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第二幕 千紗の章
ある人物からの祝いの言葉
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「これはこれは、楽しそうに何を話しているのだ?」
女たちの賑やかな話し声が溢れる部屋に、一人の来客者が訪れた。
「こ、これは帝っ!」
朱雀帝の登場に、キヨが慌てて頭を下げる。
その横で千紗の顔からは一瞬にして笑顔が消えた。
「兄様~!」
キヨや千紗の反応とは対照的に、成明はと言えばトテトテと嬉しそうに兄の元へと駆け寄って行く。
ニコニコ笑顔で抱きついてきた弟の頭を撫でてやりながら、朱雀帝はキヨとヒナに向かって言った。
「お楽しみの所すまないが、千紗姫をまた少し借りても良いか?」
「……また来客か?」
朱雀帝の言葉に、千紗が問う。
「はい、噂の千紗姫様に会いしたいと」
「…………分かった、すぐ行く。ではキヨ、ヒナ、楽しい会話の腰を折ってしまってすまぬが、少し行ってくる」
「……はい。行ってらっしゃいませ」
「えぇ~、兄様も姉様も、また行ってしまうのですか?」
「すまぬな成明殿。お主と遊ぶのは今ひとたびお預けのようだ。すぐ戻ってくるから、待っていてくれ」
「……分かりました姉様。成明は良い子で大人しく待っております。だから早く戻って来て下さいね」
「うむ。すまぬな成明殿」
千紗からの謝罪にふるふると顔を横に振りながら、成明は
「行ってらっしゃい」と千紗と朱雀帝を送り出した。
キヨとヒナ、そして成明の三人に見送られながら、千紗と朱雀帝は再び紫宸殿へと戻って行く。
「……姫様……」
二人の後ろ姿を見送りながら、キヨの口から不安の籠る声が漏れ出た。
側にいた成明がキヨを見る。
彼女と、またその隣に並び座るヒナの顔にどこか不安気な表情を感じて、成明は一人首を傾げる。
「どうした、キヨ? ヒナまでそのような不安そうな顔をして?」
「い、いえ……何でもございません。ただ……ここの所、毎日ああして人前に連れ出されて……姫様のお体が心配です」
「心配するな。兄様がついている。兄様が姉様に無理をさせるはずがあるまい。何せ兄様は、本当に本当に姉様の事が大好きで、姉様の事を大切にしているのだからな」
「…………」
「姉様の入内後、姉様にこの藤坪殿を与えられたのが何よりの証拠。兄様が住まう清涼殿のすぐ隣に位置するここを住居にあてがったのは、忙しい時でも、どんな時でも、すぐに姉様に会いにこれるようにと思われての事だ。兄様は本当に姉様の事を愛してる。兄様の愛情を一心に受ける姉様が、少し羨ましいな」
「………………えぇ。そうですね」
楽しげに語る成明の横で、やはりキヨとヒナは、複雑な面持ちで千紗達が歩いていく渡り廊を見つめていた。
◆◆◆
――大内裏・紫宸殿にて
「この度は、私共の為にわざわざお越し下さいまして誠にありがとうございます」
朱雀帝に連れられ、来客が待つ紫宸殿へと通された千紗は、御簾向こうの更に向こう、白玉石が敷かれた広い庭の真ん中で、深々と頭を下げる人物に対して礼の言葉を述べた。
座している場所からするに、あまり身分の高くはない人物なのだろう。
だが、身分の上下に関わらず丁寧な対応をした千紗に対し、その人物はどこか馴れ馴れしく、そしてどこか小馬鹿にしたような物言いで言葉を返した。
「これはこれは、噂通りしおらしい姫ぎみになられて」
どこか聞き覚えのあるその声に、千紗は御簾向こうへと目を凝らして見れば、千紗の視線を感じたのか、その人物はゆっくりと顔を上げて見せた。
御簾越しに視線が絡んだその人物は――
平太郎貞盛。
将門の従兄弟、その人だった。
思いもよらなかった人物の登場に、千紗は驚きはっと息を呑み込む。
女たちの賑やかな話し声が溢れる部屋に、一人の来客者が訪れた。
「こ、これは帝っ!」
朱雀帝の登場に、キヨが慌てて頭を下げる。
その横で千紗の顔からは一瞬にして笑顔が消えた。
「兄様~!」
キヨや千紗の反応とは対照的に、成明はと言えばトテトテと嬉しそうに兄の元へと駆け寄って行く。
ニコニコ笑顔で抱きついてきた弟の頭を撫でてやりながら、朱雀帝はキヨとヒナに向かって言った。
「お楽しみの所すまないが、千紗姫をまた少し借りても良いか?」
「……また来客か?」
朱雀帝の言葉に、千紗が問う。
「はい、噂の千紗姫様に会いしたいと」
「…………分かった、すぐ行く。ではキヨ、ヒナ、楽しい会話の腰を折ってしまってすまぬが、少し行ってくる」
「……はい。行ってらっしゃいませ」
「えぇ~、兄様も姉様も、また行ってしまうのですか?」
「すまぬな成明殿。お主と遊ぶのは今ひとたびお預けのようだ。すぐ戻ってくるから、待っていてくれ」
「……分かりました姉様。成明は良い子で大人しく待っております。だから早く戻って来て下さいね」
「うむ。すまぬな成明殿」
千紗からの謝罪にふるふると顔を横に振りながら、成明は
「行ってらっしゃい」と千紗と朱雀帝を送り出した。
キヨとヒナ、そして成明の三人に見送られながら、千紗と朱雀帝は再び紫宸殿へと戻って行く。
「……姫様……」
二人の後ろ姿を見送りながら、キヨの口から不安の籠る声が漏れ出た。
側にいた成明がキヨを見る。
彼女と、またその隣に並び座るヒナの顔にどこか不安気な表情を感じて、成明は一人首を傾げる。
「どうした、キヨ? ヒナまでそのような不安そうな顔をして?」
「い、いえ……何でもございません。ただ……ここの所、毎日ああして人前に連れ出されて……姫様のお体が心配です」
「心配するな。兄様がついている。兄様が姉様に無理をさせるはずがあるまい。何せ兄様は、本当に本当に姉様の事が大好きで、姉様の事を大切にしているのだからな」
「…………」
「姉様の入内後、姉様にこの藤坪殿を与えられたのが何よりの証拠。兄様が住まう清涼殿のすぐ隣に位置するここを住居にあてがったのは、忙しい時でも、どんな時でも、すぐに姉様に会いにこれるようにと思われての事だ。兄様は本当に姉様の事を愛してる。兄様の愛情を一心に受ける姉様が、少し羨ましいな」
「………………えぇ。そうですね」
楽しげに語る成明の横で、やはりキヨとヒナは、複雑な面持ちで千紗達が歩いていく渡り廊を見つめていた。
◆◆◆
――大内裏・紫宸殿にて
「この度は、私共の為にわざわざお越し下さいまして誠にありがとうございます」
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座している場所からするに、あまり身分の高くはない人物なのだろう。
だが、身分の上下に関わらず丁寧な対応をした千紗に対し、その人物はどこか馴れ馴れしく、そしてどこか小馬鹿にしたような物言いで言葉を返した。
「これはこれは、噂通りしおらしい姫ぎみになられて」
どこか聞き覚えのあるその声に、千紗は御簾向こうへと目を凝らして見れば、千紗の視線を感じたのか、その人物はゆっくりと顔を上げて見せた。
御簾越しに視線が絡んだその人物は――
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将門の従兄弟、その人だった。
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