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第二幕 千紗の章
密会
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その頃――
朱雀帝に千紗の部屋から追い出された後、キヨとヒナ、そして成明の3人は、各々自分達の部屋へと戻ってきていた。
三人は三人共に千紗と朱雀帝の事を心配しながらも、結局は何もできる事はなく、もやもやした気持ちのまま三人もまた床についていた。
そして、更に夜は深まり、屋敷中の皆が寝静まったであろう夜半時――
一人足音を忍ばせて、寝間着のまま床を抜け出すヒナの姿があった。
ヒナは、侍女達に与えられた部屋を抜け出して、そのままの足で内裏もこっそりと抜け出す。
そして、更に大内裏をも抜け出すべく、大内裏と外の世界とを隔てている大門、朱雀門を目指し闇夜を走った。
門の近くまでくると、更に用心深げに忍び足で付近の茂みへと身を隠す。
門番を警戒しての行動だったが、幸い今日の警備は手薄なようで、唯一姿を確認できた門番は、酔っているのかグーグーと大きなイビキをたてて眠っている。
そんな門番の姿を横目に見ながら、ヒナは慣れた様子で手近な木をよじ登ると、その木をつたって6尺を少し越えようかという土壁の上に降り立った。
その際、微かにガサガサと木葉を揺らしていたらしく、突然「誰だ!」と土壁の下の方から怒気の籠った声が掛かった。
だがヒナは、その声に驚いた様子もなく、それどころか嬉しそうに顔を綻ばせると大きく両手を広げ、声の主目掛けて土壁から勢いよく外の世界へと飛び降りた。
「うわっ、馬鹿……」
飛び降りたヒナを、声の主は慌てて下で受け止める。
その勢いのままその人物は背中から倒れ込み
「あっぶないな。ったく、いつも無茶するなって言ってるだろ、ヒナ」
怒ったような呆れたような口調でヒナを叱った。
ヒナはシュンと肩を竦める。
「…………ごめ……な……さい。……あき……なり様……」
片言で謝るヒナの頭をワシャワシャと撫でてやりながら、その人物はヒナを立たせてやった。
そう、ヒナに「あきなり」と呼ばれたこの男こそが貞盛が話していた今京で噂の男、秋成その人だ。
ヒナは、たまにこうして夜中に内裏を抜け出しては、こっそりと秋成に会っていた。
内裏での千紗の様子を、秋成に報告する為に。
◇◇◇
『どうして……どうして……約束したのに……』
2ヶ月前――
朱雀帝と千紗の結婚が発表された日の夜、一人千紗を守れなかった悔しさに、己を攻め続るていた秋成。
桜の木を殴り付け、自分で自分を傷付けていた秋成の姿をすぐ側で見ていたヒナは、彼の為に何かしたい、彼の役にたちたいと強く願った。
それまで声を出す声が出来なかったヒナだったが、「秋成を守りたい」自身の中、強く芽生えた想いを何とかして伝えたくて、彼女は必死に自身の中に眠る声を絞り出した。
『……が……私……が……秋成……様の代わりに……千紗様のお側に……』
『……ヒナ? お前、声………』
『私が……千……紗……様を………お守り……します……。だから………もう……自分を……傷付ける……事は……しないで………。一人で……悲し……まないで……』
あの日をきっかけに、ヒナは片言ではあったが、ゆっくりと言葉を喋るようになっていった。
そして、その約束を果たす為、千紗の世話役として千紗の後を追って、キヨと共に内裏へ入ったのだ。
そして、内裏での千紗の様子や、内裏の中の様子、千紗に関わるあらゆる事柄を、一目を盗んでは、こうして秋成の元へと報告に来ていた。
来るべき、いつかの為に――
朱雀帝に千紗の部屋から追い出された後、キヨとヒナ、そして成明の3人は、各々自分達の部屋へと戻ってきていた。
三人は三人共に千紗と朱雀帝の事を心配しながらも、結局は何もできる事はなく、もやもやした気持ちのまま三人もまた床についていた。
そして、更に夜は深まり、屋敷中の皆が寝静まったであろう夜半時――
一人足音を忍ばせて、寝間着のまま床を抜け出すヒナの姿があった。
ヒナは、侍女達に与えられた部屋を抜け出して、そのままの足で内裏もこっそりと抜け出す。
そして、更に大内裏をも抜け出すべく、大内裏と外の世界とを隔てている大門、朱雀門を目指し闇夜を走った。
門の近くまでくると、更に用心深げに忍び足で付近の茂みへと身を隠す。
門番を警戒しての行動だったが、幸い今日の警備は手薄なようで、唯一姿を確認できた門番は、酔っているのかグーグーと大きなイビキをたてて眠っている。
そんな門番の姿を横目に見ながら、ヒナは慣れた様子で手近な木をよじ登ると、その木をつたって6尺を少し越えようかという土壁の上に降り立った。
その際、微かにガサガサと木葉を揺らしていたらしく、突然「誰だ!」と土壁の下の方から怒気の籠った声が掛かった。
だがヒナは、その声に驚いた様子もなく、それどころか嬉しそうに顔を綻ばせると大きく両手を広げ、声の主目掛けて土壁から勢いよく外の世界へと飛び降りた。
「うわっ、馬鹿……」
飛び降りたヒナを、声の主は慌てて下で受け止める。
その勢いのままその人物は背中から倒れ込み
「あっぶないな。ったく、いつも無茶するなって言ってるだろ、ヒナ」
怒ったような呆れたような口調でヒナを叱った。
ヒナはシュンと肩を竦める。
「…………ごめ……な……さい。……あき……なり様……」
片言で謝るヒナの頭をワシャワシャと撫でてやりながら、その人物はヒナを立たせてやった。
そう、ヒナに「あきなり」と呼ばれたこの男こそが貞盛が話していた今京で噂の男、秋成その人だ。
ヒナは、たまにこうして夜中に内裏を抜け出しては、こっそりと秋成に会っていた。
内裏での千紗の様子を、秋成に報告する為に。
◇◇◇
『どうして……どうして……約束したのに……』
2ヶ月前――
朱雀帝と千紗の結婚が発表された日の夜、一人千紗を守れなかった悔しさに、己を攻め続るていた秋成。
桜の木を殴り付け、自分で自分を傷付けていた秋成の姿をすぐ側で見ていたヒナは、彼の為に何かしたい、彼の役にたちたいと強く願った。
それまで声を出す声が出来なかったヒナだったが、「秋成を守りたい」自身の中、強く芽生えた想いを何とかして伝えたくて、彼女は必死に自身の中に眠る声を絞り出した。
『……が……私……が……秋成……様の代わりに……千紗様のお側に……』
『……ヒナ? お前、声………』
『私が……千……紗……様を………お守り……します……。だから………もう……自分を……傷付ける……事は……しないで………。一人で……悲し……まないで……』
あの日をきっかけに、ヒナは片言ではあったが、ゆっくりと言葉を喋るようになっていった。
そして、その約束を果たす為、千紗の世話役として千紗の後を追って、キヨと共に内裏へ入ったのだ。
そして、内裏での千紗の様子や、内裏の中の様子、千紗に関わるあらゆる事柄を、一目を盗んでは、こうして秋成の元へと報告に来ていた。
来るべき、いつかの為に――
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