時ノ糸~絆~

汐野悠翔

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第一幕 京•帰還編

裁判の行方②

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「まず、平将門」

「はい……」

「戦において世を騒がせた罪。また、国府に火を放った罪は確かに重い。だがしかし、それは国家への反逆には非ず。お主の言い分でもあった自己防衛であった旨を認めよう。罪は在るが、大赦たいしゃによりこれを許す。今日は帝の元服を祝う宴。この判決は、帝からお主に対する恩恵だ。感謝するように」


ついに小次郎に下された判決。
それは「罪があるとしつつも、その罪を許す」と言うものだった。

それは、朱雀帝の元服の祝いにおける恩恵。つまりは、朱雀帝の情けからだと、忠平は言う。

下された判決に小次郎は安堵し、朱雀帝や忠平に向けて深く深く感謝の意を示した。


「あ、有り難き幸せ。この平小次郎将門、帝の御慈悲に感謝致します」


小次郎の言葉に、忠平は一度頷いて見せた後、今度は小次郎から向かって右手側の離れた位置に座していた平良兼と源護へと視線を向けた。


「さて、次に訴えを起こした平良兼、源護、主らに対する判決だが、お主等二人も、将門と同じ判決だ」


小次郎と同じ判決、つまりは「罪は在るが、大赦によりこれを許す」と言う事。

だが小次郎とは違い、二人はこの判決に不満顔。

それもそのはず。罪人として小次郎を裁いて欲しいと言う二人の訴えは、聞き入れられなかったと言う事なのだから。

それどころか、自分達にまで罪があると言われて、納得できるはずがなかった。


「……恐れながら申し上げます。我々にも罪があったと言うのは、どのような罪があったとおっしゃるのでしょうか?」


源護が、顔を伏せた状態のまま、納得いかないと言った様子で不満の声を上げる。
そんな彼等が滲ませる不満に忠平は威圧的に返答した。


「ほほう、あくまで身に覚えがないと申すか?」

「はい。全く身に覚えがございません」

「では解こう。そもそもこの裁判を起こすきっかけとなったそなた達の訴え、これには自分達に都合の悪い事柄を隠し、あたかも自分達には正義があり、一方的に将門に非があるかのように語られていた」

「まさか、そんなわけ」

「館を焼かれた当事者であるはずの下野国府の役人からは将門の行いを擁護する文書が届いておるのだ。お主らの言い分が真実を隠し、一方的に将門を陥れようとしていた事は火を見るより明らか。これは、公を欺くべき行為であり、謀反にも等しき行為とは思わぬか?」


忠平から受けた指摘に、護は思わず顔を上げ、慌てた様子で否定した。


「い、いいえ!滅相もございません。そのような考えは全く……私共はただっ………」

「言い訳は結構。この点はきつく叱るべき事柄だ。よくよく反省するように」

「も、申し訳……ございませんでした……」


忠平の強い口調に、良兼と護は震えあがって謝罪の言葉を口にした。

忠平から告げられた判決は、結果として小次郎も良兼も、罪は同じとしながらも、朝廷は小次郎の主張をより強く認めた形となった。

良兼達の謝罪が、それをより強く知らしめた。

その結果に改めて小次郎は安堵する。

一気に緊張がほどけ、下げた頭の下では、穏やかな微笑みが浮かべられている。

そんな小次郎とは対照的に、大衆の前で頭を下げさせられた源護と平良兼。下げ続ける顔の下では、未だ納得のいかない様子で顔を歪めていた。

宴に参加していた者達の中には、ヒソヒソと彼等の行為を嘲笑う者もいて、とんだ恥さらしとなってしまった現状に、拳を握り締め、小次郎に対する更なる怒りのマグマを沸き上がらせていた。

この裁判の後、朝廷の信頼を勝ち取った平将門の名が、先の戦にて2000の兵をたった100余りの兵で破った武勇伝と共に京中に――そして京から全国へと轟く事となって行く。

それと同時に、将門の罪を認めながらも彼の言い分も聞き入れ、寛大な措置をとった朱雀帝を、弱き者の声にも耳を傾けてくれる慈悲深く優しい天皇であると、噂するようになって行く。

この判決の裏に隠された真の事実も知らないままに――

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