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第二幕 千紗の章
主への一途な想い
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――『俺の、姫様への忠義を断ち切る事は、何ものにも敵わない。 何があろうと、俺は姫様のお側を離れはしません』――
千紗は懐に忍ばせていたあるものを取り出す。
と、ゆっくりと視線をそれに落とした。
――『………これは?』
『この社の御神木。梛の木の葉です。梛の葉は、゙苦難をなぎ倒してくれる゙。そう信じられているんですよ』
『………そうなのか』
『はい。きっとこの葉が姫様の厄を、不安を、なぎ倒してくれる事でしょう。それから……この葉をよく見てみてください。葉の脈が横ではなく縦についているでしょ?この葉を引き千切ろうとすると……』
『……千切れない』
『はい。どんなに力を入れようと、決してひきさく事は敵わない。これを、姫様と交わした約束の証に』――
それは、約束の証しにと、秋成がくれた梛の葉だ。
貞盛の話に、千紗は思った。秋成はあの時の約束を、今も一途に守ろうとしてくれているのだと。
なのに自分は、秋成に黙って彼の元を離れる事を決めた。彼との約束を自ら違えた。
それなのに……こんな自分を秋成は今も待っていてくれているなんて……
秋成の行動を嬉しいと思う反面、後ろめたさや申し訳なさ、そんな様々な感情に襲われて、千紗の目にはボロボロと涙が溢れ出した。
そんな彼女の動揺をすぐ隣で感じ、朱雀帝もまた複雑に顔を歪めていた。
「雨の日も、日差しの厳しい日も、変わらず彼は朱雀門の前に立っているのだそうですよ。その千紗姫様への忠誠ぶりには、貴族達ですら感心するものであり、同時に同情するものだとか」
「……」
「いかがでしょうか千紗姫様。ここらで一つ、彼の従者としての任を解いて差し上げたら?」
「…………っ!」
貞盛が語る秋成の様子に、千紗はいても立ってもいられなくなって、今にも秋成の元へと走りだしそうな勢いで立ち上がった。
「千紗っ!」
だが慌てて朱雀帝が強い口調で名を呼ぶと、ギュッと彼女の手を掴んだ。
眉間に皺を寄せ、きつく睨み付けるような、それでいて悲しみの見え隠れする複雑な表情で彼女を見上げる。
「……………」
まるで「行かせない」とでも言うような痛いほどの眼差しに、千紗は迷い固まる。
「……ひらを、忠平をここへ呼べ。奴に秋成を説得させる。
……だから………だから千紗姫、貴方は何も心配する必要などない。この件は、私と忠平に任ておいてくれ。頼む……頼むから……」
千紗の手を握る朱雀帝の手に、更なる力が加えられる。
まるで戒めのようなその力に、千紗は諦めたように再び腰を下ろした。
朱雀帝はほっとした様子で千紗の肩を抱いた。
「も、申し訳ございません。私ごときが余計な進言をしてしまったようで。ご無礼をお許しください」
「いや、良い。よく知らせてくれたな。また何かあったら報告してくれ。臣として今後のお主の働き、期待しておるぞ、貞盛」
「帝直々にそのような御言葉を頂けるとは。この太郎貞盛、光栄の極み。必ずや帝のお役に立てますよう、精進いたします」
貞盛はそれはそれは嬉しそうに笑顔を深めながら、深々と頭を下げて見せた後、二人の元を後にした。
千紗は懐に忍ばせていたあるものを取り出す。
と、ゆっくりと視線をそれに落とした。
――『………これは?』
『この社の御神木。梛の木の葉です。梛の葉は、゙苦難をなぎ倒してくれる゙。そう信じられているんですよ』
『………そうなのか』
『はい。きっとこの葉が姫様の厄を、不安を、なぎ倒してくれる事でしょう。それから……この葉をよく見てみてください。葉の脈が横ではなく縦についているでしょ?この葉を引き千切ろうとすると……』
『……千切れない』
『はい。どんなに力を入れようと、決してひきさく事は敵わない。これを、姫様と交わした約束の証に』――
それは、約束の証しにと、秋成がくれた梛の葉だ。
貞盛の話に、千紗は思った。秋成はあの時の約束を、今も一途に守ろうとしてくれているのだと。
なのに自分は、秋成に黙って彼の元を離れる事を決めた。彼との約束を自ら違えた。
それなのに……こんな自分を秋成は今も待っていてくれているなんて……
秋成の行動を嬉しいと思う反面、後ろめたさや申し訳なさ、そんな様々な感情に襲われて、千紗の目にはボロボロと涙が溢れ出した。
そんな彼女の動揺をすぐ隣で感じ、朱雀帝もまた複雑に顔を歪めていた。
「雨の日も、日差しの厳しい日も、変わらず彼は朱雀門の前に立っているのだそうですよ。その千紗姫様への忠誠ぶりには、貴族達ですら感心するものであり、同時に同情するものだとか」
「……」
「いかがでしょうか千紗姫様。ここらで一つ、彼の従者としての任を解いて差し上げたら?」
「…………っ!」
貞盛が語る秋成の様子に、千紗はいても立ってもいられなくなって、今にも秋成の元へと走りだしそうな勢いで立ち上がった。
「千紗っ!」
だが慌てて朱雀帝が強い口調で名を呼ぶと、ギュッと彼女の手を掴んだ。
眉間に皺を寄せ、きつく睨み付けるような、それでいて悲しみの見え隠れする複雑な表情で彼女を見上げる。
「……………」
まるで「行かせない」とでも言うような痛いほどの眼差しに、千紗は迷い固まる。
「……ひらを、忠平をここへ呼べ。奴に秋成を説得させる。
……だから………だから千紗姫、貴方は何も心配する必要などない。この件は、私と忠平に任ておいてくれ。頼む……頼むから……」
千紗の手を握る朱雀帝の手に、更なる力が加えられる。
まるで戒めのようなその力に、千紗は諦めたように再び腰を下ろした。
朱雀帝はほっとした様子で千紗の肩を抱いた。
「も、申し訳ございません。私ごときが余計な進言をしてしまったようで。ご無礼をお許しください」
「いや、良い。よく知らせてくれたな。また何かあったら報告してくれ。臣として今後のお主の働き、期待しておるぞ、貞盛」
「帝直々にそのような御言葉を頂けるとは。この太郎貞盛、光栄の極み。必ずや帝のお役に立てますよう、精進いたします」
貞盛はそれはそれは嬉しそうに笑顔を深めながら、深々と頭を下げて見せた後、二人の元を後にした。
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