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第二幕 千紗の章
懐かしき来訪者
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「お、来たな兄貴~」
身支度を終え、客間へとやって来た小次郎に気付いて、四郎が待ってましたとばかりに声を掛ける。
四郎の前には線の細い印象の見慣れぬ男が座っていて、すぐに彼が客人だと分かった。
客人の男は、四郎の呼び掛けに座したまま、くるりと体ごと小次郎の方へと向けると、深々と頭を下げて言った。
「将門殿、ご無沙汰しております」と。
その後上げた顔には爽やかな笑顔を浮かべられ、目鼻立ちの整った綺麗な顔立ちも相まってか、小次郎の目には彼が汚れを知らない好青年に写って見えた。
体の線の細さといい、幼さの残る顔立ちと言い、歳はまだ若そうだ。
四郎と同じか、もしくは少し下と言った所だろうか。
だが「ご無沙汰」と言うわりには、見覚えのない青年に、小次郎は内心首を傾げていた。
「今日はよくお越しいただいた。えぇと……」
客人の名をまだ聞いていなかった小次郎は、名前を求めるべく言葉を止める。
客人の男は、一瞬はっとした顔をした後、慌てて頭を下げ言った。
「こ、これは、自己紹介が遅れて申し訳ございません。私の名は忠輔。平良文の子、平忠輔にございます」
青年の名乗った名に、小次郎の脳裏にはある一人の童子の姿が甦った。
母の背に隠れて、もじもじしていた恥ずかしがりやの童子の姿が。
「忠輔殿?! 本当にそなたが忠輔殿? これは驚いた。もうこんな立派な男子になられていたのか。最後にそなたに会ったのは、いつだったか。まだ母君に甘え盛りの幼子だったと思うが」
「はい。私が、五つの頃にございます」
「今は、いくつになった?」
「今年で二十歳になりました。今は元服も終え、陸奥国の国司として家を空けている父に代わり、父の領地の一部である相模国の村岡の地を守っておりまする」
「そうかそうか。あの恥ずかしがりやで甘えん坊の平輔殿が本当に立派になられて。良文伯父上は、元気にしてしているか?」
「はい。朝廷より賜りし相模国の賊退治の任がやっと落ち着いたと思ったら、今度は板東よりも更に東の地で相変わらずの賊討伐に暴れまわっておりまする」
「そうか、お元気そうで何よりだ」
忠輔の話に、小次郎は穏やかに微笑んだ。
平良文。
彼は将門の父、良将の弟。
ただ、良将達他の兄弟とは母が違う異母兄弟だ。
故に、兄弟の中では一人浮いた存在であり、あまり会う機会もなかった伯父だった。
と言うのも、祖父平高望が下総の国司の任を受け、板東へ下向した際、異母兄弟であった良文だけは京へ残ったと聞いた。
その後は先の醍醐帝より相模国な賊討伐の勅命を受け、兄弟から遅れながらも板東へ下向してきたそうだが、彼が居を構えた相模国が小次郎が住む下総から少し離れた地である事もあり、なかなか顔を合わせる機会には巡り会わなかった。
彼の子である忠輔とも、幼い頃に2、3度会った事がある程度。
そんな彼が、何故突然に自分を訪ねて来たのだろうか?
新たに沸いた疑問に、小次郎は再び首を傾げていた。
____________________________
●陸奥国
現在の青森、岩手、宮城、福島、秋田北東部を指す。
●相模国村岡の地
現在の神奈川県藤沢地区村岡
●相模国
現在の神奈川県のうち川崎市・横浜市を除いた地域
●武蔵国
現在の東京都と埼玉県、そして神奈川の川崎市と横浜市にあたら地域
身支度を終え、客間へとやって来た小次郎に気付いて、四郎が待ってましたとばかりに声を掛ける。
四郎の前には線の細い印象の見慣れぬ男が座っていて、すぐに彼が客人だと分かった。
客人の男は、四郎の呼び掛けに座したまま、くるりと体ごと小次郎の方へと向けると、深々と頭を下げて言った。
「将門殿、ご無沙汰しております」と。
その後上げた顔には爽やかな笑顔を浮かべられ、目鼻立ちの整った綺麗な顔立ちも相まってか、小次郎の目には彼が汚れを知らない好青年に写って見えた。
体の線の細さといい、幼さの残る顔立ちと言い、歳はまだ若そうだ。
四郎と同じか、もしくは少し下と言った所だろうか。
だが「ご無沙汰」と言うわりには、見覚えのない青年に、小次郎は内心首を傾げていた。
「今日はよくお越しいただいた。えぇと……」
客人の名をまだ聞いていなかった小次郎は、名前を求めるべく言葉を止める。
客人の男は、一瞬はっとした顔をした後、慌てて頭を下げ言った。
「こ、これは、自己紹介が遅れて申し訳ございません。私の名は忠輔。平良文の子、平忠輔にございます」
青年の名乗った名に、小次郎の脳裏にはある一人の童子の姿が甦った。
母の背に隠れて、もじもじしていた恥ずかしがりやの童子の姿が。
「忠輔殿?! 本当にそなたが忠輔殿? これは驚いた。もうこんな立派な男子になられていたのか。最後にそなたに会ったのは、いつだったか。まだ母君に甘え盛りの幼子だったと思うが」
「はい。私が、五つの頃にございます」
「今は、いくつになった?」
「今年で二十歳になりました。今は元服も終え、陸奥国の国司として家を空けている父に代わり、父の領地の一部である相模国の村岡の地を守っておりまする」
「そうかそうか。あの恥ずかしがりやで甘えん坊の平輔殿が本当に立派になられて。良文伯父上は、元気にしてしているか?」
「はい。朝廷より賜りし相模国の賊退治の任がやっと落ち着いたと思ったら、今度は板東よりも更に東の地で相変わらずの賊討伐に暴れまわっておりまする」
「そうか、お元気そうで何よりだ」
忠輔の話に、小次郎は穏やかに微笑んだ。
平良文。
彼は将門の父、良将の弟。
ただ、良将達他の兄弟とは母が違う異母兄弟だ。
故に、兄弟の中では一人浮いた存在であり、あまり会う機会もなかった伯父だった。
と言うのも、祖父平高望が下総の国司の任を受け、板東へ下向した際、異母兄弟であった良文だけは京へ残ったと聞いた。
その後は先の醍醐帝より相模国な賊討伐の勅命を受け、兄弟から遅れながらも板東へ下向してきたそうだが、彼が居を構えた相模国が小次郎が住む下総から少し離れた地である事もあり、なかなか顔を合わせる機会には巡り会わなかった。
彼の子である忠輔とも、幼い頃に2、3度会った事がある程度。
そんな彼が、何故突然に自分を訪ねて来たのだろうか?
新たに沸いた疑問に、小次郎は再び首を傾げていた。
____________________________
●陸奥国
現在の青森、岩手、宮城、福島、秋田北東部を指す。
●相模国村岡の地
現在の神奈川県藤沢地区村岡
●相模国
現在の神奈川県のうち川崎市・横浜市を除いた地域
●武蔵国
現在の東京都と埼玉県、そして神奈川の川崎市と横浜市にあたら地域
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