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第一幕 京•帰還編
朱雀帝の宣言
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「さて。私からは以上となる。ここからは、帝が直々に皆に話したき事があるそうだ」
喜びも束の間、忠平はここに来て発言権を朱雀帝に譲り、自身は他の貴族達と同様簀子縁まで下がり来たかと思うと、くるりと観衆に背を向けその場に座した。
そして、これまた他の観衆達と同様に朱雀帝に向けて頭を垂れた。
そんな忠平の所作を合図に、朱雀帝の側に控えていた侍女達が2人程前へと出てきて、観衆から朱雀帝の姿を隠していた御簾をゆっくりと上げ始める。
ついに元服後、冠を被り立派な大人の仲間入りを果たした朱雀帝の姿が皆に披露された。
御簾の向こうから現れた帝の姿に、「わっ」と歓声が上がる中、小次郎はただ一人、息を飲んだ。
「っ…………」
そして我が目を疑う。
立派な高御座に座っていたのは、見覚えのある少年――
千紗に付いて坂東まで共にやって来ていた、千紗の従兄弟だと言うあの少年だったのだから。
「…………え? どういう事だ? あのチビっ子が……帝っ?!」
小次郎は、にわかには信じられなかった。
帝とは、この国を統べる者であり、この国で一番高貴なお方。自分なんかが一生お目にかかれる筈のない人で、雲の上の存在に等しい人だと思っていたから。
そのような高貴な方が、まさか自分のすぐ身近にいたとは、一体何の冗談かと、驚かずにはいられなかった。
突然突きつけられた衝撃の事実に、小次郎が一人狼狽えていると、そんな彼の様子を高御座から見ていた朱雀帝は、満足気にほくそ笑むと口角を吊り上げ微笑んでみせた。
そしてその場にゆっくりと立ち上がり、堂々とした口調で観衆の前、演説を始めた。
「此度は朕の元服を祝う宴に集まってくれ、皆感謝するぞ。実はこの宴を催すに至ったのには訳がある。皆に発表したき事柄があったからだ。元服を終え、朕も立派に大人となった。今後益々この国を背負って立つ男として、今まで以上に政務に励んで行くつもりだ。そこでこの度、朕を側で支えてくれる妻が欲しいと言う思いに至った。朕もそろそろ妃を迎え入れようと思うのだ」
朱雀帝の突然の発表に、皆がざわめき立つ。
「ぜ、是非、我が娘を妃に!」
「いやいや、我が娘こそが相応しい!」
そんな声があちらこちらから飛び交った。
「まぁ待て、皆落ち着け。実はもう既に、妃として迎える姫君は決めておるのだ。朕が后に選ぶのは――」
そこまで言って朱雀帝は一度言葉を止め、高御座から降りると、娘達が並ぶ簀子縁に向けて歩みを進め始める。そして簀子縁にずらりと並ぶきらびやかな娘達の前を、ゆっくりと品定めするかのように歩いていく。
誰が帝の目に止まるのか、娘達が色めき立つ中、宴に集まっていた全ての人間達もまた、高まる好奇心から朱雀帝の歩の進める先を息を飲んで見守った。
そして、ついに朱雀帝は一人の娘の前で歩みを止めた。
朱雀帝が立ち止まった、その前に座る娘の姿に観衆達からは驚きの声が沸き上がった。
「えっ?あのような異端の者と?」
その娘は、服装こそは豪華な十二単を着ていたが、何とも珍妙な髪型をしていたから。
元服を終えた男子の如く髪を後ろで1つに纏め、結い上げた髪を冠や頭巾で隠すでもなく、堂々と人に晒らしているのだ。
この時代、男であれど冠を人前で外し、結い上げた髪を晒す事は恥とされた時代。ましてや女であれば黒く長い髪が美しい女子の象徴とされる時代に、あのような奇天烈な髪型をした娘など、異端以外の何者でもなかった。
「あのような醜い……異端の姫を帝が? まさかそんな事が……」
「なぁに、きっと異端であゆが故に、あの娘をからかっておいでなのでしょう。帝もお戯れが過ぎる」
「あぁ、それもそうだな」
驚きから、きっとこれは帝のお戯れだと、皆が納得し始め、笑いあっていた、その時――
周囲の予想を裏切って、朱雀帝はすっとその異端の姫の前で方膝をつくと、彼女に向かって手を差し出した。
「千紗姫様。是非とも、わが后に」
朱雀帝の真っ直ぐな求婚に、周りの娘達からは黄色い悲鳴が上がり、異端の姫と嘲笑っていた貴族の男達からは驚きの悲鳴があがった。
帝から直々に求婚された、当の本人はと言えば、別段驚いた様子もなく、暫く静止した後で、冷静に皆が見守る中静かに朱雀帝の手を取った。
その手を思いきり自身の元へと引き寄せて彼女を立たせると、朱雀帝はその場にいる皆に見せびらかすように千紗と繋がれた手を高らかに翳し、宣言した。
