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第一幕 京•帰還編
押さえきれない怒り
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驚きと苛立ちを含んだ瞳で彼を睨み付けながら、小次郎は貞盛の語った言葉の意味を問いただす。
「本当ならば、我が父を殺し、源護殿のご子息様方を殺し、更には下野国府に火を放ったお前は、重罪人として裁かれるはずだったのだ。その罪が免れたのは、千紗姫様の存在あったからこそ」
「どういう事だ! 俺の罪は、帝の元服による恩赦だと先程――」
「それは建前。お前が罪を許された本当の理由は、お前の罪を許す代わりに、千紗姫様が帝の願いを聞き入れたからだ。妃になって欲しいと言う願いをな。千紗姫様は、お前を守る為に犠牲になったのだよ、小次郎」
「…………そんな…………そんな………………」
貞盛から聞かされた思いもよらない話に、小次郎は世の中の全てから裏切られた気分になった。
叔父を殺してしまった事は正当防衛であり、国府に火を放ってしまったのも不可抗力だった。
何もやましい気持ちからではないのだから、裁判でもきっと分かって貰えてるはずだと、そう信じていたのに……
自分の言い分は、全く聞き入れられてはいなかったと言う事か。
それどころか、それを利用して大切なものまで奪われてしまうなんて……
世の無情に、小次郎は言葉を失う。
――『心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん。
(心さえやましくなければ、ことさら神に祈らなくても、自然に神の加護があるであろう)』
まだ少年であった頃、言われなき罪で板東を追い出され、落ち込んでいた小次郎に向け順子が送ってくれた和歌。
その言葉を信じ、真面目に誠実に生きてきたつもりだったのに、その結果このような仕打ちを受けるとは……
所詮神などこの世には存在しないと言う事か?
信じ、願うだけでは人は救われないのか?
小次郎が項垂れる横で、彼に止めをさすかの如く貞盛は呟く。
「まぁ、帝にこの提案をしたのは、この私なのだがな。お前は私から全てを奪った。だから今度は私がお前の大切なものを奪ってやったのだ」
「っ! 貞盛……きさまぁ!!」
貞盛の言葉にかっとなって、小次郎は思わず貞盛に向かって拳を振り上げた。
だが、小次郎の拳は、貞盛には届かなかった。
小次郎よりほんの一瞬早く、秋成が彼を殴り付けていたから。
殴られた勢いのままその場に叩きつけられた貞盛。
秋成は、そんな貞盛の上に股がって、何度も何度も彼を殴り付けた。
「きゃ~~~っ!?」
突如始まった喧嘩に、キヨを始めとした周囲の女達から甲高い悲鳴が上がった。
「……秋成っ!待て、落ち着けっ!」
顔中腫れ上がった貞盛の姿に、このままでは貞盛を殺しかねない秋成の剣幕に、小次郎は急いで彼を羽交い締めして貞盛から引き離した。
「本当ならば、我が父を殺し、源護殿のご子息様方を殺し、更には下野国府に火を放ったお前は、重罪人として裁かれるはずだったのだ。その罪が免れたのは、千紗姫様の存在あったからこそ」
「どういう事だ! 俺の罪は、帝の元服による恩赦だと先程――」
「それは建前。お前が罪を許された本当の理由は、お前の罪を許す代わりに、千紗姫様が帝の願いを聞き入れたからだ。妃になって欲しいと言う願いをな。千紗姫様は、お前を守る為に犠牲になったのだよ、小次郎」
「…………そんな…………そんな………………」
貞盛から聞かされた思いもよらない話に、小次郎は世の中の全てから裏切られた気分になった。
叔父を殺してしまった事は正当防衛であり、国府に火を放ってしまったのも不可抗力だった。
何もやましい気持ちからではないのだから、裁判でもきっと分かって貰えてるはずだと、そう信じていたのに……
自分の言い分は、全く聞き入れられてはいなかったと言う事か。
それどころか、それを利用して大切なものまで奪われてしまうなんて……
世の無情に、小次郎は言葉を失う。
――『心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん。
(心さえやましくなければ、ことさら神に祈らなくても、自然に神の加護があるであろう)』
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その言葉を信じ、真面目に誠実に生きてきたつもりだったのに、その結果このような仕打ちを受けるとは……
所詮神などこの世には存在しないと言う事か?
信じ、願うだけでは人は救われないのか?
小次郎が項垂れる横で、彼に止めをさすかの如く貞盛は呟く。
「まぁ、帝にこの提案をしたのは、この私なのだがな。お前は私から全てを奪った。だから今度は私がお前の大切なものを奪ってやったのだ」
「っ! 貞盛……きさまぁ!!」
貞盛の言葉にかっとなって、小次郎は思わず貞盛に向かって拳を振り上げた。
だが、小次郎の拳は、貞盛には届かなかった。
小次郎よりほんの一瞬早く、秋成が彼を殴り付けていたから。
殴られた勢いのままその場に叩きつけられた貞盛。
秋成は、そんな貞盛の上に股がって、何度も何度も彼を殴り付けた。
「きゃ~~~っ!?」
突如始まった喧嘩に、キヨを始めとした周囲の女達から甲高い悲鳴が上がった。
「……秋成っ!待て、落ち着けっ!」
顔中腫れ上がった貞盛の姿に、このままでは貞盛を殺しかねない秋成の剣幕に、小次郎は急いで彼を羽交い締めして貞盛から引き離した。
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