、小次郎はすっくと立ち上がり、背負っていた矢を一本手に取った。
突然の雄叫びと、それまでじっと敵の動きを観察していた小次郎が弓を構えた事で、小次郎軍に緊張が走る。
「いいか!まずは敵を引き付ける。俺が矢を放ったら、それが合図だ。合図をしたら皆一斉に弓を放て!」
敵軍の雄叫びに若干の怯えを見せる味方の兵士達。
狼狽える彼らの統率を図ろう小次郎は勇ましく叫んだ。
その後で、ゆっくりと弓を引き、敵軍に向かって狙いを定める。
だが、進軍を続ける敵軍。その先頭に良兼が躍り出た瞬間、小次郎から一気に勇ましさが消えた。
「っ?!」
目を見開いて、声にならない驚きを漏らす。
それは小次郎だけに留まらず、小次郎軍の兵士達は皆、良兼軍が掲げるあるものに驚き、どよめきが巻き起こった。
「おいおいおい、なんだよ、あれはっ!」
玄明からも驚きと困惑の声が上がる。
「将門様、もしやあれは……」
忠輔もまた、顔を真っ青に染めながら、震える声で呟いた。
そして、消え入りそうな程小さな声で小次郎が答えた。
「……高望王……」と――
「えぇい。あれはまだか? まだ来ないのか?!」
「兄者、早く、早くしないと。小次郎に先に仕掛けられたらこの戦、勝てるかどうか……」
小次郎にいつ攻めいられるかそわそわしながら、何かの到着を待っている様子。
どうやら良兼が言うあれが来ないから、手を出したくても出せずにいるようだ。
「分かっておる!お前なんぞに急かされぬとて分かっておるわ良正!! とにかく、こちらの焦りが向こうに漏れぬよう、最大限の睨みをきかせておけ! そう先頭部隊へ伝えよ!」
苛立ちを抑えられない良兼は、ギリギリと歯軋りしながら乱暴な口調で、弟良正と、彼が引き連れる部下達に命じた。
「お、仰せの通りに!」
主の兄であり、上総国で2番目に権力をもつ上総介でもある良兼から、八つ当たりの如く向けられた苛立ちに、良正の部下達は恐れおののきながら逃げるように先頭部隊へと駆け込んで行く。
それから更にお互い何の動きも見せないまま時間だけが無駄に流れて行き、夏の空に沈む夕陽が辺りを真っ赤に染める終わる頃――
流石に時を稼ぐのも、もう限界に感じられたその時、ついに良兼が待ちわびていたあるものが到着する。
「ご報告いたします! 只今、神輿部隊が到着いたしました」
「よし、 ようやっと来たか! 待ちわびたぞ! これにて進軍を開始する!者共、わしの後へ続けぇ!」
先の戦では隊列の中腹に紛れ、己の前後を強固に守らせていた良兼が、此度は勇ましくも先頭に躍り出て、出陣を命じた。
良兼の号令に、良兼軍の兵士達からは、待ちわびたとばかりに「おぉぉぉー!!」と、雄叫びが上がる。
「っ! 来る……」
川向こうの敵陣から、腹に響く重低音が響き渡ると、小次郎はすっくと立ち上がり、背負っていた矢を一本手に取った。
突然の雄叫びと、それまでじっと敵の動きを観察していた小次郎が弓を構えた事で、小次郎軍に緊張が走る。
「いいか!まずは敵を引き付ける。俺が矢を放ったら、それが合図だ。合図をしたら皆一斉に弓を放て!」
敵軍の雄叫びに若干の怯えを見せる味方の兵士達。
狼狽える彼らの統率を図ろう小次郎は勇ましく叫んだ。
その後で、ゆっくりと弓を引き、敵軍に向かって狙いを定める。
だが、進軍を続ける敵軍。その先頭に良兼が躍り出た瞬間、小次郎から一気に勇ましさが消えた。
「っ?!」
目を見開いて、声にならない驚きを漏らす。
それは小次郎だけに留まらず、小次郎軍の兵士達は皆、良兼軍が掲げるあるものに驚き、どよめきが巻き起こった。
「おいおいおい、なんだよ、あれはっ!」
玄明からも驚きと困惑の声が上がる。
「将門様、もしやあれは……」
忠輔もまた、顔を真っ青に染めながら、震える声で呟いた。
そして、消え入りそうな程小さな声で小次郎が答えた。
「……高望王……」と――
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