「今日この時をもって、藤原千紗姫を我が后に迎える事を宣言する!」
喜びも束の間、忠平はここに来て発言権を朱雀帝に譲り、自身は他の貴族達と同様簀子縁まで下がり来たかと思うと、くるりと観衆に背を向けその場に座した。
そして、これまた他の観衆達と同様に朱雀帝に向けて頭を垂れた。
そんな忠平の所作を合図に、朱雀帝の側に控えていた侍女達が2人程前へと出てきて、観衆から朱雀帝の姿を隠していた御簾をゆっくりと上げ始める。
ついに元服後、冠を被り立派な大人の仲間入りを果たした朱雀帝の姿が皆に披露された。
御簾の向こうから現れた帝の姿に、「わっ」と歓声が上がる中、小次郎はただ一人、息を飲んだ。
「っ…………」
そして我が目を疑う。
立派な高御座に座っていたのは、見覚えのある少年――
千紗に付いて坂東まで共にやって来ていた、千紗の従兄弟だと言うあの少年だったのだから。
「…………え? どういう事だ? あのチビっ子が……帝っ?!」
小次郎は、にわかには信じられなかった。
帝とは、この国を統べる者であり、この国で一番高貴なお方。自分なんかが一生お目にかかれる筈のない人で、雲の上の存在に等しい人だと思っていたから。
そのような高貴な方が、まさか自分のすぐ身近にいたとは、一体何の冗談かと、驚かずにはいられなかった。
突然突きつけられた衝撃の事実に、小次郎が一人狼狽えていると、そんな彼の様子を高御座から見ていた朱雀帝は、満足気にほくそ笑むと口角を吊り上げ微笑んでみせた。
そしてその場にゆっくりと立ち上がり、堂々とした口調で観衆の前、演説を始めた。
「此度は朕の元服を祝う宴に集まってくれ、皆感謝するぞ。実はこの宴を催すに至ったのには訳がある。皆に発表したき事柄があったからだ。元服を終え、朕も立派に大人となった。今後益々この国を背負って立つ男として、今まで以上に政務に励んで行くつもりだ。そこでこの度、朕を側で支えてくれる妻が欲しいと言う思いに至った。朕もそろそろ妃を迎え入れようと思うのだ」
朱雀帝の突然の発表に、皆がざわめき立つ。
「ぜ、是非、我が娘を妃に!」
「いやいや、我が娘こそが相応しい!」
そんな声があちらこちらから飛び交った。
「まぁ待て、皆落ち着け。実はもう既に、妃として迎える姫君は決めておるのだ。朕が后に選ぶのは――」
そこまで言って朱雀帝は一度言葉を止め、高御座から降りると、娘達が並ぶ簀子縁に向けて歩みを進め始める。そして簀子縁にずらりと並ぶきらびやかな娘達の前を、ゆっくりと品定めするかのように歩いていく。
誰が帝の目に止まるのか、娘達が色めき立つ中、宴に集まっていた全ての人間達もまた、高まる好奇心から朱雀帝の歩の進める先を息を飲んで見守った。
そして、ついに朱雀帝は一人の娘の前で歩みを止めた。
朱雀帝が立ち止まった、その前に座る娘の姿に観衆達からは驚きの声が沸き上がった。
「えっ?あのような異端の者と?」
その娘は、服装こそは豪華な十二単を着ていたが、何とも珍妙な髪型をしていたから。
元服を終えた男子の如く髪を後ろで1つに纏め、結い上げた髪を冠や頭巾で隠すでもなく、堂々と人に晒らしているのだ。
この時代、男であれど冠を人前で外し、結い上げた髪を晒す事は恥とされた時代。ましてや女であれば黒く長い髪が美しい女子の象徴とされる時代に、あのような奇天烈な髪型をした娘など、異端以外の何者でもなかった。
「あのような醜い……異端の姫を帝が? まさかそんな事が……」
「なぁに、きっと異端であゆが故に、あの娘をからかっておいでなのでしょう。帝もお戯れが過ぎる」
「あぁ、それもそうだな」
驚きから、きっとこれは帝のお戯れだと、皆が納得し始め、笑いあっていた、その時――
周囲の予想を裏切って、朱雀帝はすっとその異端の姫の前で方膝をつくと、彼女に向かって手を差し出した。
「千紗姫様。是非とも、わが后に」
朱雀帝の真っ直ぐな求婚に、周りの娘達からは黄色い悲鳴が上がり、異端の姫と嘲笑っていた貴族の男達からは驚きの悲鳴があがった。
帝から直々に求婚された、当の本人はと言えば、別段驚いた様子もなく、暫く静止した後で、冷静に皆が見守る中静かに朱雀帝の手を取った。
その手を思いきり自身の元へと引き寄せて彼女を立たせると、朱雀帝はその場にいる皆に見せびらかすように千紗と繋がれた手を高らかに翳し、宣言した。
「今日この時をもって、藤原千紗姫を我が后に迎える事を宣言する!」
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