時ノ糸～絆～

第一幕 京•帰還編

約束の証明

「離せっ！ヒナ！！」


秋成の事が心配で、様子を見に来たヒナだった。

だがヒナは、秋成の放った怒声に怯えてしまい、彼を止める事は出来なかった。

何度も、何度も殴り付ける秋成の姿を、ヒナはただ寂しげに見つめる事しか出来なかった。


「どうして！ ……どうしてっ！！ 約束したのにっ！！」


世の不条理に苛立ち、吠える秋成。


――『俺の、姫様への忠義を断ち切る事は、何ものにも敵わない。何があろうと、俺は姫様のお側を離れはしません。その梛の葉のように、俺が姫様の身に降りかかる厄をなぎはらってみせます』


板東への旅路の途中、千紗と交わした約束。

この先もずっと、あの日交わした約束を果たす為に、自分は千紗の側で千紗を守って行くものだと思っていた。

そう信じて疑わなかった。

それなのに……

突然に“変わってしまった”日常。

どうして、こんな事になってしまったのか？


「どうして……どうして……」


再び自分の口から漏れ出た言葉に、秋成はある日の千紗の言葉を思い出す。


――『どうして……人は変わってしまうのかの？』


小次郎が検非違使見習いとして忙しい日々を過ごす中、少しずつ変わって行っていた小次郎との関係に、千紗が秋成へ向け投げ掛けた問い。

だがそう問いた後、千紗は自らの力で問いの答を導き出していた。


――『人は皆、それぞれに背負う物があって、進むべき道がある。目指す物が違うのだから、変化が生じるのは当たり前。どんなに居心地がよくても、変わらずにいる事など……出来るはずもなかったのに』と。


何かを悟ったように、そう語る彼女の表情はとても寂しそうで――

秋成は彼女が導き出した答えを、頭では理解できても心のどこかでは納得出来なくて、だからあの時、寂しそうに語る彼女の姿に、秋成は心に決めた事があった。


――『そんなに急いで大人になろうとしなくて良いんじゃないか？ 無理に、物事を納得しようとしなくても。お前は、お前のままで良いんだ。お前は心のどこかではまだ願っているんじゃないのか？ 変わらずにいる事を』

『っ……』

『俺はあると思う。変わらないもの。お前が信じたいと言うのなら……俺が証明してみせてやるよ。お前が信じたかった変わらないものが、世の中にはきっとあるって事を。約束したろ？ 俺は今と変わらずお前の側でお前を守って行くって。俺とお前の間には変わらない約束がある。その約束を守り続ける事で、俺が証明してみせてやる』――



あの時誓った決意と、芽生えた使命感が秋成の心の中、熱く鮮明に蘇ってくる。